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第3話 神様候補、新たな情報収集をする

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「妹さんの入院されている病院はお近くですか? せっかくですのでお会いになられた方がよろしいかと思います。約束は守っていただきますがそれは後日にしましょう」

 僕の言葉にようやく涙を拭って彼女が言った。

「連絡先を教えてください。携帯番号でもいいですしラーインでも大丈夫です」

 彼女の言葉に僕は首を振り「携帯電話そういったものは持ち合わせていませんが既にあなたには僕の印がついていますのでどこにいても連絡はとれますよ。僕に連絡をとりたいときは左手の甲にある印に右手を触れてから頭の中で呼びかけてください。ああ、そういえば挨拶がまだでしたね。この世界では『神代かみしろ しん』と名のっています。気軽に『シン』と呼んでください」

「シン……さんですね。本当にありがとうございました」

 彼女はそう告げると深々と頭をさげてから喫茶店を飛び出して行った。

 自らの名前を告げることさえ忘れて……。

(――さて、どうしたものですかね)

 僕は考えていた。

(とりあえずこの世界の人間と接触は出来たがどうやって試験内容を達成させられるかが問題だ。あの女性が言うには『幸せの基準は人によって違う』とのこと、僕があの女性を幸せにするにはどう行動をすればいいのかを調べなければならないな)

 僕はそう考えて彼女から連絡があるまではこの世界における幸せの基準を調べることにした。

 ◇◇◇

「――すみません。少しお聞きしたいのですが」

「忙しいのでお断りします」

「ナンパは遠慮しておきます」

「キャッチですか? お金なんかありませんよ」

 その後も僕は街でいろいろな人に声をかけてまわり話を聞くことにしたがほとんどのひとが聞く耳さえ持たずに足早に立ち去っていく。

(なんとこの世界の人間たちはせわしなく動きつめるのだろう?これでは話を聞くどころではなさそうですね)

 僕が途方にくれていると後ろから声がかかった。

「お兄さん、なにしてるの? 暇してるなら遊びにいってご飯おごってくれない?」

 声の主をみるとまだ10代半ばをすぎたばかりと思われるほど若い娘が笑いながら話しかけてきていた。

「ご飯はわかりますが、遊び……ですか? それはどういったものですか?」

「えー? 遊びって言ったら遊びだよ。カラオケとかぁ、買い物とか。そうだ、ブランドものを買ってくれたらお兄さんのこと好きになっちゃうかもしれないよぉ?」

「なるほど、欲しいものをほどこせばこちらに好意を持ってくれるのだな。なるほど、こちらではそういった感じなのか」

 僕は彼女に聞こえないくらいの小声でつぶやくと彼女に告げた。

「どういったものが喜ばれるのでしょうか?」

「えー? 本当に買ってくれるのぉ? 本気マジで超うれしーかも。ならあそこのマルナナに行こうよ、あそこならなんでもあるから買い物してご飯もおごってね」

「お兄さんラッキーだよこんな若い娘に腕組まれて買い物行けるなんてなかなかないよ」

 彼女はそう言って僕の腕にもたれかかるようにくっついて歩く。

(正直、歩きにくいから離れてほしいけど彼女なりに楽しんでるなら仕方ないのかな)

 僕はそう思いながら彼女の向かうお店に連れて行かれた。

「これこれ! 最新のブランドで昨日もテレビでバンバン宣伝してたヤツだ。これ欲しかったんだぁ」

 お店に着くとあちこちと見てまわり欲しいものを探して僕に見せてくる。

「でも、本当にいいの? これ結構するヤツだよ?」

「そのかわり、後で話を聞かせてもらえるかな?」

「話? 話すだけでいいならご飯食べながらでもいいよね? でも、そこまでだよ。それ以上を求めたらお兄さん捕まっちゃうからねぇ」

 なんの話をしているのか理解出来なかった僕だったが特に気にせずに「ああ」と答えておいた。

「――ありがとー。お兄さん本当に気前がいいね。それで話ってなに? 私に答えられるものなら個人情報以外なら答えてあげるわよ」

 欲しいものを買ってもらいホクホク顔の彼女はファーストフード店の片すみに陣どって飲み物に口をつけながら僕に聞いてくる。

「君のなかで『幸せ』ってどういったものなのか教えて欲しいんだ」

「えー? なになに? お兄さんもしかして宗教の勧誘でもしてるの? それともその若さで人生に疲れちゃった派なの?」

「いや、そのどちらでもないけど今の僕には必要なことなんだよ」

「ふーん。よくわからないけどお兄さんも大変なんだね。そうね、私の場合はお金に余裕があって友達とバカやって楽しくすごすのが一番の幸せかなぁ。まあ、そんなのも今だけだって頭ではわかってるつもりなんだけどね。未来なんて誰にもわかんないしいま楽しまなくちゃ後で後悔しそうだしね」

「ふむ。そういう考え方もあるのか」

 僕がそう考えをまとめていると後ろから声がかかる。

「おい、お前。ユラになにしてやがるんだ?」

 後ろを振り返ると彼女と同じくらいにみえる男が怒りの表情で立っていた。

「げっ アツシ。なんであんたがこんな所にいるわけ?」

 ユラと呼ばれた彼女がその男を見てそう答える。

「たまたま店に入っていくのを見かけたから追ってきたのにいつの間にか見失って探してたんだよ。それでそいつは誰なんだ?」

「店の前で困ってたから人助けをしただけよ。食事これはそのお礼。人生相談をしてあげただけだから変な勘ぐりはやめてよね」

「人生相談? お前が? なんの冗談だよ。学のないお前にそんな高尚なことができるはずないだろ? 俺が来なかったらこの後ヤバイところへ連れて行かれたに決まってるだろ」

 後ろで吠えるのをまるで聞こえないように僕は涼しい顔で眺めながらユラに聞いた。

「知り合いかい?」

「う……、いちおう彼氏です」

「かれし……とはどういったものなのですか?」

 僕があまりにも真顔で聞き返すのでユラは「彼氏は彼氏よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」と言って顔を赤らめながら横を向いた。

「よくわからないのですけどあなたにとって彼は大切な人ということなのですか?」

「そ、そうよ。悪い?」

「ふむ。とすると、あなたはいま幸せなのですね?」

「なっ!? 恥ずかしいからそんなはっきり言わないでよ」

「なるほど。これも幸せのひとつだと言うことがわかりました。どうもありがとう」

 僕はそうお礼を言って席を立ち食べ終わった紙くずを片付けてからまたブツブツとつぶやきながら店を出ていった。

「なあ、結局アイツなんだったんだ?」

「よくわかんないけど哲学でも専攻してる研究者かなんかじゃないのかな? よくわかんないけど」

 僕が去った後に残されたふたりはそう言って首をひねっていた。
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