偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

文字の大きさ
上 下
20 / 55
本編

(20)主従

しおりを挟む

 翌日、皆に今後の進路の変更と、俺が眠れない状態であることを伝えた。
 宿屋の一階の食堂に俺とエールック、冒険者三人はあつまり、なぜかホルフの隣に妖精族の子が大人しく座っている。

「できればレーヴンが一緒に寝てくれると助かる」
「!!! なぜそいつなのですか!」

 俺の目の前に座るエールックが立ち上がり声を荒げる。その顔は怒りで真っ赤だ。
 エールックはこの前からどうも感情の起伏が大きい気がする。俺が心配をさせてしまっているからだろうか。俺は感情を乗せないように努めて冷ややかに答える。

「実績があるからだ。レーヴンには獣人狩りの時も救出してもらったし、俺も無自覚だが信頼しているんだろう。とにかくよく眠れる」
「王子様の無自覚ひどいもんねぇ。まー、いいよ。二人が一緒に休めるように見張り回せばいいだけだし」
「そうですね」

 レーヴンはただ苦笑していただけだったが、グリムラフもホルフも異論はないようだ。
 エールックはその様子を見れば、ぐっと言葉を飲み込み、俺を睨むように見下ろすとそのまま食堂を出て行った。

「あれはまた面倒だね、昨日も扉の外から騒いで王子様起こしそうだったから、部屋に行かないようにするの大変だったんだよね」
「そうなのか?」

 エールックの出て行った扉を見ていたが、グリムラフの言葉に彼を見る。

「んー王子様のこと、自分が把握できてないの嫌なんじゃない? 判んないけどさー。仕方ないからオレが見てくるよ」

 盛大なため息を着きながらグリムラフが億劫そうに立ち上がるのを、俺は手で制した。

「俺が話してくる。ここのところ余裕がなかったから、エールックとあまり話をしていないし」

 それに、エールックをこのまま連れて行くとして、竜の加護を受けられず王子でないことが判っても、俺に従ってもらえるのか確認しなくてはならない。
 もしそれが無理そうなら、どうにかして彼を置いていくしかない。その方法も考えないといけないだろう。

 そのためにもエールックがどういう思いで俺に着いてきているのか、きちんと確認する必要があった。

「ヴェル王子、村からは出ないように気を付けてくれ。あと何かあっても困るから、人がいないような物陰にもいかないでくれ。エールックが一緒でもだ」

 扉に向かおうとした俺にレーヴンが心配げに声をかけて来る。いくら安全と言えどもここは魔族の国だ、村の中でも人通りのないところは危険なのだろう。

「わかった。そんなに心配しなくても勝手な事はしない」

 俺は思わず苦笑してそう返せば、エールックを追った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!

元森
BL
 「嘘…俺、平凡受け…?!」 ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?! 隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!

使い捨ての元神子ですが、二回目はのんびり暮らしたい

夜乃すてら
BL
 一度目、支倉翠は異世界人を使い捨ての電池扱いしていた国に召喚された。双子の妹と信頼していた騎士の死を聞いて激怒した翠は、命と引き換えにその国を水没させたはずだった。  しかし、日本に舞い戻ってしまう。そこでは妹は行方不明になっていた。  病院を退院した帰り、事故で再び異世界へ。  二度目の国では、親切な猫獣人夫婦のエドアとシュシュに助けられ、コフィ屋で雑用をしながら、のんびり暮らし始めるが……どうやらこの国では魔法士狩りをしているようで……?  ※なんかよくわからんな…と没にしてた小説なんですが、案外いいかも…?と思って、試しにのせてみますが、続きはちゃんと考えてないので、その時の雰囲気で書く予定。  ※主人公が受けです。   元々は騎士ヒーローもので考えてたけど、ちょっと迷ってるから決めないでおきます。  ※猫獣人がひどい目にもあいません。 (※R指定、後から付け足すかもしれません。まだわからん。)  ※試し置きなので、急に消したらすみません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

悪役令息の兄には全てが視えている

翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」 駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。 大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。 そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?! 絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。 僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。 けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?! これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

処理中です...