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6、ナイショばなし

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 それから私たちはショウマの言うとおりレベル上げを行った。
 ショウマの希望通りダンは風よりも早く攻撃できるようになり肌を硬化させる術を覚え、エミリーは素早くアイテムを使用する方法を身につけた。

 私は世界樹の呪符を作成できるようになった。世界樹の呪符は複数の相手の怪我や毒などを回復できる符術だ。
 もうひとつの目標としている星落しの呪符も習得が目前となったころ、私たちは妖魔の核のある海の孤島へたどり着いていた。

 海の孤島はどの国にも属しておらず、かならず妖魔の核はここに発生する。
 そして各国の観察師に見守られているので私たちが、救世主ショウマが、この地へやって来ていることは既に各国へ知れ渡っているはずだ。
 ショウマの予定ではあの日から50日以内に妖魔の核を破壊するはずであったがそれは叶っておらず、既に65日が経っていた。

「まだまだ大丈夫! 落ち着いていこ!」

 予定よりも術の習得が遅れている私たちにショウマは笑顔で激励した。

 そんなある日、夕食後にエミリーが私の部屋へやって来た。
 彼女が私の部屋へやって来たことは今までない。

 二人だけで話したいから入室させてほしいというエミリーを不思議に思いつつ、許可をする。
 部屋にひとつしかない机の椅子を彼女に勧めて、私はベッドに腰かけた。

「折り入って話したかったのはショーマ様のことです」

 エミリーは少し戸惑ったかと思えば意を決したように私を見据え、話を切り出した。
 その話とは召喚した救世主を元の世界へ返す方法が見つかるかもしれない、というものだった。観察師は独自の情報網をもっていて、何でも南の島国でそういった話が出ているのだという。

「まだ可能性ですし、ショーマ様の性格を考えると帰れる可能性を伝えたから強くなるとかも無さそうですので……お伝えすべきかどうかと。それに先にメイラさんに相談した方がいいかなと思って」
「確かに必ず帰れるならば伝えるべきだとは思うが…」
「え?!!」
「?」

 私の返事にエミリーが驚いた顔をする。

「メイラさんはショーマ様が元の世界に帰ってもいいんですか?」

 エミリーの言葉に胸がズキンと痛んだが、私はそれを無視して冷静を装う。

「……役目が終わって帰れるなら、元の世界に帰る方がいいだろう。ショウマ様が残りたいというなら話は別だが」

 そう、ショウマがこの世界に残りたいと思う可能性もある。
 妖魔の核を破壊すれば、我が国でも相当の地位や名誉を与えるだろう。そうなれば残りたいと思うかもしれない。

 私の答えに相変わらずエミリーが驚き顔をしている。そんな彼女の様子に私は首を傾げた。

「え、あれ? お二人は恋人なんですよね?」
「誰と誰がだ?」
「ショーマ様とメイラさんです!」

 今度は私が驚いた顔をする番だった。

「そんな事実はない」
「ええ、だってダンさんもそうだって言ってましたし、よく夜お二人で部屋にいるから逢瀬なのかと……!」
「あれはスキルの習得を相談していただけだ」
「ええ?! そんなことはないですよね? ないと言ってください!」

 椅子から立ち上がり私の肩をつかんで揺さぶるエミリーの顔は大真面目だ。

「ないもなにも、私たちは恋人じゃない」

 もしそうであったら……とうっかり妄想しそうになって、私は慌てて首を横に振る。

「嘘だぁ~ええ……じゃあなんであんなにショーマ様、命張ってまで頑張ってるんですか」
「救世主として呼ばれたからだろう」

 ショウマは責任感が強い。本人も言っていたが、救世主としての素質があるのだ。少なくとも私のために戦っているわけはない。

「違いますよ! メイラさんにいいとこ見せたいんです!! 絶対に!!!」
「……そんなことはない」
「あります! 一年以上毎日ご一緒してればさすがに気付きますよ!? ショーマ様いつもメイラさんのこと気にかけてるじゃないですか」
「それは私が会話に参加しないから……」

 少女は恋物語が好きだとなにかで聞いたことがある。エミリーもそれゆえこの様なことを言うのだろうと思ったが、そうではないことに思い至った。

「ああ違う、エミリーそうじゃないんだ」

 確かにショウマが私を見る目には時々熱がこもっていた。だけどそれは。

「ショウマ様が見ているのは私ではなく元の世界の友人なんだ」

 私は知らず自嘲するような笑みを浮かべてしまった。エミリーはきゅっと一度唇を引き結んだが、すぐに口を開いた。

「そんな……そうかもしれませんが、でも、メイラさんはショーマ様がお好きですよね?!」

 普段は目線が下になる少女が、今は私を見下ろしている。その必死の表情に、そしてこれから決戦を共にする仲間に、嘘をつくのは良くないだろう。

「そうだな。私はショウマ様を好きだ……と思う」

 エミリーの言う通り、私のこの感情は恋なのだろう。
 だが私でない誰かを思い、それなのに他人のために生きるショウマの重石にはなりたくはない。

「っよかった…! 私たちだってショーマ様に今後もこの世界に居て欲しいんです! 私は見たことないけど、平和な光生期も見てほしいです」
「それは確かに……」

 こんな辛い世界でなく、豊かで平和な世界を、ショウマが救った世界を見て欲しいと、私だって思う。
 だけどそれはショウマが選ぶことで、私たちの意志は関係ないだろう。

「わかりました、それでは先程の話は確定していることではないですし、とりあえず妖魔の核を壊したあとにショーマ様にお伝えすることにします!」
「……ああ」

 何が良かったなのかよく判らなかったが、見上げたエミリーは嬉しそうな顔をしていたので、彼女の中では納得できたのだろう。

 だが私は思考がぐちゃぐちゃとしてしまい、エミリーを見送った後も、その日はなかなか寝付けなかった。
 
 そしてエミリーと話したこの選択を、後に私は悔やむことになる。

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