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番外編(ライル視点)「満ちた夜の話」
第八話
しおりを挟むあの時、オレはセリスターニャ・ティアーネを諦めた。
未練はある。
だけどオレは関わるべきじゃないと思ったからだ。
セリが頑張って手に入れた第二歌劇団のチケットは、オレの手元に戻ってきた。思わず乾いた笑いを漏らせば、今までで一番真剣にアリオンに心配された。でもさ仕方ないよな? だってオレから貰ったものは嫌だってことだろ? そこまで嫌われたのかと自嘲もするさ。
万が一、またセリに会うことがあったら、きっと酷い嫌悪の顔を向けられるんだろう。
そう判っていたのに、オレはアリオンのお節介を断れなかった。
『二度と顔も見たくない、迷惑だ』とでも言ってもらえればスッキリするだろう。そんな風にも思った。知らなかったがオレはマゾの気質もあるのかもな。
だけど、オレは忘れていた。
セリスターニャ・ティアーネという男は、オレの想像を超える相手だと。
ダンテに連れられてやって来たセリは、その宝石みたいな瞳をキラキラさせてオレを凝視した。
そこには一切の嫌悪も見て取れない。
「そんな熱い視線向けないでセリ、照れる」
「……やっぱりライルさんだ」
何度聞いても可愛い声。
その声がオレの名前を呼ぶ。
会って顔を見て、声を聞けば我慢できなくなった。
セリを手に入れたいっ!!
そう思ったら止まらなかった。帰ろうとするセリを楽屋に引きずり込み、必死で口説いた。
耳障りがいい愛の言葉とか、そんなものセリに通用するはずがない。
だからオレは本音を言った。
どれだけオレにとってセリが特別なのか伝えたかった。
オレの人生の中でこんなに必死になったことはなかったと思う。
その瞳にオレを映して微笑んで欲しい。
オレの本当の名前をその声で呼んで欲しい。
――…… オレを独りにしないで。
自分勝手な欲望。
穢れてなくて、それこそ祝福なんて天使みたいな能力を持ったセリと比べたら、俺なんて淫魔もいいとこだ。
拒絶されても仕方ないことだって、判ってた。
だけどやっぱりセリはオレの予想を超えていく。
「ライルさんの恋人になります。だからキスもちゃんとしよう」
セリは可愛い声でふふふっと笑いながらオレを抱きしめた。
***
「あ!!!」
相変わらず何もないところで躓くセリを抱き止める。手に持っていたカップは死守できた。
みっともないオレの告白から早半年。
あの日恋人になってくれたセリに「いつも一緒に居たい」とお願いしつづけて、やっと一緒に住むことになった。寝室とリビングとキッチンしかないちょっと小さなアパートメントが平日のオレ達の住処だ。
セリは寮住まいだったし、オレの家はお互いの職場から離れている。あの家はあくまでも稽古や公演が無い時に過ごす家だから、どちらかと言えば別荘みたいな感覚だ。そこに住むには生活しにくいってことで、職場に近い場所にアパートメントを借りることにした。
どうせなら建物一つ買ってしまおうと思ったんだけど、セリが借家を希望した。というのも家賃は自分が払うと言ってきかないのだ。それが一緒に住む条件だとも言った。
普段使っていたホテル代を考えれば、オレが払ってもむしろお釣りが来るはずだから気にしないでいいと言ったのに。
「ホテルみたいな快適な生活を提供できないし、ライルさんにはもう立派な家があるでしょ。それに僕の方が年上なんだからこっちの家は僕が払います」
フンスフンスと聞こえてきそうなほど、真顔で鼻息荒く言うセリがいちいち可愛い。可愛いから仕方ないので了承した。
「はぁ、良かった割らなくって。ありがとうライルさん」
「んー」
カップを両手で大事そうに持つセリを、オレが優しく抱きしめてその髪にキスをする。甘いとかそんなことないけどセリの匂いは凄く落ち着くから、ずっとセリの髪とかそれこそ汗臭い部分に顔を突っ込んでいたい。
さすがにやったら変態だから我慢するけどな。
そのまま横抱きに抱き上げてベッドまで行けば、腰を下ろして抱き上げていたセリをオレの足の上に座らせた。
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