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第一章
26話
しおりを挟む「3人目の花嫁の話は王にのみ伝えられていることですけど、お父様が花嫁であるわたくしにはと教えてくださいました。オルトゥス王は嘘を見抜くから偽りなく接するようにと。そんなお話も伺っていたので盟約が余計にわからなくなりましたの。エスカータ側が約束を反故にしたのです。その時に見限ってもいいではないですか」
「あれ? そうか……3度目の時ってもしかしてエスカータが盟約を果たさなかったのに、オルトゥス王がそれを認めず割と強引に果たさせたってことか」
この前、クリスティア姫が人食鬼たちに襲われた理由は、花嫁が我が王の元へ行かなければ盟約が果たされなくなる、からだったはず。
エスカータ国の姫が花嫁として王の元に嫁がなければ盟約は果たされないのだから、600年前にエスカータ側から意図していないにしても、盟約破棄が行われたということだ。
「ええ、そういうことになりますわ。たとえ今回わたくしが王城に行くことがかなわなくても、オルトゥス王はエスカータに出向き、自らわたくしの姉妹姫から花嫁を迎えてくださるでしょう」
「えーっと? それってそもそも俺が護衛する意味がないってこと?」
俺が首をかしげて唸っているとサテンドラが文字の書いた黒板をトントンと叩いて俺に見せる。
そこには「そんな簡単に魔族の王がヒト族の国に行ったら大混乱ですよ」と書いてあった。
「サテンドラ様の仰ることはもっともですわ。もしエスカータにオルトゥス王が来るとすれば、わたくしになにかあって、花嫁をご自分で連れて行かなければ危険と判断した時のみでしょう。今はカデル様を信頼されてその任務をお任せしているのだと思います。なので意味はあると思いますわ」
なるほど、確かに二人の意見は正しい気がする。俺は考えを落ち着かせようとハーブティーを口に運んだが、いつのまにかカップは空だった。
それに気づいたサテンドラが立ち上がり、お代わりを入れてくれたあと、再び自分の席に座り黒板に小さな文字を書き始めた。
―― 盟約とは、その誓いの力によって効果を発動する魔法。
オルトゥス王は騎士王エスカータの子孫を半永久的に捧げさせることによって、強力な魔法を発動させた。
それが現在のアエテルヌムという魔族の国を維持し、ヒト族への魔族の侵略を最小限にとどめている。
おそらくその魔法の効果は、魔族をオルトゥス王に服従させること。この効果が継続する限り、アエテルヌムはヒト族の国でいうところの統治国家として機能する。
そんな魔法の実験を、オルトゥス王はしたかったのかもしれません。
「これが私の考察するオルトゥス王が、騎士王エスカータと盟約を結んだ理由です、と。なるほどな、サテンドラは魔法を使う為に盟約を結んで、その効果が維持できるように盟約の内容を決めたって考えてるのか」
俺は黒板の文字を声に出して読み、納得した。すごく魔法師らしい意見だと思う。
「だけど、これだとオルトゥス王がサテンドラみたいに魔法に目が無さ過ぎるっていうか……」
あんなに綺麗で優しくてかっこいいお方が、自分の知識欲の為にヒト族の姫を生贄にするんだろうか。
俺はサテンドラを見つめるがそんな俺の視線は無視し、クリスティア姫に「いかがですか?」と黒板に書き足し見せている。
「さすがですわ、サテンドラ様。わたくし魔法のための盟約だなんてこれっぽっちも思いつきませんでした」
クリスティア姫は青と緑の瞳をそれはもう輝かせ、胸の前で両手を組み感動している。
あまりにわかりやすいその姿に、偽りを見抜くオルトゥス王の花嫁として適任だと改めて思ってしまった。
そんなクリスティア姫に「では姫はどのように思っていたんですか?」とサテンドラは一度黒板を消してから改めて書いた。
「わたくしは、オルトゥス王と始祖エスカータ王が実は愛し合っていたのではないかと思っておりました!」
クリスティア姫の唐突な発言に、俺は思わず持っていたカップをソーサーにカチャンと落とした。
我が王とエスカータ王が……なんだって??
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