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第一章

10話

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 声の主は少し離れたところでこちらを見ていたユトだ。叫んだユトの口を隣にいたアレンが慌てて手で塞ぐ。

 アレンは魔法師の家系で祖父母の代からヘルデで生活している。なのでアレン自身は魔族の国アエテルヌム生まれ魔族の国アエテルヌム育ちのヒト族だ。アレンに魔力はほぼなかったが剣の腕は確かで、俺たちが幼い頃には稽古をつけてくれた師匠だ。結構な歳だが今でも俺たちの稽古に付き合ってくれている。
 そのアレンがエスカータで死にかけていたユトを拾い、連れて来た。

「まあ、まあまあ凄いわジーク! アエテルヌムでもジークの噂が聞けるなんて! そうなのです、我が国でジークは始祖エスカータの再来と言われておりますわ」
「姫、その話は……」
「よいではないですか。そちらのお二人はヒト族の方? ですわよね」

 クリスティア姫が今まで見た中で一番テンションを上げて、俺やネストたちにキラキラの笑顔を向けてくる。

「はい、あいつらはヒト族で、子どもの方は最近までエスカータに居たんです。お前らもこっちきて挨拶しろよ、アレン、ユト」
「すみません、カデルさん。オレはアレン、こっちはユト。リベルタース伯爵家で厄介になってます」
「わー……近くでみると本当に王子様みたい」

 アレンの後ろからひょこっとユトは顔を出してサヴィト殿を憧れの人を見る目で見つめている。隣には本物のお姫様もいるんだが、そっちには興味がないのか。

 サヴィト殿はユトの視線に苦笑を浮かべた。いやその視線だけでなく姫のテンションの上がり方にも苦笑してる気がする。

「エスカータの再来ってオルトゥス王と盟約を結んだ、騎士王エスカータ再びって事か?」

 ネストが本人を目の前にしてユトに聞く。いやそれ本人に、サヴィト殿に聞けよ、目の前にいるんだから。この様子なら噂の内容を本人も知ってんだろうし。
 しかしまだ子どもと言っていい幼いユトは、自分の知っていることを聞かれたことと、多分サヴィト殿に憧れていたんだろう、そんな相手が目の前にいるせいか深く考えずに答えた。

「そうなの、おれの居たエスカータの王都だと有名だったよ! エスカータの再来! 今度こそ魔神をたお、うぐっ!」

 ユトが最後まで言う前に今度はネストがその口をふさぐ。しかし時すでに遅しこの場の空気が一瞬で変わった。

 ビリッと冷たい緊張が走る中、ラッツェ、ミードミーが訓練用に持っていた剣に手をかけて臨戦態勢に入る。

「ちょっ、まてお前ら……」
「待たないっすよ、王の元に敵をつれてくわけにはいかないっす」
「ゴミはここで排除します。ヒト族の姫と女は怪我をしたくないなら下がってください。それともあなた方もオルトゥス王に反意をいだく者ですか?」

 止めなきゃいけないのは判ってる。民の噂なんてただの噂だ。裏付けのないものなど信じるに値しない。

 だけど、俺も不思議に思ってた。なんでサヴィト殿がクリスティア姫の護衛騎士として魔族の国アエテルヌムに来たのか。

 姫と従者の二人、エスカータから来た三人はきっと今後生きて魔族の国を出ることはない。
 200年に一度やってくる花嫁がアエテルヌムから外に出た、ヒト族の家族のもとに戻ったという話は聞いた事がない。
 魔族の間では王の花嫁は城に幽閉されるとか、王に食事として食べつくされる……という話になっているくらい、ヒト族の花嫁がどうなったのかはわからない。
 魔族でもわからないのだからもっと寿命の短いヒト族ではどう伝えられているのか。

 そんなところへ、なぜ王家の血を引く者が二人もやってきたのか。

 サヴィト殿がラッツェ達に向き直り、反射的に剣に手をかけようとした、その時。その手を止めたのは、俺でもクリスティア姫でもなかった。

「お待ちください! たしかにジークロード様は「エスカータ王の再来」と呼ばれていました。ですが今は、ただ姫をお護りするためにここにいるのです!! 決してなにかを企んでのことではありません!!!」

 メリー殿はサヴィト殿の腕に抱き付き、今にも飛びかかりそうな赤毛の双子に叫ぶ。

 そう、ラッツェ達とサヴィト殿の間に割って入ったのは、今まで大人しく控えていたメリー殿だった。
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