上 下
1 / 11

1、チート救世主です

しおりを挟む
 
 暫く見ていない太陽の様な屈託のない笑顔が、本当に腹が立つほど眩しかった。

「俺はここでまた大事なものを見つけるから、元の世界に帰れなくてもいいよ」

 その男はたいした事ではないように、そう言った。



 この世界には闇に包まれる暗屍期あんしきと、光に包まれる光生期こうせいきというものが存在する。
 人間が生活できるのは光生期だ。
 太陽は輝き、恵みの雨が降り、空は高く青く、森は木々を緑に、そして赤く変えて大地に落ちれば土を富ませる。
 平和で豊かな日々だ。

 救世主いわく彼の世界の「春」「夏」と「秋」に似ているのだそうだ。

 逆に暗屍期は人間を食べる妖魔が生活しやすい。
 空は雲に覆われ常に夜のように暗く、寒い風に草木は実りをもたらさない。そして動物たちは死に絶える。その死骸を妖魔は好んで食べる。
 こちらは「冬」に似ているのだと言う。

 暗屍期は妖魔の親となる核が力を持つことでおこる。
 妖魔が増えることで自分たちが生きやすい世界に作り変える、おおよそ千年に一度おこる災害だ。

 暗屍期が長引けば人間は死んでしまう。30年もあれば全滅してしまうだろう。
 そんな過酷な状況を打破するために人間は叡智を生み出した。

 ――…この世界以外から救世主を召喚する方法を見つけたのだ。

 呼び出された救世主は、この世界にはない知識や術を持っていた。
 彼、あるいは彼女が降臨し、妖魔の核を破壊すれば暗屍期は終わりを告げる。

 人間の歴史上、暗屍期を終わらせるためには救世主の存在は不可欠で、だから暗屍期に入ればどの国も競って救世主の召喚を行った。

 しかし、ある国で呼び出した救世主は旅半ばで行方不明になり、またある国では王族をたぶらかして城で贅沢だけして、その責任を果たしていないという。

 暗屍期に入って五年が経過した頃、この世界の中でも大国の一つである我が国も救世主の召喚に成功した。

 救世主として我が国に降り立った男の名はショウマ、家名はトウノと名乗った。
 明るい茶色の髪と黒い瞳の大学生だ。筋骨隆々ということもなく、どちらかと言えば細身の男だ。

 大学とは我が国でいうところの上級学校のことらしい。そこで自然の摂理、数字について学んでいるとの事だった。

「ではショーマ様は剣や術の訓練はなさったことがないのですか?」

 ショウマの隣を歩くエミリーが驚いた顔で問いかける。

 まだ幼さの残るエミリーは観察師かんさつしだ。
 妖魔の発生状況や強さなどを測定する専門職である。たしか12歳になったばかりで、最近のお気に入りは頭の左右で結ぶ髪型だ。
 ショウマいわく、ツインテールというもので、モエ属性の女の子の定番髪型なのだという。モエとは可愛いという意味だそうだ。
 薄桃色の長い髪を揺らし、キラキラ赤い瞳を輝かせて異世界の事を聞く少女は、こんな暗い世界でも輝いて見えて確かに可愛らしい。

「んー授業で剣道とかやったけど、それくらいかなぁ」
「すごいです、すごいです! それであんなにお強いなんて!」
「いや~それほどでも」
「さすが救世主様ですね」
「うんうん、もっと褒めて!!」

 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶエミリーの言葉に照れるショウマ。そのショウマをさらに旅の仲間の剣術師けんじゅつしダンが褒める。
 ダンは我が国の剣術師の中でも1、2を争う剣の使い手だ。
 妖魔など一瞬で一刀両断する。筋骨隆々で私やショウマよりも背は頭一つ大きく、髪は全てそり上げて切れ長の黒い瞳は眼光鋭い。

 ダンのような剣術師が何人もいれば救世主に頼らなくても良いのではと思っていたが、私の考えは甘かった。
 救世主の実力はこの世界の人間と比べられるものではなかったのだ。

「ねえねえメイラも褒めてよ!!」

 そんな三人を一歩離れたところで冷ややかに見ていた私に、ショウマが声をかけてくる。

「……貴殿は救世主なのだから強くて当たり前だろう」
「誉めるどころか下げられた! ううん、そんなクールなところが格好良いね! じゃあ俺のチート能力、アイテムボックスから今日も安全な寝床を取り出します!!」
「わーいショーマ様! 待ってました!!」

