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本編
(5)冷血王子
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冷血王子、それは俺の不名誉なあだ名だ。
母上から出生の秘密を聞き、竜の加護を受けられるよう生き始めた俺は不要なものを切り捨てた。その一つが愛想だ。
いや、違うか。本当は剣や魔法の訓練に必死すぎて余裕がなくなったんだ。だから相手への気遣いが出来なくなっていった。
俺は誰も気遣わない代わりに誰にも気遣われない、無駄に愛想を振りまかなくていい、鍛練に使える時間を手に入れる事が出来た。
そのうち冷ややかに、表情を変えずに佇んでいると、声もかけづらいのか誰も何も言ってこなくなった。
「だーかーらー!!! 何度言えばわかるわけ?? 陽が落ちる前に野営の準備すんだよ! 落ちてからだと周りの安全確認できないでしょ!」
「こんな森の中でヴェルヘレック様が何日もお休みされるなどありえないだろうがっ! 一歩でも前進すべきだ!」
「ありえなくたって森だから仕方ないでしょ!! ああもう、オレ周り見てくるね」
「逃げる気かグリムラフ!!」
たき火を起こし、その周りに腰を下ろして夕飯をとっていたが、食事が終わって暇になったからかグリムラフとエールックが言い合いをしたついでに周りの確認に行ってくれるようだ。
仲がいいのか悪いのか。本人たちに聞けば「悪い」としか返ってこないと思うが。
キルクハルグを出発し、隣接する魔族の国アエテルヌムへ入って既に一週間が経過している。
竜の渓谷はこの森を抜けてから山を一つ越えた先にある。旅路としては大きな問題もなく順調だ。
天気にも恵まれていて、夜になると少し冷える気がするが問題になる程ではない。さすがにグリムラフは上着を一枚身にまとうようになった。
ぱちんとたき火の薪がはじける音に、ふっと意識を取り戻す。
一瞬、眠っていたのか?
「ヴェルヘレック王子、飲み終わっているならそのカップ片付けますよ」
「え? あ、ああ。いや、自分でやるから構わないでくれ」
ホルフに声をかけられて空になったカップを握りしめていたことに気付いた。そして横に座っていたレーヴンがやたらとこちらを見てくる。
「なにか?」
「ヴェル王子、ちょっと疲れてます?」
いつの間にかレーヴンは俺をヴェルと呼ぶようになっていた。それに気付いたエールックが大騒ぎをしたが、俺が許したのでそのままになっている。
愛称の呼び方が同じだからか、レーヴンはセダー兄上に似ている気がする。
ただ、グリムラフの可愛らしさは母上に通じるところがある気もする。
ホルフはフードを脱ぐとやはり耳が少し尖っていて、瞳が光によって緑、青、紫と変化を見せた。魔族の血が入っているのは確実だから、彼が母上の子という事はないだろう。
そもそもこの三人の中に、母上の子がいると言う確証も無いわけだが。
「大丈夫だ。疲れてなどいない」
俺が無表情で返すと、少し身を乗り出して俺の顔を覗き込んでくる。世話の焼き方もなんだか兄上たちに似てる気がするな。
そんな事を考えていたら、本当にあっという間にレーヴンに抱き上げられていた。
「は?」
「光の所為かと思ったけど、やっぱ顔色が悪い。ホルフ、見張り任せてもいいか?」
「いいですけど、ヴェルヘレック王子を落として怪我とかさせないでくださいね」
「判ってる」
立ち上がって俺のカップをホルフは取り上げると、にこりと微笑んだ。
「ゆっくりおやすみください。ここ三日はずっとテントですし、旅慣れない方には疲れも取りにくいですから。明日の朝に体力回復の薬湯をご用意しますね」
「いや、本当に大丈夫だ。薬湯の無駄遣いはするな。レーヴン下ろせ」
血を吐く思いで鍛えていた数か月前に比べればこのくらいの疲労は問題ないのに。
俺はホルフとレーヴンに命令するが聞いてくれない。
