上 下
30 / 130
第一章

26話

しおりを挟む

「3人目の花嫁の話は王にのみ伝えられていることですけど、お父様が花嫁であるわたくしにはと教えてくださいました。オルトゥス王は嘘を見抜くから偽りなく接するようにと。そんなお話も伺っていたので盟約が余計にわからなくなりましたの。エスカータ側が約束を反故にしたのです。その時に見限ってもいいではないですか」
「あれ? そうか……3度目の時ってもしかしてエスカータが盟約を果たさなかったのに、オルトゥス王がそれを認めず割と強引に果たさせたってことか」

 この前、クリスティア姫が人食鬼たちに襲われた理由は、花嫁が我が王の元へ行かなければ盟約が果たされなくなる、からだったはず。
 エスカータ国の姫が花嫁として王の元に嫁がなければ盟約は果たされないのだから、600年前にエスカータ側から意図していないにしても、盟約破棄が行われたということだ。

「ええ、そういうことになりますわ。たとえ今回わたくしが王城に行くことがかなわなくても、オルトゥス王はエスカータに出向き、自らわたくしの姉妹姫から花嫁を迎えてくださるでしょう」
「えーっと? それってそもそも俺が護衛する意味がないってこと?」

 俺が首をかしげて唸っているとサテンドラが文字の書いた黒板をトントンと叩いて俺に見せる。
 そこには「そんな簡単に魔族の王がヒト族の国に行ったら大混乱ですよ」と書いてあった。

「サテンドラ様の仰ることはもっともですわ。もしエスカータにオルトゥス王が来るとすれば、わたくしになにかあって、花嫁をご自分で連れて行かなければ危険と判断した時のみでしょう。今はカデル様を信頼されてその任務をお任せしているのだと思います。なので意味はあると思いますわ」

 なるほど、確かに二人の意見は正しい気がする。俺は考えを落ち着かせようとハーブティーを口に運んだが、いつのまにかカップは空だった。
 それに気づいたサテンドラが立ち上がり、お代わりを入れてくれたあと、再び自分の席に座り黒板に小さな文字を書き始めた。

 ―― 盟約とは、その誓いの力によって効果を発動する魔法。
 オルトゥス王は騎士王エスカータの子孫を半永久的に捧げさせることによって、強力な魔法を発動させた。
 それが現在のアエテルヌムという魔族の国を維持し、ヒト族への魔族の侵略を最小限にとどめている。
 おそらくその魔法の効果は、魔族をオルトゥス王に服従させること。この効果が継続する限り、アエテルヌムはヒト族の国でいうところの統治国家として機能する。
 そんな魔法の実験を、オルトゥス王はしたかったのかもしれません。

「これが私の考察するオルトゥス王が、騎士王エスカータと盟約を結んだ理由です、と。なるほどな、サテンドラは魔法を使う為に盟約を結んで、その効果が維持できるように盟約の内容を決めたって考えてるのか」

 俺は黒板の文字を声に出して読み、納得した。すごく魔法師らしい意見だと思う。

「だけど、これだとオルトゥス王がサテンドラみたいに魔法に目が無さ過ぎるっていうか……」

 あんなに綺麗で優しくてかっこいいお方が、自分の知識欲の為にヒト族の姫を生贄にするんだろうか。

 俺はサテンドラを見つめるがそんな俺の視線は無視し、クリスティア姫に「いかがですか?」と黒板に書き足し見せている。

「さすがですわ、サテンドラ様。わたくし魔法のための盟約だなんてこれっぽっちも思いつきませんでした」

 クリスティア姫は青と緑の瞳をそれはもう輝かせ、胸の前で両手を組み感動している。
 あまりにわかりやすいその姿に、偽りを見抜くオルトゥス王の花嫁として適任だと改めて思ってしまった。

 そんなクリスティア姫に「では姫はどのように思っていたんですか?」とサテンドラは一度黒板を消してから改めて書いた。

「わたくしは、オルトゥス王と始祖エスカータ王が実は愛し合っていたのではないかと思っておりました!」

 クリスティア姫の唐突な発言に、俺は思わず持っていたカップをソーサーにカチャンと落とした。
 我が王とエスカータ王が……なんだって??
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

花形スタァの秘密事

和泉臨音
BL
この国には花形と呼ばれる職業がある。人々を魔物から守る特務隊と人々の心を潤す歌劇団だ。 男ばかりの第三歌劇団に所属するシャクナには秘密にしていることがあった。それは幼いころ魔物から助けてくれた特務隊のイワンの大ファンだということ。新聞記事を見ては「すき」とつぶやき、二度と会うことはないと気軽に想いを寄せていた。 しかし魔物に襲われたシャクナの護衛としてイワンがつくことになり、実物のイワンが目の前に現れてしまうのだった。 ※生真面目な特務隊員×ひねくれ歌劇団員。魔物が体の中に入ったり出てきたりする表現や、戦闘したりしてるので苦手な方はご注意ください。 他サイトにも投稿しています。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました

おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...