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第九幕
しおりを挟む稽古場をのぞけば黒髪のいい男が居た。パッと見目を引く。俺と違って連続で舞台にも立たせてもらえるのはその精力の賜物かよと穿ってしまう。たぶん、役者としての実力なんだろうけど。
「おい、ララ。話があるちょっと顔を貸せ」
休憩中の団員たちが俺に気付いてどよめく。なんで休憩中の同僚を呼んだだけでそんなに騒ぐんだ。意味が解らん。お前達の期待するような濡れ場にはならないから安心しろ。
「なになにシャクナ、あの優男の騎士が居なくなったら寂しくなっちゃった?」
「許可もなく人の身体に触るな、尻を揉むな」
廊下に出れば話す前に人の尻を揉み始めたのでその手をはたく。あまりにもいつもの挨拶すぎるがここ二週間くらいなかったのでちょっと新鮮だ。
「んー? あれ、お前腹出てきてないか?」
「だから触るな……って、いつっ」
叩いたのに全く意に介さず再び尻を触りつつ腹まで撫でて来た。下腹を撫でられれば確かに最近俺も膨らんできた気がしてたので、ぎくりとする。体型維持も仕事の一つだ。それが出来てないなんてさすがに俺が言えるわけがない。
「なんだ? 痛いのか??」
「押すなバカ、うっ……んぁっ」
「お、なんか反応いいな。痛がるシャクナ可愛い」
調子に乗ったララがぐいぐい腹を押す。痛いような気持ちいいような変な感覚に俺は顔をしかめた。そしてララをぶん殴ろうかと思ったが次の舞台があると思い出したので、今回も足を踏みつけようとした時。
「いい加減にしてください!!」
突然やってきたニースに突き飛ばされた。俺は思わず腹を押さえてララの前に立つニースを見る。よく見ろ、いい加減にすべきなのはお前の後ろの男だぞ。そう言いたかったがニースが大きな瞳に涙をためてキッとにらみつけて来た姿が可愛らしかったので言葉を飲み込んでやる。
それにそもそも俺はララに遊ばれにきたわけじゃない。
「その気もないのにそうやってララさんを誘惑するなんてシャクナさん、酷い!」
「ニース、どこをどう見たらそうなるのか俺には全くわからないが、最近カイに何かあったか知らないか?」
「はぁ?なんでカイの話になるんですか?」
「なぜって俺はそれを聞きに来ただけだし」
俺の言葉にニースが眉間にしわを寄せる。可愛い顔が台無しだ。
「オレは特になにも聞いてないけど、ニースはなんか知ってるか?」
俺とニースの溝を埋めるべくララが答える。適切に空気が読めるから助かる。
「ぼくだって知りませんよ。何かあったとすれば仕えてる主人の横暴がひどくて疲労してるんじゃないんですかぁ?」
確かに最近はイワンの相手もさせていたからな。でも仕事量は大して変わってないはずだ。俺の稽古や本番がない分暇なはずだし。
「それは今更だな」
「シャクナさんあなた本当にさいってーですね。よくあなたみたいな自分勝手で、協調性がなくて暴力的で、ただ綺麗なだけの中身のない人間にカイは大人しく従ってますよ。ぼくだったら絶対無理!」
「おい、ニース、それは言い過ぎ……」
「ララさんは黙っててください。いいですか、大体あなたは自分の価値観を勝手に人に押し…」
「知ってる事ないならいいや。邪魔したな。ありがとう」
「って話してる傍から!!!! もう、本当にサイテー!!!」
ニースが地団駄を踏んでいるがララが宥めるようにそれを後ろから抱きしめている。黒い瞳が「とっとと行け」と語っているので俺はララに任せて部屋に戻ることにした。
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