魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

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第一章

2話

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 馬車から現れたのは二人の女性だ。
 一人は柔らかそうな銀の髪をふわふわと揺らし、その瞳は右が緑で左が青と異なっている。くりくりとした大きな瞳のせいか幼く見えるが整った顔立ちだ。
 レースがふんだんにあしらわれ裾が大きく広がっている白と淡い桃色のドレスが、余計に幼さを強調している気がする。

 その少女の手を引き現れたもう一人の女性は簡素な白いシャツに茶色のスカートを身に着けている。髪と瞳は共に茶色だ。年齢は俺と同じくらいだろう。

 どちらがクリスティア姫かは一目瞭然である。

「お初にお目にかかります。エスカータ国第二王女、クリスティア・ラウラ・マリカ=エスカータです。この度はエスカータまで迎えにきていただきありがとうございます。カデル・リベルタース様」

 銀髪の少女は俺の前まで来ると、スカートの両すそをちょこんと持ち上げ、腰を落として挨拶をした。
 思わずその可憐さに見惚れていた……やばい、俺が突っ立ったまま挨拶していい方ではない。恐れ多くも我が王の花嫁なのだ。

 俺は片膝をつき頭を下げ、最敬礼をする。

「失礼いたしました。リベルタース伯爵が三男、カデル・リベルタースです。この度は我が王とのご婚約おめでとうございます。王のおられるウェスペルまで我が一族にて護衛をさせていただきます。道中お困りごとやご希望などあれば何なりと申し伝えてください」

 よし、無事に言えたぞ!
 俺は下を向いたまま、ほっと一息ついた。

 そもそも社交の場というのが魔族の国アエテルヌムにはほぼ無い。
 ヒト族でいう貴族、領地を管轄する者として父は伯爵に任命されているが、仕事は社交や政治ではなく問題を起こすモノを武力で制圧することだ。しかも俺は実働部隊で頭を使う仕事はしたことがない。伯爵を継ぐのは次兄だし、俺は気楽な立場のはずだった。
 なので、丁寧な物言いとか礼儀作法とかは、今回の為にかなり付け焼き刃だったりする。

「尻尾が……」
「え?」
「尻尾が、もふもふですわっ!」

 どうにか挨拶を乗り切りほっとした俺の頭上から、クリスティア姫の声が降ってきた。思わず顔を上げれば、クリスティア姫の視線は俺ではなく俺の背中に向けられていた。
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