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番外編(ライル視点)「満ちた夜の話」
第二話
しおりを挟む正直に言おう、王都でオレを知らない奴がいるなんて思わなかった。
自惚れだって言われるかもしれないが、そもそもオレを知らない奴と話をする事なんてないんだよ。だからオレの世界にはオレを知らない奴なんていない。オレは相手を知らないけどな。
だが目の前で第二歌劇団員のことを「僕の天使だ」と熱心に話す男は全くオレに気付いていなかった。
主役にもならない歌劇団員を知ってるのにオレを知らない?
ハハ、そんな馬鹿なことあるわけがない。
男の肩を抱けばしなだれかかって、酒をくぴくぴと可愛らしく飲む姿はあざとい。
不細工だというが、不細工というよりただの平凡だ。
赤というには紫かかった絶妙な色の髪と、瞳も良く見れば紫かかった青色で、よくよく見るとあまり見たことがない色彩をしている。そして何よりじっと見つめる瞳はキラキラとしていて綺麗だ。
こんな目でオレを見るのなんて、それこそおくるみ纏った赤ん坊くらいしか会ったことがない。
こうやって男を落とすのが手なのか、素直すぎてオレの誘導に乗ってしまっているのか、まったく判らない。
どっちでもいいか。
どちらにしたってベッドの上で化けの皮も剥がれるだろう。
キスをしたらトロトロに溶けた顔をしてるのに、その目だけはキラキラと綺麗なままだった。
レストランの個室ですると後で支配人に怒られるので、大人しく腰を抱いて引きずるようにホテルに移動する。
「ふわっ、すごい広い部屋!」
オレよりも五つ年上だと言う男はこれでも第三特務隊で働いているらしい。
歌劇団と人気を二分する特務隊だがあっちはお堅い役所だ。オレを迎えに来た異母兄も第三特務隊だが、あいつもお堅い。
なのに目の前の男は、ふにょふにょに柔らかくなっている。敷物の境目に足を取られてよろける様子に慌てて抱き止めた。
これも演技か? あざと可愛い天然狙い。
「よろけちゃった、ありがとう」
「シャワー、一緒に入ろうか?」
ふにゃあっと微笑む男の耳元にいやらしく囁けば、くすぐったそうに身じろぎする。そしてじいっとオレを見上げて来た。
「んー? どうして?」
それはその方が準備がしやすいし、ボロが見つけやすいから。言わないけど。
「転んで怪我してもこまるでしょ? それにオレはお兄さんと一緒に入りたいな」
「ん、うーん」
「一日一善。オレの希望叶えてくれないの?」
悩まし気に唸っている男に言えば、うーんうーんと唸ったのち「うん、いいよ」とふにゃりと笑った。相変わらずオレを見る目はキラキラしていた。
シャワーを一緒に浴びていてもボロは出さなかった。
それどころか服を脱いだら屈んでしっかりと畳んでいた。
ちなみにオレのも畳もうとして、首を傾げてから服を持ってふらふらと部屋に戻ってしまった。何を企んでいるのかと思えば、オレの服をクローゼットに仕舞っていた。
「高そうな服だし、畳むとしわになっちゃうからね。……あれ? 違う?」
「……。え、あ、いや。ありがとう。気が利くね」
「うん、一日一善だからね」
この部屋には何人も連れ込んでいるけど、脱衣所で脱いだ服を全裸でクローゼットに仕舞ったやつを初めて見た。
しかもオレの服をだ。
普通、脱いでから下着で脱衣所に行くか、服なんてまったく気にしやしない。雰囲気壊れるだろ……。
えへへ、と頬を緩ませながらオレの方へやってくると、急ぎ過ぎたのかかくんと膝が折れ前のめりに倒れそうになったので慌てて支える。
