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番外編(レオ視点)

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 ―― はらませるハラマセル孕ませる。

 確かに俺たち【苗床の乙女】は【花の騎士】の子種で力を増し【聖女】になる。シャルロたち【花の騎士】に特別な体質があってもおかしくはない。

 だがしかしだ。
 ジャックの言う通りだとしても男同士の俺達では子どもをつくれない。全く意味がない。
 ある意味聖女候補の俺を虜にすると言う点で役に立ってはいるが、俺が惚れたのはシャルロの身体ではなく性格と顔だ。
 ヤリまくりたいわけじゃない。
 今までみたいに一緒に食事をしたり出かけたりして、あわよくば手を繋いだりして照れたり焦ったりするシャルロを堪能したいのだ。

 しかし今手を繋げば抱きしめてキスして突っ込んで喘がせてしまう。そして精根尽きたシャルロは数日寝込む。

 あまりにも欲望が止まらないから、自分のこじらせた恋心以外にも原因があるのではと疑い、ジャックを訪ねたと言うのに。シャルロの健やかな日々を守るためには俺が自制するしかない。

「なんの解決にもならねぇ……」

 シャルロの為に耐えられるという気合はあるが、気合だけでは乗り切れないこともある。
 世界を滅ぼすと言う邪神に対抗できる花の騎士の魔力に、聖女になっていない俺が勝てるとは思えないし、実際負けっぱなしだ。
 
 憂鬱な気分で廊下を歩いていれば人目を集める場所があった。
 カフェテリアのテラス席。
 そこで食事をしている生徒達の中で一際目立つ二人組。

 花の騎士エドウィンと聖女候補のエミリアだ。

 楽しそうな二人の雰囲気を周りの生徒たちもうっとり見つめている。
 理想の【苗床の乙女】と【花の騎士】のカップルだ。周りが羨望の眼差しを向けるのもわかる。

 そういえばあの二人の場合はどうなんだろう?

 気にはなるがさすがに友人たちの性事情を聞くのもはばかられる。
 悩んで二人を見ていたのは数十秒なかったのに、目ざとくエドウィンに見つかり手招きされた。
 なんとなくお似合いの二人の邪魔に入るようで気が引けるが、無視するのも後々面倒なので呼ばれるままに二人のテーブルについた。
 
「レオ君、いつもより色気が三割増しでさっきから女子の視線集めてるよ」

 エミリアが笑顔で冗談を言いつつ、生ハムたっぷりのサンドイッチとコーヒーを俺の前におく。

「色気というより百面相だったけどな。エミリアの手料理は美味いぞ」
「えへへ、エド君と食べようと思って作って来たんだけど多すぎちゃって。レオ君も食べて」

 確かにテーブルの上には男が3、4人が食べても満足できそうな量のサンドイッチや卵焼き、フィッシュフライなどがある。
 そういえば俺、最後に食事したのいつだっけ?

「……助かる。誘われなかったら昼飯食べ損ねるとこだった。ありがと」

 俺は二人に礼を言ってからサンドイッチに食らいつく。俺が食べるのを見守ってから二人も食事を再開した。

「レオ、お前最近顔色悪くないか?」
「……自分じゃ気付かないけど」
「わたしもそれ思った。なんだか少しやつれた気がするよ? それにシャルロさまも最近お見かけしない日が多いし、もしかして何かあったの?」

 エミリアの言葉に俺はサンドイッチを噛み締めつつ、視線を彷徨わせる。

「レオ君?」
「……。…………。シャルロは……ヤリ過ぎて寝てる」
「それこの間も言ってなかったか?」
「……。」

 俺は視線を外したままもぐもぐ口を動かす。

 俺のせいでシャルロが寝込むのは既に五回目である。どうにか事に及ばずに、と思うのに気付けば押し倒しているし、シャルロが気絶しない程度に、と思うのに気付けば自分も気を失うまでヤッている。

「やっぱり聖女にならないと花の騎士の魔力には抗えないのかな……」

 そうなると今のところ解決策がなくて手詰まりである。

「……え、もしかしてレオ君【聖女】になって、ないの?」

 カシャン…とテーブルにフォークが落ちた音が響く。
 視線を上げれば、フォークを落としたエミリアが蒼白な顔でこちらを見ている。

 エミリアはエドウィンから話を聞いていると思っていたが、エドウィンを見れば「さすがに親友の繊細な事情を勝手に吹聴しない」と顔を横に振った。
 こういう口の堅い部分は花の騎士達の中で随一だ。さすがエドウィン。自分で説明するのは微妙だがこれは仕方ない。

「【聖女】にはなってない。シャルロの未来視で俺が聖女になると良くないことが起こるって視えたらしくって、だから……俺がシャルロを……まあそういうことだ」

 みなまで言わなくても通じるだろう。
 照れくささもあって歯切れの悪い俺の言葉にエミリアの顔色がさらに悪くなる。

「どうしよう……このままじゃレオ君が死んじゃうかも」

 顔面蒼白のエミリアの言葉に、俺とエドウィンの顔色が悪くなったのも言うまでもない。
 
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