偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

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本編

(11)獣人狩り・5

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「……っ」

 きっと皮膚の感覚があれば男の手の力や、近づく顔から放たれる息がかかる感覚や、そういった気持ち悪いものを感じてしまったのだろう。
 だが、幸いなことにどのようなことをされても、今は何も感じない。

 心も、同じように何も感じなければいい。大丈夫だ。

 ここで助けが来なくても、攫われた子どもと同じ場所に運んでもらえるだろう。隙をつけばどうにか逃げることも出来るはずだ。

 大丈夫だ、自分を信じろ。こんなところで挫けていたら「竜の加護」など得られない。
 その為にも自分の状況、敵の状態を確認しろ。
 俺は自分自身にそう命じ、視線を走らせて男たちの様子を観察する。しかし視界はあっさり髭面の男の顔面に覆われた。

「どっちにしろこいつは死ぬまで俺たちの金儲けの為に働いてもらうだけだけどな。邪魔したこと後悔させてや」

 俺を覗き込み、気持ちの悪い笑みを浮かべた男の耳の上あたりに、ぼすっと短い矢が刺さった。
 よく見れば短いのではなく、頭にかなりめり込んだから出てる部分が短くなったのだろう。

 そういえばこの麻痺毒は聴覚と視覚は奪わないものなのか、と今更ながら気付く。

 頭に矢を受けた男は膝をつき、俺の胸へ頭を乗せるようにして息絶えた。ちょうど顔が俺の方を向いている。
 目は見開かれ、目と鼻から血がどろりと流れ出ていた。

 その男と、目が合った、気がした。

「――~~!!!!!」

 喉の奥にヒュッと空気が通った。男の頭が乗ったのは大した衝撃でもないし、麻痺しているから痛くもない。
 なのに、なんだ、全身を殴打されたみたいな、動かない身体に表現しがたい衝撃が走る。

「え?? おい! ぐわあああああっ!」

 ガシャンと鎖の音が響いたかと思うと、もう一人の下品な男の悲鳴が聞こえる。

「王子様大丈夫!!?」

 胸の上の男と見つめ合ったまま視線を外せなかった俺の耳に、知っている声が聞こえた。
 その直後、男の首根っこは掴まれ俺の視界から消え、代わりにグリムラフの顔が視界に入ってきた。

 よく見る可愛らしい表情ではなく視線が鋭い、金の瞳が俺の目を射貫くように見つめてくる。
 その視線に答えようと、俺は数回瞬いた。

「生きてるね。レーヴン、王子様無事だよ! と、麻痺毒かー、この匂い、熊も昏倒させる獣人用のやつじゃない? 良く意識保てたね王子様、ある意味めっちゃメンタル強いわ。……えーっと解毒薬もってるよね、んーこれかな」

 声は聞こえるが俺から見える範囲からグリムラフは消える。
 ややしてからよいしょっとグリムラフが俺の背に手を入れて上半身を起こしてくれた。
 力の入らない身体は重たいと聞く、グリムラフは俺よりも小柄だけど力はあるのか。可愛い容姿でもしっかり男なんだなと思った。

「解毒薬だからこれ飲んで。多分一時間しないで身体動くようになるから……って、あーこぼしちゃだめだってば」

 上半身を起こしてくれたまま、俺の口元に小瓶をあてがい何かを飲ませてくれているのは判るんだが、俺は身体が動かせないし、こぼしているのかも良く判らない。
 口の中に何か入ってきているのは判るが、上手く飲み込めていないのだろう。
 申し訳ないと思って再び数回瞬く。

「グリ、貸せ!」

 グリムラフに意志を伝えようと見つめていたら、反対側に身体を強く引き寄せられた。
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