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第二章
46話
しおりを挟む「うんうん、このお茶美味しいね、サテンドラの配合かぁ、それなら納得だな」
満面の笑みで金色の瞳を細め、長い足を優雅に組めばこの部屋の誰よりも偉そうに、ティシウスカーク・アルトレスト伯爵はハーブティーのカップを傾けた。
あの後、エントランスホールからその隣に設置されているサロンへ移動した。
ここは数十人の客をもてなせるようになっているんだろう。屋敷全体の天井は高く、広いサロンにはいくつもの暖炉と、数グループで利用できるようにソファーとローテーブルが複数用意されている。
「あの人お気楽な感じっすよね。結局今晩は一緒に泊まるんすか?」
「そういう事になるな」
俺は小さくため息をついてラッツェの疑問に答えた。
現在サロンでは大きく分けて二手に分かれて過ごしていた。
一つはティシウスカーク・アルトレスト伯爵を相手する班。クリスティア姫、サヴィト殿、サテンドラが対応している。
アルトレスト伯爵の正面にクリスティア姫、その隣にサテンドラが座り、クリスティア姫たちの後ろにサヴィト殿が控えている。
その様子が見える位置であり、サロンの出入りがしやすい廊下側で俺たち他の面子が待機していた。現在は休憩中なので、ソファーに座って全員でお茶を飲んでいる。
やはりメリー殿は俺たちというか、俺との同席は恐縮したが、部屋割りの説明などは一気に済ませてしまいたかったので、一緒のテーブルに座ってもらっている。
「アルトレスト伯爵は二階、西側の自分の部屋を使う。クリスティア姫は二階の東側、花嫁が使う部屋だ。隣が侍女の部屋だそうなので、メリー殿とミードミーはそこを使ってもらうか、三人とも姫の部屋を使ってもいいんじゃないかな」
「わかりました。後ほど姫と相談いたします。多分、ミードミー様含めて同じ部屋で、と言う気がいたしますが」
メリー殿はちょっと困った顔で言ったが、「噂に聞いたパジャマパーティーをしてみたい」と姫が笑顔で希望していたので姫の希望が通るだろう。それに花嫁になった後はそんなに自由な生活も出来ないだろうし、今できることはしてもらいたい。
「ぜひクリスティア姫のご希望を聞いてあげてくださいメリー殿。で、あとは俺たちがどこ使うかだ」
俺はサテンドラというより、アルトレスト伯爵から教えて貰ったこの屋敷の間取りについてラッツェたちに説明した。
この屋敷は王城へ行く者が泊まる時に使うものだ。ただ誰でも使える、というわけでもない。いわゆる要人用、というものだった。
ここを利用しない者は野宿をしたりするのが一般的らしいが、そもそも王城に用がある者がほとんどいないのでこの屋敷だけで問題はないらしい。まあ、普通の魔族であればウェスペルの森で野宿したところで大した問題じゃない。近隣諸国のヒト族への配慮と、伯爵等、貴族とよばれる魔族に対するちょっとした優遇なんだろう。
俺たち人狼族も森で野宿するのは慣れている。狩りの時はそうするし、屋敷を利用する方が諸々の準備とか必要になるから俺は手間だと思う。
さすがに今回はクリスティア姫もいるから野宿と言わた方が大変だっただろうけど。
そんなわけでこの屋敷の二階には定期的にここを使う方々の部屋がいくつか用意されていた。その中には200年に一度使われる「花嫁の部屋」もあった。
あと伯爵たちの部屋がそれぞれあり、アルトレスト伯爵の部屋ももちろんあったし、リベルタース伯爵つまり俺の父さんというか歴代の先祖が使用している部屋も準備されていた。
「さっきカデルと確認したんだけど、二階は玄関のホールで東と西にフロアが分断されている。花嫁の部屋は東の奥で、アルトレスト伯爵が西側。そしてうちのリベルタース伯爵の部屋は東の階段寄りだった」
「んー、それならカデルとネストはリベルタース伯爵の部屋を使う方がいいんじゃないっすかね? あの伯爵と姫たちの部屋の間に入れるし」
うーん、やっぱりそうだよな。
「それはおれもそう思うけど、おれたちが使ってもいい部屋なのか?」
「ああ、アルトレスト伯爵が言うには家族で使うものらしいから、俺とネストは使ってもいいって。サテンドラにも確認したから大丈夫だ」
「じゃあ、俺とサテンドラとあの騎士は一階の姫たちの真下あたりの部屋を使う事にするっすよ。そこなら物音に気付きやすいし、なんかあったら部屋の物倒したりして知らせてほしいっす」
ネストとラッツェがいると物事の相談がサクサク進んでありがたい。俺が今回の護衛の任務の責任者なんだから一番しっかりしなくちゃいけない事は判ってるけど、それは何事も一人で決めるって事ではないはずだ。
部屋割りを確認し、先ほどネストと下見した屋敷の作りをラッツェ、ミードミー、メリー殿と共有する。それらが済んだところで、メリー殿がそろそろ夕食の支度をはじめたいと申し出た。
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