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第三章
72話
しおりを挟む謁見の間は左右にいくつもの控えの部屋が並んだ廊下の先にあり、その中のひとつでクリスティア姫と合流した。
「カデル様たちのお部屋は塔の上と伺いましたが…」
「ええとても見晴らしがいいですよ。父の執務室だそうです」
俺が答えるとクリスティア姫はすこし考えるしぐさをしてから提案してきた。
「よろしければ皆様でわたくしの屋敷へいらっしゃいませんか?」
「俺たちは別にどこでも構いませんが……何かありましたか?」
「何かということはありませんが、せっかくなのでもう少し皆様と過ごしたいと思いましたの。それにアーニャたちも皆様と一緒の方が心強いと思いますし」
聞かばメリー殿とサヴィト殿は暫く客人として滞在する事になるらしい。
うちの屋敷に居た時の二人を思い出し、クリスティア姫の心配を理解した。王城になれるまでは見知った相手が居た方が手持無沙汰にもならないし、落ち着くだろう。
ラッツェもいつの間にかサヴィト殿を名前で呼ぶほど親しくなっていたし、ミードミーとメリー殿の仲もいい。
「ネストたちもクリスティア姫たちと一緒の方が喜ぶと思いますし、ぜひ俺たちが王城に滞在中の間、お邪魔させてください」
「ありがとうございます。カデル様」
クリスティア姫は白い羽の扇子を広げて口元を隠す。が、いつも通り嬉しそうに微笑んでいるだろうことはその瞳を見ればわかった。
ドレスは先ほどと同じだったが、今まで見たことのない白い羽の扇子を手にしていた。イヤリングは白い真珠が葡萄の房のようになっていて、姫の小さな耳がまるで貝殻のように美しく見える。そして髪はきちんと結い上げられ白い薔薇が一輪、飾られていた。オルトゥス王に会う為に身なりを整えてきたのだろう。
「あれ? その薔薇って」
「ええ、リベルタース伯爵家の庭園のお花です。サテンドラ様に枯れないようにしていただきましたの」
へえ、そんなことまで魔法って出来るのか。花をそのままにしておこうなんて思ったことがなかったから知らなかった。
「こちらの扇子は15歳の誕生日にいただいたお祝いのお手紙が変化したものなんですのよ」
「というと、もしかしてその真珠のイヤリングも?」
「あら、カデル様鋭いですわね。そうです。こちらは去年の誕生日にいただいたものですわ」
姫は扇子で口元を隠す淑女のたしなみはもはや諦めたのか、今までと同じく満面の笑顔で答えてくれる。緑と青の異なった瞳がきらめいていて、貰った時の嬉しさを俺も共有できた。
オルトゥス王の贈り物を律儀に身に着けるクリスティア姫の心配りはさすがだ。
あれ? でもそうすると髪飾りは貰ってないのかな? 気にはなったがさすがにそんなこと聞くのは失礼なので、俺は口にはしないことにした。
「お話中失礼いたします。クリスティア様、カデル様。王がお呼びでございます」
「いよいよですわね」
「はいっ!」
俺とクリスティア姫は高まる期待をそのままに、謁見の間に足を踏み入れた。
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