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本編
(12)獣人狩り・6
しおりを挟むグリムラフに支えられているよりも、安定感のある腕に支えられる。
声からしてレーヴンだろう。
そういえば二人いた男のもう一人は悲鳴のあと存在を感じなくなった。さっき息絶えた髭面と同じく、グリムラフ達がなにか対処をしたのだと思う。そうは判っていても首を動かすことも出来ないから、真相は判らない。
ここにはレーヴンとグリムラフが来てくれたんだろうか。
周りを見たいと思ったのが通じたのか、頬に手が添えられ顔の向きを変えさせられる。
向いた先には俺を支えて小瓶の中身をあおっているレーヴンが居る。やはりレーヴンも来てくれていたのか、と思った時には顎を掴まれて上向かされると口付けられた。
「……んーっ……」
この麻痺毒は身体の内部は完全に麻痺させないようで、だんだんと口の中に生暖かいぬるぬるしたものが入り込んできたのがわかった。顎を高く持ち上げられて、のどが開くように頭を固定される。
ぬるぬるしたものは俺の舌を押しのけて喉の方に、どろどろとした生暖かいものを注ぎ込んでくる。口も塞がれて鼻で息するしかないが非常に苦しい。むせ込みそうだが吐き出したら駄目な事くらいは俺でもわかる。
口の中の解毒剤なんだろうか、暖かいそれを飲み込まないととは思うが、上手くできない。
息が苦しくなり唯一自由のきく視線を彷徨わせるが、レーヴンの顔が近すぎて何も見えない。
瞬けば苦しくて自然と涙がこぼれた。
「王子様、大丈夫だから。寝る時みたいな感じで力抜いて、ゆっくりで大丈夫だよ」
耳元でグリムラフの声がする。その内容を反芻して、先ほどテントで感じた呼吸音の心地よさや、今は感じることはできないが、支えられているレーヴンの体温を思い出す。
そもそも身体が動かないのに力を抜くもないと思ったが、そうでもなかったらしく俺はこくんと口の中の液体を飲み込むことが出来た。
ちゃんと飲み込めたと実感した後、視界が開けた。
「よかった、無事で」
レーヴンはそういうと、俺と視線を合わせて安心させるように微笑んだ。
「こっちも無事だね。うんうん貞操は守られてるよ」
「おまっどこ触ってんだグリ!!!」
グリムラフの報告にそちらを見たレーヴンが慌てている。
レーヴンの頭で少ししか見えないが、どうもグリムラフは俺の股の間に手を突っ込んでいるようだ。
「どこってお尻だよ、無理やり突っ込まれてるなら怪我してると思ったけど平気みたい。性別確認しただけなのかな」
「んなの触らなくてもわかるだろ! そいつらだって服脱いでないじゃないか!!」
「えー、でもさーこういう事でもなければ王子様の下半身なんて触る機会ないじゃん。レーヴンも見せてもらえば? 綺麗だよ」
グリムラフの綺麗の基準はなんなんだろうか。
触られても何も感じないし尻なんてなかなか自分で確認できないから、嫌悪せずに怪我の確認をしてくれるならありがたい。
不思議な事に身体を触れられていても、さっきの男たちに感じた不快感はこの二人には感じなかった。
俺は二人のやりとりを聞き、されるがままにしていた。というよりも俺は何も出来ないからされるままにしかならないんだが。
視線だけは二人を追っていたので、こちらを見たレーヴンと目が会う。
「あ、いや、これは、その……! おい!!! グリ! いい加減はなれろ!! あ、違う、足の罠をとっととはずせよ!」
徐々に顔を赤く染めてレーヴンは言いよどむと、俺の下半身の傍にいたグリムラフの頭を乱暴に押して引き離し、俺の衣服を整える。
いつも余裕があるように見えるレーヴンも、こういった話題だと慌てるんだなと思った。
随分と長い時間、他人の目に醜態をさらしていたのかと思ったが、そんな長い時間ではなかったらしい。
俺たちのやりとりを見守っていた、袋の中から助け出した少女がのちに俺に教えてくれた。
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