11 / 130
第一章
10話
しおりを挟む声の主は少し離れたところでこちらを見ていたユトだ。叫んだユトの口を隣にいたアレンが慌てて手で塞ぐ。
アレンは魔法師の家系で祖父母の代からヘルデで生活している。なのでアレン自身は魔族の国生まれ魔族の国育ちのヒト族だ。アレンに魔力はほぼなかったが剣の腕は確かで、俺たちが幼い頃には稽古をつけてくれた師匠だ。結構な歳だが今でも俺たちの稽古に付き合ってくれている。
そのアレンがエスカータで死にかけていたユトを拾い、連れて来た。
「まあ、まあまあ凄いわジーク! アエテルヌムでもジークの噂が聞けるなんて! そうなのです、我が国でジークは始祖エスカータの再来と言われておりますわ」
「姫、その話は……」
「よいではないですか。そちらのお二人はヒト族の方? ですわよね」
クリスティア姫が今まで見た中で一番テンションを上げて、俺やネストたちにキラキラの笑顔を向けてくる。
「はい、あいつらはヒト族で、子どもの方は最近までエスカータに居たんです。お前らもこっちきて挨拶しろよ、アレン、ユト」
「すみません、カデルさん。オレはアレン、こっちはユト。リベルタース伯爵家で厄介になってます」
「わー……近くでみると本当に王子様みたい」
アレンの後ろからひょこっとユトは顔を出してサヴィト殿を憧れの人を見る目で見つめている。隣には本物のお姫様もいるんだが、そっちには興味がないのか。
サヴィト殿はユトの視線に苦笑を浮かべた。いやその視線だけでなく姫のテンションの上がり方にも苦笑してる気がする。
「エスカータの再来ってオルトゥス王と盟約を結んだ、騎士王エスカータ再びって事か?」
ネストが本人を目の前にしてユトに聞く。いやそれ本人に、サヴィト殿に聞けよ、目の前にいるんだから。この様子なら噂の内容を本人も知ってんだろうし。
しかしまだ子どもと言っていい幼いユトは、自分の知っていることを聞かれたことと、多分サヴィト殿に憧れていたんだろう、そんな相手が目の前にいるせいか深く考えずに答えた。
「そうなの、おれの居たエスカータの王都だと有名だったよ! エスカータの再来! 今度こそ魔神をたお、うぐっ!」
ユトが最後まで言う前に今度はネストがその口をふさぐ。しかし時すでに遅しこの場の空気が一瞬で変わった。
ビリッと冷たい緊張が走る中、ラッツェ、ミードミーが訓練用に持っていた剣に手をかけて臨戦態勢に入る。
「ちょっ、まてお前ら……」
「待たないっすよ、王の元に敵をつれてくわけにはいかないっす」
「ゴミはここで排除します。ヒト族の姫と女は怪我をしたくないなら下がってください。それともあなた方もオルトゥス王に反意をいだく者ですか?」
止めなきゃいけないのは判ってる。民の噂なんてただの噂だ。裏付けのないものなど信じるに値しない。
だけど、俺も不思議に思ってた。なんでサヴィト殿がクリスティア姫の護衛騎士として魔族の国に来たのか。
姫と従者の二人、エスカータから来た三人はきっと今後生きて魔族の国を出ることはない。
200年に一度やってくる花嫁がアエテルヌムから外に出た、ヒト族の家族のもとに戻ったという話は聞いた事がない。
魔族の間では王の花嫁は城に幽閉されるとか、王に食事として食べつくされる……という話になっているくらい、ヒト族の花嫁がどうなったのかはわからない。
魔族でもわからないのだからもっと寿命の短いヒト族ではどう伝えられているのか。
そんなところへ、なぜ王家の血を引く者が二人もやってきたのか。
サヴィト殿がラッツェ達に向き直り、反射的に剣に手をかけようとした、その時。その手を止めたのは、俺でもクリスティア姫でもなかった。
「お待ちください! たしかにジークロード様は「エスカータ王の再来」と呼ばれていました。ですが今は、ただ姫をお護りするためにここにいるのです!! 決してなにかを企んでのことではありません!!!」
メリー殿はサヴィト殿の腕に抱き付き、今にも飛びかかりそうな赤毛の双子に叫ぶ。
そう、ラッツェ達とサヴィト殿の間に割って入ったのは、今まで大人しく控えていたメリー殿だった。
0
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
イケニエヒーロー青井くん
トマトふぁ之助
BL
悪の組織に屈した世界で、魔界へ人身御供に出されるヒーローの話
筋肉達磨怪人オーガ攻め(悪の組織幹部)×苦労人青年受け(中堅ヒーロー)
ーーー
現在レッド編鋭意制作中です。まとまり次第投稿を再開いたします。
平日18時一話毎更新 更新再開日時未定
聖獣王~アダムは甘い果実~
南方まいこ
BL
日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。
アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。
竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。
※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
異世界のオークションで落札された俺は男娼となる
mamaマリナ
BL
親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。
異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。
俺の異世界での男娼としてのお話。
※Rは18です
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる