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第二章
66話
しおりを挟む朝食を終えて、サロンでくつろいだ後、昼前に王城からの迎えはやってきた。
迎えは二人。そのうちの一人、執事服に身を包み、浅黒い肌に尖った耳をした妖精族の初老の男が先に挨拶をした。
「オルトゥス王に仕えております、セルドレットと申します。王の命により皆さまをお迎えにあがりました」
俺たちに向けて一礼するその姿は一分の隙も無い。
見た目通りの初老だとすれば妖精族の寿命からしてこの人は数千歳のはずだ。そんな魔族に頭を下げられるといたたまれなくなる。
「迎えにきて頂きありがとうございます、わたくしがエスカータ国第二王女、クリスティア・ラウラ・マリカ=エスカータです」
クリスティア姫は優雅にスカートのすそを持ち上げセルドレット殿に礼をした。その隣に立つ俺も名乗り、礼をする。
「外に王が用意した馬車がございます。クリスティア姫とカデル様はそちらで王城までご案内いたします。他の方々はあちらのサイガが誘導いたします」
サイガと呼ばれた鬼人族の男が小さく頭を下げた。大柄で黒髪黒眼のサイガ殿の額には三つ角が生えていた。鬼人族は魔族の中でも数が少ないく、角の数が多いと魔力が高いと聞いた事がある。つまりサイガ殿は相当強いんじゃないだろうか。
「あの、俺はみんなと一緒ではなくクリスティア姫と同行、なんですか?」
「はい、王からそのように言われております。なにか問題でもおありですか?」
「いえ、問題というわけではないんですが、俺が姫と一緒の馬車に乗ると言うのが、その、身に余ると言うか……」
「王の命令は絶対です。それにここからの待遇はカデル様のこれまでの功績によるものとお考えいただいてよいと、仰せつかっております」
「功績?」
俺はクリスティア姫と同じ特別待遇を受けられるようなことをしただろうか?
「はい、エスカータ国を出立後すぐ王の意に反するモノ達から姫をお救いし、ウェスペルの街ではその身を挺してアルトレスト伯爵の暴挙を止めたと伺っております。場合によってはサイガが城より街へ赴かなければならないほどの事態ですが、そうせずにすみました。私からもお礼申し上げます」
セルドレット殿の言葉にそういえばトゥエッラ隊長が「城から兵を呼ぶ」と言っていたのを思い出した。
あれを功績と言われるのも微妙な気分だが、お礼を言われることを出来ていたならよかったかな。
あれ、そういえばさっきまでいたアルトレスト伯爵の姿がない。
サロンには王城からの迎えを案内してきたサテンドラと、元々サロンに居た俺とクリスティア姫とミードミーの姿しかない。ちなみに他の者達は荷造りや馬車の準備をしている。
俺はサロン内をもう一度見回して確認するとセルドレット殿に向き直った。
「そういう事でしたら、承知いたしました。あの、申し遅れましたが、アルトレスト伯爵も先ほどまでここにいらしたのですが……」
「あの方でしたら私たちが着くと同時に先に城へ向かわれました。お気になさらずとも城でまたお会いできます」
いや、どちらかというともう会わなくていいんだけど。さすがアルトレスト伯爵、行動が自由だ。もはやあの人のことを気にするのは辞めよう。うん、絶対それがいい。
その後、準備を整え終えた俺たちは王城へと向かった。
俺は王の命令通り、セルドレット殿たちが用意した馬車にクリスティア姫と乗り込む。
ついに俺は我が王とお会いできるのだ。護衛の任務を受けた時の俺なら喜びと期待で満たされていただろう。
だけど今は……。
俺の胸に飲み込んだはずのもやもやが、また浮かんできた。
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