魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

文字の大きさ
上 下
42 / 130
第二章

38話

しおりを挟む

 メリー殿は俺の合図に気付いたのか人垣の手前まで来たが、そこから動かずにこちらの様子を伺っている。

 アルトレスト伯爵はやれやれと言った様子でトュエッラ隊長に語り始めた。

「なにっていつも通りだよ。もうすぐ盟約の花嫁の晩餐会があるでしょ? だから久しぶりにここに来たんだけど、うっかり魔力使い切っちゃって。食事させてくれる人を探してたんだ」

 えへへと可愛らしく言っていはいるが、トュエッラ隊長は苦虫を噛み潰したような渋い顔をしている。

「あんたそれで前回街に殺人鬼が出たって大問題になったの覚えてねぇのか」
「もう馬鹿にしないでよ。覚えてるし! だから魔力を多く持ってる人しか見えない様にちゃーんと考えたんだよ。そんでその子からちょぉーっと魔力と生気を分けて貰っただけだもん。僕が見えたって事は少しくらい吸っても死なないもん」

 一応、街の中で問題は起こさないつもりだったらしい。
 子どもの姿でならいいが、俺よりもデカい大人の姿で駄々っ子のように言う姿に力が抜ける。
 こんな存在でも種族が違えば脅威になる。アルトレスト伯爵が加減をしていなければ、ミードミーは触れた瞬間に命を落としていたかもしれない。

 強者の慈悲に感謝するのは悔しい。今のままじゃ全然だめだ。
 ……もっと強くなりたい。

「ふぅん、やっぱり綺麗だねぇ。その眼、欲しいなぁ」

 間近でアルトレスト伯爵の声がして、びくっと肩が揺れる。自分の不甲斐なさを噛みしめていたせいか、また接近されたことに気付かなかった。俺はミードミーを強く抱き寄せる。

 金の瞳がすぐ目の前で俺を見つめ、その手が伸ばされた。
 俺は躊躇ためらわずにその手を払いのける。

 怖い。
 
 一瞬、瞬きする間に、アルトレスト伯爵は間合いを詰めて目の前にいる。
 ……そう、これは俺をからかっているから目の前に居るだけなんだ。殺し合いなら、俺の身体など気づかないうちに八つ裂きにされている。

「ティス様やめてください。それ以上おイタすると王城から兵を呼びますよ!」

 俺が払った手をアルトレスト伯爵は再び俺の頬に伸ばす。もう一度払いのければいいのだろうけどその行動に意味があるとは思えない。
 ならいっそ好きにさせた方が、ミードミーやメリー殿、それに宿に居る皆に被害は及ばないんじゃないだろうか。

 トュエッラ隊長はアルトレスト伯爵は俺たちを殺さないとは言ったが、それはあくまで命を絶たないというだけだ。
 それ以外の保証は何もない。
 もちろん、俺がクリスティア姫を護衛できなくなるほどの行動には出ないと信じたいけど。

「俺の目が欲しいなら片目だったら差し上げるので、とっとと立ち去ってください」

 両目を持っていかれると困るが、片目だけならどうにか出来るだろう。
 痛いだろうし取られた目の再生なんて人狼族はしないけど、この人がそれで俺たちに関わって来なくなるなら安いものだと思う。

「へ?! あ、ええええええ!!!!? それってキミの眼をくりぬくって事?? 駄目だよっ、ここになきゃ意味ないんだから! 欲しいって言ったけどそういう意味じゃないよ。まったくもう物騒な子だな!」
「いやいや、物騒なのはあんたでしょうが」

 トュエッラ隊長の言葉など無視して、アルトレスト伯爵は俺の頬に両手を添え瞳をのぞき込んでくる。
 魔族は格が上がる程、自由奔放で傲慢だと聞いていたが本当にその通りだ。

 ミードミーを離すまいと抱きしめアルトレスト伯爵の視線を受け止めていれば、伯爵の金の瞳が一瞬にして真っ赤に染まった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

処理中です...