偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

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本編

(27)対面の儀

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「ヴェル!! 良かった。グリもロアも無事か?!」
「ヴェルヘレック様! もしかしてそちらの方が……!」
「ロア! よかった怪我してない?」
「ちょーっと! 三人とも来るのおっそいよね!」

 木々の間からまず出てきたのはレーヴンだった。俺達の姿を見ると安堵したように微笑みこちらに駆け寄ってくる。それにエールックが続き、ホルフは途中でロアに抱き付かれ、抱き上げればゆっくりとこちらに向かってきた。

「たしかに、彼は王の子だね」

 ルハルグ様はそう仰るとヒトの姿になり、俺の横に立たれた。

「よかった……っ」

 俺はそのお言葉に胸が熱くなる。
 母上の、父上の本当の子どもが生きていた。それがとても嬉しかった。
 しかも誰からも頼りにされる立派な人物に成長している。俺なんかよりよっぽど、強い。

 愛されるべきキルクハルグの王子が、彼で本当によかった。

「ほら、だから三人は絶対無事だって言っただろ、エールック」
「そんなこと判らないではないか! お前の勘なんて信用できるか」
「勘じゃなくて確信だって……って、あれ竜がいなくなった?」

 レーヴンとエールックが小突きあいながら走り寄ってくる。この二人もいつの間にこんなに仲が良くなったのだろう。
 そして俺達のところまでやって来たレーヴンが、先ほどまでルハルグ様の居た位置をきょろきょろ見ていた。

「ちがいまーす、ルハルグ様はこちらの美女です!」
「え? そっか、魔族って見た目変えられるんだっけ」
「全員がではないけどね」

 グリムラフがそんなレーヴンとエールックに、なぜか自慢するようにルハルグ様を紹介する。
 そしてその様子にルハルグ様ものられて、ふふんと胸を張られた。

 そんな皆の様子を見ていたら視界が歪んだ。
 瞬きすると涙が落ちる。

 ああ、俺、泣いているのか。

「!! ヴェルヘレック様、どうされたのですか!!!」
「うん……嬉しくて」
「……っ、竜の加護をもらえたのか?」

 嬉しいので、俺は笑顔だと思うのだけど、エールックとレーヴンが俺を見て息を飲むのが判る。
 俺は指で涙をぬぐって、一息つくときちんと笑顔を作った。

「いや、俺はルハルグ様の加護をいただくことはできない」

 エールックが俺の言葉を聞けば表情を無くした。
 すまない、お前の期待を裏切った。だけど、俺は今、嬉しいんだ。

「彼が本物の「ヴェルヘレック王子」で間違いないでしょうか?」

 俺はレーヴンを手で示し、ルハルグ様に確認する。
 ルハルグ様は俺を見て優しく微笑んでくださってから、レーヴンに視線を移す。

「ああ、彼に間違いないね。きみの名前を教えて?」
「な? え? えっと、レーヴン……です」
「そう、レーヴン。きみがキルクハルグの第四王子だ。望むなら僕の守護を与えるけど、どうする?」
「は??!」

 レーヴンがひどく戸惑っていて、俺やグリムラフ、そしてルハルグ様を交互に見ている。
 その慌てる姿が新鮮で、見つめてしまっていたせいか何度も目が合った。

 孤児院で親はいないと育って、急に王子だって言われたら、それは当然驚くだろう。
 いきなり言われて戸惑うとは思うが、俺はレーヴンなら立派に王子の務めを果たしてくれると思った。
 彼からいくばくか自由を奪ってしまうのが心苦しくはあるが、第二王子のラヴァイン兄上も冒険者をやっている。レーヴンが望めば今の生活を変えなくても済むはずだ。

「ヴェルヘレック様!!! これはどういう事なのですか!!」

 いつの間にか俺の目の前に来ていたエールックに両肩を掴まれる。俺を見る表情はとても混乱しているようだ。
 俺は拭っても落ちてくる涙を再び指でぬぐうと、エールックに勤めて冷静に答える。

「レーヴンが父上と母上の本当の御子なんだ。だからルハルグ様の加護をいただける」
「何を言って……だって貴方はこんなにもユアーナ様にそっくりではありませんか!?」
「母上に似てはいるが、俺はお二人の御子ではないんだ」
「貴方は……ご自分が王子ではないと……知っていたのですか?」
「ああ、知っていた」

 エールックの絞り出す声があまりも悲痛で、俺はエールックの顔を見る事が出来なかった。視線を彼の足元に落とす。
 俺が無言でいると、肩から手が離れた。

「だから冒険者なんかを……ああ、いえ、すみません。考えがまとまらないので少し御前を失礼します」
「エールックさん。あまり遠くには行かないでくださいね」

 俺とエールックのやり取りを見てたのであろうホルフが、すれ違い様にエールックに声をかけてくれる。
 ロアがホルフから離れて俺の元にくると、抱き付き見上げて来た。俺はロアを優しくなでれば、心が癒される。

 また怒られるかもしれないが、エールックにあらためて説明して、きちんと謝らないといけない。

「あー……っと、俺もだいぶ混乱してて、えっと、守護してもらうとか今決めないといけませんか?」
「いや、いつでもいいよ。きみにはその資格があるというだけだから。守護を受けなくてもいいし、もっと大人になってからでもいい」
「そう、なんですね。それならしばらく考えさせてください」
「うん、わかった。きみたち今日は疲れているみたいだし、ここで休んでいくといい。滝の上に王の子らが使う家があるからそこに泊まるといいよ」
「えっと、ありがとうございます」

 ルハルグ様の言葉にレーヴンが代表して答える。

 エールックがここに戻ったらルハルグ様が場所を伝えてくださるとの事だったのでご厚意に甘えて、俺達は先に泊まることを許された家に向かう事にした。
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