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番外編(後日談、セリ視点)「マイ・スイート・ホーム」
前編
しおりを挟む「よっし、これで終了」
ふーっと額の汗をぬぐいながら片付いた部屋内を見回す。
掃除をしつつ、寮から持ってきた僕の荷物や新しく用意した食器とかシーツとかこまごましたものを仕舞い、一息ついた。
色違いのペアのカップとか、一つしかない大きなベッドとか、視界に入るたびに顔が緩んじゃって恥ずかしい。
寝室には大きなベッドがドンと鎮座してて壁にはシンプルなクローゼットと全身が映る姿見、隣の部屋はリビングで二人掛けのダイニングテーブルと窓辺にソファー、本棚は上半分はライルさんが下は僕が使うって決めてある。あとキッチンなどの水回り、シャワーはお湯が出せる最新型だ。
単身や夫婦二人で住むのに程よい間取りの一般的なアパートメント。今日からここが僕の、僕たちの家だ。
ずっとライルさんからは「一緒に暮らしたい」と言われていたけど、中々踏み切れなかった。すぐに捨てられるとかそんな心配をしたわけでなく、単純にライルさんと僕の生活水準の違いが気になったからだ。
ライルさんに合わせたら僕は破産するし、僕に合わせたらライルさんが惨めに感じるだろう。
好きな人に惨めな思いなんてさせたくない。これでも僕は立派な大人の男である。僕がもっとバリバリ働いてせめて課長の椅子を目指すか、なんて真剣に考えてたんだけど、付き合っていくうちにライルさん自身はさほど浪費家でも派手好きでもないことが判った。
そもそもライルさんの家は高級住宅街にある。家というよりお屋敷だ。玄関入ってすぐに花瓶とか絵画とかあって、そこが既にちょっとした美術館だ。窓枠や天井も全部高そうな細工してあるし、絨毯もふかふかで、食器も金で縁どられた見るからに高級品しかなかった。
住む世界も住んでる場所も違い過ぎて、最初にお邪魔した時はぽかんと口を開けて見惚れてしまったのは仕方ない。しかもこれ、代々受け継いだものとかじゃない。ライルさんが一人で頑張って稼いだ物なのだ。僕はなんてすごい相手とお付き合いしてるんだろうって震えたよね。
だけどそれはライルさんの趣味じゃなくって、家に招く客のために上等にしてあると言われた。客は上流階級や貴族が多いから、粗末な家には呼べないと。自分の家のことを話すライルさんは職場の設備の説明をしてるみたいだった。
それを聞いて僕は、誰かのためでも役者のララのためでもなくて、ライルさんのための家を作りたいって思った。
そしてきっとその家には僕が居る必要がある。ライルさんが僕と一緒に居たいというのは多分そういうことだ。ライルさんが安らぐために僕が必要だって事なんだと思う。
だからと言って僕が犠牲になってしまっては本末転倒だ。
なのでライルさんのためでもあり、僕のためでもある家をこうして用意した。
もう一度見回して、汚れがないか確認する。強いて言うなら僕自身がちょっと埃まみれだな。
完全に外は陽も落ちて暗くなっている。今日は夕飯を作る余裕がなかったから、ライルさんが帰ってきたら夕飯は外に食べに行こう。すぐ出られるように準備しておいた方がいいかな。
動いてたせいかお腹すいた、と思ったところに玄関の鍵が開く音がした。
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