花形スタァと癒しの君

和泉臨音

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本編

⑫ 不安にならなくていいのに

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 てっきり警備隊詰所で会った時みたいな触れるキスをするんだと思ったのに、求められたキスは濃厚なやつだった。舌を差し込まれて歯列を撫でられ、舌を絡められる。
 予想外のことに目を白黒させていれば、力強く抱き寄せられてかかとが地面から浮いた。不安定な状況が怖くて思わずライルさんの背に手を回して抱きしめればさらに身体が密着する。
 
 初めて会った時、酒によっていたしてしまって、あれは酔っていたから気持ちいいのだと思ったけど。
 違う。
 ライルさんとのキス自体が、ものすごく気持ちいい。
 舌も唾液もなにもかにも美味しいし、興奮する。じゅるじゅると卑猥な音を響かせてライルさんと舌をなめ合って、唾液を交換するみたいなキスを暫くしていれば、気持ちよくて下半身が存在を主張してくる。さすがにこれ以上はまずい。

 それにやっぱりこういうことは、ちゃんと好きな人とするべきだと思う。そうしなければライルさんの寂しさも、僕の寂しさも、きっと埋まることはない。

「ら、いるさん……こういうことは、も、駄目だって」

 僕がなんとか言葉を発すれば、ライルさんがキスをやめてくれた。だけど爪先立ちのまま強く抱きしめてる拘束はそのままだ。
 でもそれはちょっとありがたかった。経験の乏しいというか、前回のライルさんとの逢瀬しかない僕は既に腰が砕けている。今手を放されたらふにょふにょ座ってしまうだろう。

「どうして?」
「どうしてって、こういうことは好きな人とすることだよ。……あ、まあ会ったその日にした僕が言えることじゃないんだけど」
「キスを拒んだ理由はそれだけ? オレが信じられないとかじゃなくて?」

 見つめてくるライルさんは少し怒っているような顔をしている。
 ライルさんを信じられない?

「そんなことないよ。……ただ恋人でもないのにそんな簡単にしていいなんて言っちゃ駄目だと思ったんだ。適当な相手でそういう事済ませちゃうとライルさんが寂しくなる。それは嫌だなって」
「オレのため? 本当は嫌だったからじゃなくて?」

 自信に満ち溢れるライルさんから飛び出す疑心暗鬼な発言に僕は思わず瞬いた。飄々としているのにたまに見せる寂しげな表情が胸に刺さる。そんな不安にならなくていいのに。

「断じてキスが嫌だったわけじゃないから大丈夫だよ。自信持って、ライルさん」

 見つめてくるライルさんの瞳を力いっぱい見つめ返して僕は断言する。

「…………。つまりそれは、セリもオレとキスしたいって思ってくれてたって事でいい?」
「え?? あっ!!!」

 ライルさんに言われて気づいた。そうか、僕もライルさんとキスしたかったんだな。だから僕はこんなにライルさんの恋人にこだわっていたのかもしれない。

「そうみたい……ってだから、こういうのは恋人同士がすることでっ」

 僕が返事をするのも構わず、ライルさんが下唇をあむあむと甘噛みしてくる。そしてぱくりと口を食べられるようにキスされる。息が苦しい。

「なら、恋人になろう」
「? ライルさん恋人いるんじゃないの?」
「それっぽい奴はいたけど、セリに会ってから、セリ以外はどうでもよくなった」
「????? なんで??」
「……変に媚びてこないし、ララを知らないし、知っても態度変わらないし、セックスが気持ちよかった」
「せっくす??」
「そうセックス。最高だった」

 そういってライルさんの手が腰から僕の尻に下がってやわやわと揉んでくる。え、まって?

「そ、それって身体が目的って事??」
「逆に聞くけど、オレたちお互いの性格が判る程付き合いないだろう? そんな状態で優しいから好き、なんて言われて信じられるか?」
「た、確かに、それは無理かも」
「だろ? でもさ一回だけど話した時に、セリの田舎に対する哀愁とかさ、孤独の感じ方とか共感できるからか一緒に居て落ち着いた。オレは役者のオレを知らない人に会うことって自慢じゃないけど中々なくて、それでなくてもこの見た目だからさ、アクセサリみたいに手に入れたいっていうの? オレ自身じゃなくて自分のために手に入れたいって思ってんだなって感じる事多くてさ。凄く、疲れる。オレは癒されたい」

 そう言ってライルさんは寂しそうに微笑む。

「そう思ったら、セリに会いたいって思った。セックスももう何十人…いや下手したら何百人とか抱いたり抱かれたり……」
「ま、まって! さすがに百人単位はないよね??」

 寂しそうな顔でしんみりした雰囲気を醸し出しているのに、ライルさんの言葉は物凄く物騒だ。僕が慌てて訂正を要求すればしばし考えたのち。

「いろんな人の相手をしたけど、ほとんどに奉仕する事を求められたし、搾り取られるって感じがした。だけどセリは全然違う。初めてセックスで満たされたって感じたんだ」

 僕の疑問を華麗にスルーして話を続けた!

「突っ込みたいってのは男だからまあよく思うよ。だけどシた後に、次の日にまた会ってシたいって思うのも、セックスしなくてもいいから会いたいって思ったのも、初めてなんだ。これってオレがセリを好きだってことだろう?」
「それは、そうだと思う」

 僕が答えればライルさんが嬉しそうに微笑む。美男子の最高の笑顔を間近でみるとか、その破壊力は凄い。

「セリの気持ちも聞かせてくれ」
「え、あ、えーっと、ライルさんの恋人が分隊長みたいに優しい人ならいいなって思った。あ、僕二人の事勝手に恋人だと思ってて、ごめんなさい」

 僕の回答が予想の斜め上だったのか、ライルさんが目を見開いて僕を見下ろす。そんなライルさんの頬にそっと手を伸ばした。肌もすべすべだな。

「お似合いだな、って思って。だけど今日見たけど、あの伯爵令息の月の人の方がお似合いだね。二人一組で噂されるの判る気がする」

 ライルさんを撫でていた手を取られて、手の平にチュッとキスされた。えっと、何の話してたんだっけ? あ、そうだ、僕がライルさんをどう思っているか、だ。

「つまり、僕はライルさんに幸せになってもらいたいので素敵な恋人が出来たらいいなって思ってます」
「それって、どうい……ぐあっ!」

 僕の返事にライルさんが問いかけて来た瞬間。ライルさんの後ろの扉が思いっきり開いてライルさんに直撃した。


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