12 / 31
本編
⑫ 不安にならなくていいのに
しおりを挟むてっきり警備隊詰所で会った時みたいな触れるキスをするんだと思ったのに、求められたキスは濃厚なやつだった。舌を差し込まれて歯列を撫でられ、舌を絡められる。
予想外のことに目を白黒させていれば、力強く抱き寄せられてかかとが地面から浮いた。不安定な状況が怖くて思わずライルさんの背に手を回して抱きしめればさらに身体が密着する。
初めて会った時、酒によっていたしてしまって、あれは酔っていたから気持ちいいのだと思ったけど。
違う。
ライルさんとのキス自体が、ものすごく気持ちいい。
舌も唾液もなにもかにも美味しいし、興奮する。じゅるじゅると卑猥な音を響かせてライルさんと舌をなめ合って、唾液を交換するみたいなキスを暫くしていれば、気持ちよくて下半身が存在を主張してくる。さすがにこれ以上はまずい。
それにやっぱりこういうことは、ちゃんと好きな人とするべきだと思う。そうしなければライルさんの寂しさも、僕の寂しさも、きっと埋まることはない。
「ら、いるさん……こういうことは、も、駄目だって」
僕がなんとか言葉を発すれば、ライルさんがキスをやめてくれた。だけど爪先立ちのまま強く抱きしめてる拘束はそのままだ。
でもそれはちょっとありがたかった。経験の乏しいというか、前回のライルさんとの逢瀬しかない僕は既に腰が砕けている。今手を放されたらふにょふにょ座ってしまうだろう。
「どうして?」
「どうしてって、こういうことは好きな人とすることだよ。……あ、まあ会ったその日にした僕が言えることじゃないんだけど」
「キスを拒んだ理由はそれだけ? オレが信じられないとかじゃなくて?」
見つめてくるライルさんは少し怒っているような顔をしている。
ライルさんを信じられない?
「そんなことないよ。……ただ恋人でもないのにそんな簡単にしていいなんて言っちゃ駄目だと思ったんだ。適当な相手でそういう事済ませちゃうとライルさんが寂しくなる。それは嫌だなって」
「オレのため? 本当は嫌だったからじゃなくて?」
自信に満ち溢れるライルさんから飛び出す疑心暗鬼な発言に僕は思わず瞬いた。飄々としているのにたまに見せる寂しげな表情が胸に刺さる。そんな不安にならなくていいのに。
「断じてキスが嫌だったわけじゃないから大丈夫だよ。自信持って、ライルさん」
見つめてくるライルさんの瞳を力いっぱい見つめ返して僕は断言する。
「…………。つまりそれは、セリもオレとキスしたいって思ってくれてたって事でいい?」
「え?? あっ!!!」
ライルさんに言われて気づいた。そうか、僕もライルさんとキスしたかったんだな。だから僕はこんなにライルさんの恋人にこだわっていたのかもしれない。
「そうみたい……ってだから、こういうのは恋人同士がすることでっ」
僕が返事をするのも構わず、ライルさんが下唇をあむあむと甘噛みしてくる。そしてぱくりと口を食べられるようにキスされる。息が苦しい。
「なら、恋人になろう」
「? ライルさん恋人いるんじゃないの?」
「それっぽい奴はいたけど、セリに会ってから、セリ以外はどうでもよくなった」
「????? なんで??」
「……変に媚びてこないし、ララを知らないし、知っても態度変わらないし、セックスが気持ちよかった」
「せっくす??」
「そうセックス。最高だった」
そういってライルさんの手が腰から僕の尻に下がってやわやわと揉んでくる。え、まって?
「そ、それって身体が目的って事??」
「逆に聞くけど、オレたちお互いの性格が判る程付き合いないだろう? そんな状態で優しいから好き、なんて言われて信じられるか?」
「た、確かに、それは無理かも」
「だろ? でもさ一回だけど話した時に、セリの田舎に対する哀愁とかさ、孤独の感じ方とか共感できるからか一緒に居て落ち着いた。オレは役者のオレを知らない人に会うことって自慢じゃないけど中々なくて、それでなくてもこの見た目だからさ、アクセサリみたいに手に入れたいっていうの? オレ自身じゃなくて自分のために手に入れたいって思ってんだなって感じる事多くてさ。凄く、疲れる。オレは癒されたい」
そう言ってライルさんは寂しそうに微笑む。
「そう思ったら、セリに会いたいって思った。セックスももう何十人…いや下手したら何百人とか抱いたり抱かれたり……」
「ま、まって! さすがに百人単位はないよね??」
寂しそうな顔でしんみりした雰囲気を醸し出しているのに、ライルさんの言葉は物凄く物騒だ。僕が慌てて訂正を要求すればしばし考えたのち。
「いろんな人の相手をしたけど、ほとんどに奉仕する事を求められたし、搾り取られるって感じがした。だけどセリは全然違う。初めてセックスで満たされたって感じたんだ」
僕の疑問を華麗にスルーして話を続けた!
「突っ込みたいってのは男だからまあよく思うよ。だけどシた後に、次の日にまた会ってシたいって思うのも、セックスしなくてもいいから会いたいって思ったのも、初めてなんだ。これってオレがセリを好きだってことだろう?」
「それは、そうだと思う」
僕が答えればライルさんが嬉しそうに微笑む。美男子の最高の笑顔を間近でみるとか、その破壊力は凄い。
「セリの気持ちも聞かせてくれ」
「え、あ、えーっと、ライルさんの恋人が分隊長みたいに優しい人ならいいなって思った。あ、僕二人の事勝手に恋人だと思ってて、ごめんなさい」
僕の回答が予想の斜め上だったのか、ライルさんが目を見開いて僕を見下ろす。そんなライルさんの頬にそっと手を伸ばした。肌もすべすべだな。
「お似合いだな、って思って。だけど今日見たけど、あの伯爵令息の月の人の方がお似合いだね。二人一組で噂されるの判る気がする」
ライルさんを撫でていた手を取られて、手の平にチュッとキスされた。えっと、何の話してたんだっけ? あ、そうだ、僕がライルさんをどう思っているか、だ。
「つまり、僕はライルさんに幸せになってもらいたいので素敵な恋人が出来たらいいなって思ってます」
「それって、どうい……ぐあっ!」
僕の返事にライルさんが問いかけて来た瞬間。ライルさんの後ろの扉が思いっきり開いてライルさんに直撃した。
178
お気に入りに追加
426
あなたにおすすめの小説
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる