上 下
62 / 130
第二章

58話

しおりを挟む

 ことん、と何か小さな音がした気がした。

「んー……あれ、寝てた?」

 目をこすりながらソファーから体を起こすと、目の前にミードミーとサテンドラがソファーに沈むようにスヤスヤと寝ている。俺の肩にラッツェが寄りかかって寝ていた。どうりで暖かいと思った。

 先ほどいつものハーブティーとは違い、ちょっとスパイスが効いたお茶を眠気覚ましに飲んだ。だけど何を話したらいいのか判らずみんな無言で、ラッツェすら静かにしていたから、いつの間にか全員眠ってしまったのだろう。カップはそのままテーブルに置かれている。

 俺はラッツェを起こさないようソファーに寝かせて立ち上がる。
 部屋の蝋燭ろうそくは消えていたが、そもそもこの部屋の明かりも勝手についたらしい。俺が動けば自然につくかと思ったが、部屋は薄暗いままだった。
 窓から部屋に差し込んでいるのは月の光で、どのくらい時間が経ったのか判らないけどまだ朝でないことはわかる。

 カーテンを閉めた方がみんな眠れるかな。その前にネストの様子を確認しよう。
 俺は自分が目覚めた原因をすっかり忘れつつ、ネストの寝ているベッドに近寄る。

 ベッドの下に小さな瓶が三つ落ちていた。

 さっきこんなものあったっけ?
 あれ、この瓶って……。

 俺がそれ・・に気付いた時には遅かった。

「……っ!!!」

 ものすごい力で首を掴まれ、上に持ち上げられる。
 足は絨毯じゅうたんから宙に浮いた。

 見つけた小瓶は朝、俺とミードミーが飲んだ薬が入っていたのと同じものだ。
 小瓶を拾おうとするのを待っていたのだろう。
 ネストはベッドから腕を伸ばし俺の首を締めあげればそのまま立ち上がった。

 ……知ってはいたけど、どんだけ馬鹿力なんだ。

「……ネ、スト…………」

 動けるうちに蹴りの一つや二つ入れるべきだ。
 言葉が紡げるうちに魔法を使うべきだ。
 判っているのに、どうにか引きはがそうとネストの腕をつかむことしかできない。
 苦しい、思考がまとまらなくなる。

「カデル……トライドが寂しいって泣くんだ。カデルに会いたいって……なぁどうしてあの日、おれを置いていったんだよ、おれがいれば……三人で帰って来られたかもしれないのに」

 ネストの頭は俺の視界の下にあって、表情は見えない。
 ただ、耳が下がっているから、ひどく落ち込んでいるんだって事だけはわかる。

「あに……うぇ?」
「お前もおれの知らないところで死ぬのか? それなら、おれの目の前で死んでくれ。もう、いやだ。トライドもお前を待ってる。寂しい、悲しいって、一人は嫌だって泣いてる」

 兄上が、そんなこと言うわけがない。
 でもこれはネストがそう思ってるってことで、さっきのメリー殿のように会話が出来たとしてもかたくなに否定するだけだろう。どちらにしろ今の俺では会話もできない。
 とにかくこの状態から脱しないと、さすがに、苦しい。

 ネストに殺されるわけにはいかない。

 俺にはオルトゥス王から与えられた任務もあるし、なによりこんな状態のネストを放っておけない。

「……ぐぁ!?」

 そう思うのに、さらに力を込められて首が絞まる。
 片手でこんなあっさり絞殺されるのか。
 飲み込めなくなった唾が涎のように口の端から溢れるし、苦しくて涙が出てくる。

 ……ああ、俺、死ぬのか。死にたくないのに、ここで終わるのか。

 力が抜けて、ネストの腕をつかんでいた両手がぶらりと下がる。
 抵抗なんてできないもんなんだな。
 真っ赤に染まる視界の中で、俺は馬鹿みたいに冷静にそんなことを思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

イケニエヒーロー青井くん

トマトふぁ之助
BL
悪の組織に屈した世界で、魔界へ人身御供に出されるヒーローの話 筋肉達磨怪人オーガ攻め(悪の組織幹部)×苦労人青年受け(中堅ヒーロー) ーーー 現在レッド編鋭意制作中です。まとまり次第投稿を再開いたします。 平日18時一話毎更新 更新再開日時未定

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

異世界のオークションで落札された俺は男娼となる

mamaマリナ
BL
 親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。  異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。  俺の異世界での男娼としてのお話。    ※Rは18です

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...