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第二章
38話
しおりを挟むメリー殿は俺の合図に気付いたのか人垣の手前まで来たが、そこから動かずにこちらの様子を伺っている。
アルトレスト伯爵はやれやれと言った様子でトュエッラ隊長に語り始めた。
「なにっていつも通りだよ。もうすぐ盟約の花嫁の晩餐会があるでしょ? だから久しぶりにここに来たんだけど、うっかり魔力使い切っちゃって。食事させてくれる人を探してたんだ」
えへへと可愛らしく言っていはいるが、トュエッラ隊長は苦虫を噛み潰したような渋い顔をしている。
「あんたそれで前回街に殺人鬼が出たって大問題になったの覚えてねぇのか」
「もう馬鹿にしないでよ。覚えてるし! だから魔力を多く持ってる人しか見えない様にちゃーんと考えたんだよ。そんでその子からちょぉーっと魔力と生気を分けて貰っただけだもん。僕が見えたって事は少しくらい吸っても死なないもん」
一応、街の中で問題は起こさないつもりだったらしい。
子どもの姿でならいいが、俺よりもデカい大人の姿で駄々っ子のように言う姿に力が抜ける。
こんな存在でも種族が違えば脅威になる。アルトレスト伯爵が加減をしていなければ、ミードミーは触れた瞬間に命を落としていたかもしれない。
強者の慈悲に感謝するのは悔しい。今のままじゃ全然だめだ。
……もっと強くなりたい。
「ふぅん、やっぱり綺麗だねぇ。その眼、欲しいなぁ」
間近でアルトレスト伯爵の声がして、びくっと肩が揺れる。自分の不甲斐なさを噛みしめていたせいか、また接近されたことに気付かなかった。俺はミードミーを強く抱き寄せる。
金の瞳がすぐ目の前で俺を見つめ、その手が伸ばされた。
俺は躊躇わずにその手を払いのける。
怖い。
一瞬、瞬きする間に、アルトレスト伯爵は間合いを詰めて目の前にいる。
……そう、これは俺をからかっているから目の前に居るだけなんだ。殺し合いなら、俺の身体など気づかないうちに八つ裂きにされている。
「ティス様やめてください。それ以上おイタすると王城から兵を呼びますよ!」
俺が払った手をアルトレスト伯爵は再び俺の頬に伸ばす。もう一度払いのければいいのだろうけどその行動に意味があるとは思えない。
ならいっそ好きにさせた方が、ミードミーやメリー殿、それに宿に居る皆に被害は及ばないんじゃないだろうか。
トュエッラ隊長はアルトレスト伯爵は俺たちを殺さないとは言ったが、それはあくまで命を絶たないというだけだ。
それ以外の保証は何もない。
もちろん、俺がクリスティア姫を護衛できなくなるほどの行動には出ないと信じたいけど。
「俺の目が欲しいなら片目だったら差し上げるので、とっとと立ち去ってください」
両目を持っていかれると困るが、片目だけならどうにか出来るだろう。
痛いだろうし取られた目の再生なんて人狼族はしないけど、この人がそれで俺たちに関わって来なくなるなら安いものだと思う。
「へ?! あ、ええええええ!!!!? それってキミの眼をくりぬくって事?? 駄目だよっ、ここになきゃ意味ないんだから! 欲しいって言ったけどそういう意味じゃないよ。まったくもう物騒な子だな!」
「いやいや、物騒なのはあんたでしょうが」
トュエッラ隊長の言葉など無視して、アルトレスト伯爵は俺の頬に両手を添え瞳をのぞき込んでくる。
魔族は格が上がる程、自由奔放で傲慢だと聞いていたが本当にその通りだ。
ミードミーを離すまいと抱きしめアルトレスト伯爵の視線を受け止めていれば、伯爵の金の瞳が一瞬にして真っ赤に染まった。
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