寝床にしているテントまで運ばれれば、ほぼ草の上と変わらない薄い布を引いた寝床の上に優しく下ろされた。
母上から出生の秘密を聞き、竜の加護を受けられるよう生き始めた俺は不要なものを切り捨てた。その一つが愛想だ。
いや、違うか。本当は剣や魔法の訓練に必死すぎて余裕がなくなったんだ。だから相手への気遣いが出来なくなっていった。
俺は誰も気遣わない代わりに誰にも気遣われない、無駄に愛想を振りまかなくていい、鍛練に使える時間を手に入れる事が出来た。
そのうち冷ややかに、表情を変えずに佇んでいると、声もかけづらいのか誰も何も言ってこなくなった。
「だーかーらー!!! 何度言えばわかるわけ?? 陽が落ちる前に野営の準備すんだよ! 落ちてからだと周りの安全確認できないでしょ!」
「こんな森の中でヴェルヘレック様が何日もお休みされるなどありえないだろうがっ! 一歩でも前進すべきだ!」
「ありえなくたって森だから仕方ないでしょ!! ああもう、オレ周り見てくるね」
「逃げる気かグリムラフ!!」
たき火を起こし、その周りに腰を下ろして夕飯をとっていたが、食事が終わって暇になったからかグリムラフとエールックが言い合いをしたついでに周りの確認に行ってくれるようだ。
仲がいいのか悪いのか。本人たちに聞けば「悪い」としか返ってこないと思うが。
キルクハルグを出発し、隣接する魔族の国アエテルヌムへ入って既に一週間が経過している。
竜の渓谷はこの森を抜けてから山を一つ越えた先にある。旅路としては大きな問題もなく順調だ。
天気にも恵まれていて、夜になると少し冷える気がするが問題になる程ではない。さすがにグリムラフは上着を一枚身にまとうようになった。
ぱちんとたき火の薪がはじける音に、ふっと意識を取り戻す。
一瞬、眠っていたのか?
「ヴェルヘレック王子、飲み終わっているならそのカップ片付けますよ」
「え? あ、ああ。いや、自分でやるから構わないでくれ」
ホルフに声をかけられて空になったカップを握りしめていたことに気付いた。そして横に座っていたレーヴンがやたらとこちらを見てくる。
「なにか?」
「ヴェル王子、ちょっと疲れてます?」
いつの間にかレーヴンは俺をヴェルと呼ぶようになっていた。それに気付いたエールックが大騒ぎをしたが、俺が許したのでそのままになっている。
愛称の呼び方が同じだからか、レーヴンはセダー兄上に似ている気がする。
ただ、グリムラフの可愛らしさは母上に通じるところがある気もする。
ホルフはフードを脱ぐとやはり耳が少し尖っていて、瞳が光によって緑、青、紫と変化を見せた。魔族の血が入っているのは確実だから、彼が母上の子という事はないだろう。
そもそもこの三人の中に、母上の子がいると言う確証も無いわけだが。
「大丈夫だ。疲れてなどいない」
俺が無表情で返すと、少し身を乗り出して俺の顔を覗き込んでくる。世話の焼き方もなんだか兄上たちに似てる気がするな。
そんな事を考えていたら、本当にあっという間にレーヴンに抱き上げられていた。
「は?」
「光の所為かと思ったけど、やっぱ顔色が悪い。ホルフ、見張り任せてもいいか?」
「いいですけど、ヴェルヘレック王子を落として怪我とかさせないでくださいね」
「判ってる」
立ち上がって俺のカップをホルフは取り上げると、にこりと微笑んだ。
「ゆっくりおやすみください。ここ三日はずっとテントですし、旅慣れない方には疲れも取りにくいですから。明日の朝に体力回復の薬湯をご用意しますね」
「いや、本当に大丈夫だ。薬湯の無駄遣いはするな。レーヴン下ろせ」
血を吐く思いで鍛えていた数か月前に比べればこのくらいの疲労は問題ないのに。
俺はホルフとレーヴンに命令するが聞いてくれない。
寝床にしているテントまで運ばれれば、ほぼ草の上と変わらない薄い布を引いた寝床の上に優しく下ろされた。
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