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第一章
1話
しおりを挟む森を出てヒト族の領地エスカータ国へ入れば、広がる朝日と青空が目に眩しい。森を出た広場には見知った壮年の紳士が待っていた。
「よくおいでくださいました、カデル様」
彼の名前はロイド・エルター。
魔族の国アエテルヌムに最も近い領土を任されているヒト族である。
「ロイド様、お久しぶりです」
馬をおりてロイド様の元まで行けば、昔と変わらない笑顔で迎えられる。
昔と変わったことと言えば、見上げていたロイド様の顔が今は同じ位置にあることだろうか。
「リベルタース卿から聞いていたがずいぶんと大きくなられましたな」
ロイド様はヒト族だが父の親友ともいえる人だ。
今回のエスカータ国内の最終地がロイド様の領地だと聞いていたが、まさか領主自ら来るとは思ってなかったので驚いた。
ちょっと、というかだいぶ緊張していたので、見知った顔にほっと張り詰めた気持ちが緩む。
その瞬間、鋭い視線を感じて思わず剣に手をかけそうになった。
「……そちらの方が護衛の騎士ですか?」
その視線の相手、ヒト族の男を一瞥すればロイド様に尋ねる。
こんな場所で俺がもし反射だとしても剣を抜いたとしたら大問題だ。そんなわかりやすく殺気を出さないでほしい。
「ええ、こちらの方がクリスティア姫と共にアエテルヌムに入られる騎士のジークロード・マリ=サヴィト」
殺気を俺に向けてはいるが紹介されれば胸に手をあて一礼をした。
金の髪に緑の知的そうな双眸。訓練を欠かしていないだろうことは、鎧をまとっていてもその動作や露出している身体で見て取れた。
「あと馬車の中に侍女がおります。サヴィト殿、姫とメリー殿にもご挨拶いただくようお伝えを」
「はい」
ロイド様がそういうと、騎士サヴィトは大人しくその命令に従う。
見た感じ、魔族にはあまりいい印象がなさそうだけど、大丈夫かな……。
この先、アエテルヌムに入ったら俺みたいな奴しかいないんだけど、誰かれ構わず睨まないでくれよ。
そんなことを切に願っている間に、馬車から二人の女性が現れた。
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