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第二章
51話
しおりを挟むあまり興奮させると身体を傷つけるかもしれない。ここは慎重に。
俺が言葉を選ぶ間にサヴィト殿が呼びかける。
「そんなことをしたらクリスティアが悲しむ。君をそこまで追いつめた原因がオレだと言うなら、オレが消えるから、君はクリスティアと生きてくれ。お願いだ」
「私はジークロード様とクリスティア姫に幸せになっていただきたくて、今までお仕えしてきました。それなのに、こんな、こんな魔族の国になど来なくてはならず、それも全て私がいけないのです!」
こんな魔族の国、というのはちょっと気になる言葉だが、少なくとも俺はメリー殿がウェスペルの街で俺とミードミーの為に魔族のモノたちに対応していたのもこの目で見ている。その時の様子は魔族だからと蔑んでいる様子はなかった。
「オレだって君の幸せを願っている。だから、こんな、誰も幸せにならない事はやめるんだ」
「まあ!!! アーニャっ! 危ないわ!」
必死なサヴィト殿の声に被る様に、息を切らした少女の悲鳴が響く。
到着したクリスティア姫は厨房に入ってくるとメリー殿を真っすぐ見据えた。
「クリスティア姫……! ええそうですジークロード様、誰も幸せじゃありません。私もジークロード様もクリスティア姫も、幸せには、なれないのです」
厨房入り口にはネスト、ミードミー、サテンドラの姿もある。
最悪メリー殿が負傷したら俺とサテンドラで治癒魔法を使えばいい。即死でなければサテンドラが居てくれれば対応できる。
俺は知らず強張っていた体の力を抜いた。
みんなが居るなら、大丈夫。絶対どうにか出来る。
俺はクリスティア姫が現れたことで、そちらに意識を移したメリー殿の隙を突いて移動する。ラッツェにはその場で待機するよう視線で指示して、俺はサヴィト殿が居る壁とは逆の方向からメリー殿に近づくことにした。
これで作業台を飛び越えるか、下をくぐるかされない限りは挟み撃ちできる。
「アーニャ、わたくしは今とても幸せです。大好きなジークやアーニャと毎日こうして楽しく過ごしていますもの。オルトゥス王とお話できるのも楽しみにしています。なのに、なぜアーニャはわたくしを幸せでないというのですか」
「いいのです、姫。もう私に気など使っていただかなくても……」
クリスティア姫の言葉にメリー殿の目からいくつも涙がこぼれる。
「気などつかっておりません。わたくしはただ貴女やジークが仲良くしているのを見るのが幸せで、アーニャが一緒に居てくれるだけで嬉しいのです。どうかわたくしとジークの言葉を信じてください」
「クリスティア姫、あなたはとてもお優しい。昔から、ずっと、優しく愛らしく私の自慢の姫様です。あなたのように清らかであれば、私もきっとお二人の言葉を素直に受け入れられたのでしょう」
「アーニャ……」
クリスティア姫の説得も効果がないのか、メリー殿は包丁を下ろさない。
「なあ、アーニャちゃん。本当に死にたいならこんな派手な事しないで、こっそり死ねばよかったのに」
そこに、感情の全くこもってない声が厨房に響いた。
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