面倒になったのでそのまま横抱きに抱き上げると「すごい!力持ちだね!」って喜んだ。距離が近くなって良く見える下生えは髪と同じく綺麗な赤毛で、その中のペニスもあまり使ってないような、子どもの様な綺麗な色をしていた。
これはしくじったか……と思ったが、男を咥える方がメインならここは綺麗なままかもしれない。髪にキスを落とせば嬉しそうに笑ったので、気にするのはやめた。
シャワーはオレにもたれ掛かり、されるがままだった。全身を丁寧にあらってやれば気持ちよさそうにウトウトしている。
「お兄さん、重たいからちょっと起きて」
「ん、んー……」
「お尻も洗うから、壁に手をついて足開いて」
オレが言えば素直に壁に手をついて足を肩幅程度に開く。
屈んで尻に手をかけて割ってみれば、蕾は小さかった。てっきり穴は使い込まれて縦割れでもしてるかと思ったのに、こちらを使っている様子もない。
「もう、いぃ?」
屈むオレに振り返り見る顔はちょっと赤い。さっきまでのキラキラした瞳が涙でウルウルしていて更に煌いていてドキリとした。なんで胸が昂ったのかは正直自分でもわからない。
男が赤面してるのが酔いのせいなのか羞恥のせいなのかはっきりしない……とここまで思ってのぼせてるのか? と思いたち慌てて浴室を出た。
「何で暑いって言わないの……」
「……ごめんなさい、そういうの言ったら駄目なのかなって」
いやいや、全裸で服仕舞いに行くのになんで具合悪いの我慢すんだよ? どういう判断基準? オレは頭を抱える。
完全にのぼせていた男の上半身をもたげて水を飲ます。が、口端からこぼしてしまい、顎を伝いぽたりと胸元に落ちる。
日焼けしていない白い肌にちょこんと乳首がついていて、豊満でも魅惑的でもない身体だ。
コップを口に添えても零してしまうので仕方なく、水を口移しで飲ませることにした。最初こそ戸惑っていたがコツを掴めばちゅくちゅくと飲んでくれる。なんだろうな、生まれたばかりの赤ん坊かな?
そんな事も思ったけど、さすがにそろそろ本番に移りたい。そのまま何度も何度もゆっくり唇を重ねて、舌をこすりつけ合う。
男の顔は更に赤くなっていたけど、これは羞恥だろう。しっかりと身体が性欲を拾っていた。
綺麗な赤い下生えの中から、ちょこんとぺニスが頭をもたげている。
その様子が淫乱というよりも可愛らしくて、思わず笑いそうになった。
「ひゃぁっ!……ぁ、ぁっ」
「お兄さんのココ、可愛いね」
ねっとりとした声音を作って耳元で囁き、ペニスをやわやわと揉んでやれば可愛い声で鳴く。話した時も思っていたけど、男にしては可愛らしい声で、聴いていて気持ちいい。
次第に自分で快感を求める様に腰を振り始めた。その姿が無駄に可愛い。
イキ顔はぎゅっと目を閉じてピクピクと身体を震わせて全部吐き出してから、ぼう然としたあと熱い息を吐いていた。
「上手におしっこ出来たね、お兄さん偉いな」
手の中の精液をオレは男の頬にべったりと塗り付ける。
わざと煽る様なことも言って馬鹿にしたように笑って見せた。
ほら、これが逃げるチャンスだ。
経験が浅いならこの程度で腹も立つだろうし、一回抜いて冷静にもなったはずだ。
それに、どうせ役者のオレを知らないなら、オレと寝たってこの男には意味がないだろう。有名役者と寝るっていう優越感も、周りに自慢するネタにもならないんだ。
腹を立てて、出ていけばいい。
――……そう思ったのに。
男は頬に塗られた自分の性液を指でとり、指をじっとみてからオレに視線を移して。
「これは射精で小便じゃないよ?」
などと大真面目に言うもんだから、オレはベッドに突っ伏してしまった。
もうほんと、なんなんだこの男は。
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