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本編
(6)ぬくもり
しおりを挟むテントでは二人ずつ交代で休み、残りの三人は見張りで旅を進めている。
しかしなぜか俺がテントを使う時は一人で休むことが多い。なのでテントに誰かが一緒に居るというのは実は初めてだった。
「大丈夫だと言って…」
「無事にあなたを連れていくのが依頼だ。倒れられたりしたら困る」
不要な事だと言おうとした俺の言葉をさえぎってレーヴンが静かだが、強い口調でいってくる。
寝ている俺の傍にドカッと座れば、なぜか俺の手をとり、親指で俺の手のひらの剣だこの部分を押してきた。しかも最近できたところを、だ。普通に痛い。というかコイツ馬鹿力か。
「……っ」
「まだ新しいな。なんでこんな無茶な事してるんだ」
「無茶ってなんだ。俺は王族としての務めを果たしているだけだ」
「似合わない剣を振りまわして人格変わってまでか? 他の王子や王女はもっとのびのび生きてるように見えるけどな」
「俺は俺のしたいようにしている」
人の手のひらを好き勝手弄っている手から逃れようと、手を引くがまったく、びくりともしない。
これが体格差だっていうのは判っている。ならばそれを補うまでだ。
「<世界を駆ける風の精霊、世界を流れる水の精霊、その力を預かり受ける、我が肉体を>……っうぐ」
「ちょっと待てって、魔法なんて使うな」
肉体強化の呪文を唱え始めたら手を握られているのとは違う手で、口をおさえて塞がれた。
詠唱が完成せずに俺は無力なままだ。
魔法は便利ではあるが接近戦には向かない。
「悪かったよ。怒らせたいわけじゃないし、無駄に魔法つかって体力減らさないでくれ。頼む」
俺を上からのぞき込み、懇願するように言う。表情も心なしかすまなそうにしているが、あまり悪いと思っている気がしない。
しかしここで問答しても無駄な事は判るので、俺は小さく何度か頷いた。
俺が抵抗しないと信じたのか、レーヴンが手を離したので身体を起こし、寝床に座る。
「ところでお前達、俺からエールックを引き離しただろう」
「……あー、バレたか」
「何が目的だ。報酬は十分渡していると思うが?」
グリムラフとエールックの言い合いは自然発生だと思うが、あまりにも二人で席を外すことが多い。
エールックの居ないところで俺と話したいのだろうとあたりはつけているが、何時までたってもなにも言わないのでこちらから聞くことにした。
「金とかじゃない。ヴェル王子が明らかに無理をしていたから休んでもらいたかっただけだ。なんだかわからないが、エールックの前だと余計に気を使っているようだし、休めと言っても素直に聞いてくれないだろ?」
俺の探るよう視線をレーヴンは正面から受け止めて真面目な顔で答える。
……確かに、ここ数日やたら休むようにホルフからも言われていたが。
「物事はプライドだけじゃこなせない。あなたはどう見ても旅慣れしていない上に、身体も心も痛めつけているのが判る。竜の渓谷までは遠い道のりじゃないが、そんなんじゃたどり着く前に身体が壊れる」
「そんなに……酷いか。俺は」
「俺からすればかなりひどく見える。あーでもほら、偉い人には偉い人の色々があると言うのも判るから、そういうのが嫌で俺たちに依頼してくれたってのも理解はしているつもりだ。だけど今は旅の仲間だし、もうすこし俺たちを頼ってほしい」
ああなるほど。
冒険者を雇った理由をしがらみから逃れたかったと思われてるなら都合がいい。下手な詮索はされないで済みそうだ。
「わかった。足手まといになる気はない。お前達の進言通り休ませてもらう」
俺は安堵すると、レーヴンに背を向けるように再び寝床に横になった。
王宮のベッドに比べても仕方がないが、もう少し草の生えてる上に寝床を作った方がいいんじゃないだろうか。
地面は固く冷たい。たき火の熱が少し恋しい。そういえば毛布があったからそれをかければいいのか、と思い出し起き上がろうとしたところで押し倒された。
いや正確には毛布をかぶせられた後にレーヴンに抱き付かれ、寝床に再び転がされた。
「なっ……に??」
「いやあ、寒いなって思って。これなら暖かいだろ」
毛布で包まれ、さらにレーヴンに抱きしめられて身動きが取れない。
「暖かいと言うか、これだとお前は寒いだろう」
「…………。ヴェル王子抱きしめてると暖かいから大丈夫そう。王子体温高いな。子ども体温?」
「なんだ子ども体温って?」
「小さい子は大人より体温高いんだよ。知らない?」
「知らないな」
「そっか。俺たち孤児院に居た時はみんな雑魚寝だったから知ってるのかな。小さい子達あったかくてさ、冬は良く抱っこして寝てたんだよ。よく眠れるんだ……」
「……そうか」
誰かと一緒に眠った記憶など、正直ない。
「しかしさすがにこれは……っておい、レーヴン??」
俺が不満を伝えようとしたが、レーヴンはすでに眠っていた。
なんなんだ、こいつは。
しかし俺もぬくぬくとした毛布に包まれ、すぐに眠りに落ちてしまった。
人の心音や体温、寝息というのはこうも眠気を誘うのかと、初めて体験した。
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