 ショウマが大袈裟に言うと、手を胸元辺りで前方に突き出し左右へ何かをこするように動かす。
 ショウマが指し示す先に、突如として小屋が現れればエミリーは再び跳び跳ねて大喜びした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

愛され副団長の愛欲性活

彩月野生
BL
マウウェル国の騎士団、副団長であるヴァレオは、自国の王と騎士団長、オーガの王に求婚されてしまう。 誰も選べないと話すも納得されず、3人が結託し、誰も選ばなくていい皆の嫁になれと迫られて渋々受け入れてしまう。 主人公 28歳 副団長 ヴァレオ 柔らかな栗毛に黒の目 騎士団長を支え、王を敬愛している。 真面目で騎士である事に誇りをもっているため、性には疎い。 騎士団長 35歳 エグバート 長い赤褐色の髪に緑の目。 豪快なセックスで言葉責め。 数多の男女を抱いてきたが、ヴァレオに夢中になる。 マウウェル国の王 43歳 アラスタス 長い金髪に青の目。紳士的だがねちっこいセックスで感想を言わせる。 妻がいるが、愛人を作ったため追い出した。 子供がおらずヴァレオに産ませようと目論む。 イール オーガの若い王だが一番の巨漢。180歳 朱色の肌に黒髪。シャイで優しいが、甘えたがりで乳首を執拗に吸う。 (誤字脱字報告不要)

くっころ勇者は魔王の子供を産むことになりました

あさきりゆうた
BL
BLで「最終決戦に負けた勇者」「くっころ」、「俺、この闘いが終わったら彼女と結婚するんだ」をやってみたかった。 一話でやりたいことをやりつくした感がありますが、時間があれば続きも書きたいと考えています。 21.03.10 ついHな気分になったので、加筆修正と新作を書きました。大体R18です。 21.05.06 なぜか性欲が唐突にたぎり久々に書きました。ちなみに作者人生初の触手プレイを書きました。そして小説タイトルも変更。 21.05.19 最終話を書きました。産卵プレイ、出産表現等、初めて表現しました。色々とマニアックなR18プレイになって読者ついていけねえよな(^_^;)と思いました。  最終回になりますが、補足エピソードネタ思いつけば番外編でまた書くかもしれません。  最後に魔王と勇者の幸せを祈ってもらえたらと思います。 23.08.16 適当な表紙をつけました

【完結】子供が欲しい俺と、心配するアイツの攻防

愛早さくら
BL
生まれ変わったと自覚した瞬間、俺は思いっきりガッツポーズをした。 なぜならこの世界、男でも妊娠・出産が可能だったからだ。 から始まる、毎度おなじみ前世思い出した系。 見た目が幼い、押せ押せな受けと、たじたじになっていながら結局押し切られる大柄な攻めのごくごく短い話、になる予定です。 突発、出オチ短編見た目ショタエロ話!のはず! ・いつもの。(他の異世界話と同じ世界観) ・つまり、男女関係なく子供が産める魔法とかある異世界が舞台。 ・数日で完結、させれればいいなぁ! ・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。

悪役令嬢の兄、閨の講義をする。

猫宮乾
BL
 ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

第二王子に転生したら、当て馬キャラだった。

秋元智也
BL
大人気小説『星降る夜の聖なる乙女』のゲーム制作に 携わる事になった。 そこで配信前のゲームを不具合がないか確認する為に 自らプレイしてみる事になった。 制作段階からあまり寝る時間が取れず、やっと出来た が、自分達で不具合確認をする為にプレイしていた。 全部のエンディングを見る為に徹夜でプレイしていた。 そして、最後の完全コンプリートエンディングを前に コンビニ帰りに事故に遭ってしまう。 そして目覚めたら、当て馬キャラだった第二王子にな っていたのだった。 攻略対象の一番近くで、聖女の邪魔をしていた邪魔な キャラ。 もし、僕が聖女の邪魔をしなかったら? そしたらもっと早くゲームは進むのでは? しかし、物語は意外な展開に………。 あれ?こんなのってあり? 聖女がなんでこうなったんだ? 理解の追いつかない展開に、慌てる裕太だったが……。

処理中です...