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第1話 異世界への片道切符
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神代 理愛 十九歳
私は今、ある地方都市で一人暮らしをしながら大学の授業を受けている。
「~でありますから投資の規模と利益の関係は――」
その日は経済学の選択科目にある新規スタートアップ事業の説明を外部講師としてベンチャー企業を設立した若い実業家を講師に開催されていたのだけど……。
(……まったく、簡単に言ってくれちゃって。確かに講師である若手社長はその腕ひとつで会社を立ち上げて成功したかもしれないけれど、そんなにうまくいく事なんてほんの一握りの強運な人たちなのよね)
昔から人に使われる事に違和感をおぼえていた私は自由に仕事がしたくて経営学を専攻してみたけれど、いざ入学してみれば周りはギラギラした人たちばかりで仲良く話せる友達もなかなか出来ずにいた。
(趣味の合う親友のひとりも居ればもっと楽しい大学生活になっただろうけどそれもまた儚い夢ね)
――パチパチパチ
ぼんやりと公演を聞き流していた私は講師に対する拍手で一気に現実へと引き戻されたのだった。
◇◇◇
「――ありがとうございました。またのご利用をお願いします」
その後も特に何も収穫の無い日々が続き、前期の授業が終わりを告げると同時に大学は一斉に夏季休暇に入る。
親からの仕送りだけでは一人暮らしをするには足りず私は大学の夏季休暇を利用して毎日のように宅配バイトに明け暮れていた。
「ふう。絶対に今年の夏は暑すぎよね? このままじゃあダイエットを通り越して干からびてしまうわよ」
学生の身で車なんて贅沢品を持っているわけもなくバイト先から支給された三輪自転車に荷物を積んで配達をするのだがその日の気温はこの夏一番の猛暑日となりあまりの暑さに私は目まいを起こしてその場に倒れ込んでしまう。
「おい! 君、大丈夫か!? 誰か救急車を呼んでくれ!」
もうろうとした意識の中で道路に倒れ込んだ私を心配してくれる声を聞いた気がした。
◇◇◇
「――起きてください」
どこからともなく頭の中にそんな声が聞こえる。
「誰?」
まだ頭がはっきりしない私だったが、なんとなく暑さで倒れて運ばれたような記憶があったので病院に寝かされているのだろうと思い、目を開けてみるが何も見えない真っ白な空間が目に映るだけだった。
「ここは何処なの?」
不思議なことに身体の自重を感じない上に自らの感覚さえはっきりしないので手も足も首も動かす事が出来ずただ頭に語りかける声を聞くしか無かった。
「――私は転生の輪廻を管理している者です。この場所に本来ならばまだ来る予定のない魂が流されて来たと報告を受けて様子を見に来たのですが確かに転生リストには無い魂のようです。なぜこのようなイレギュラーが起こったのかは分かりませんがあなたの魂はまだ受け入れる事が出来ないのです」
「輪廻の輪? 私は死んでしまったという事なのでしょうか?」
「そうですね。残念ながら貴方の身体は現世では維持の出来ない状態になってしまっています」
「そうなのですね。それで私は転生の輪廻から拒否されたとの事ですが、これからどうなるのでしょうか?」
本来ならば全く理解が追いつかないはずなのだが何故か素直に現状を受け入れることが出来ている自分を不思議に感じながらも説明を続ける管理者の声に意識を向けた。
「あなたが何故ここに来たのか理由は分かりませんがこの場所に迷い込んだ魂は元の世界には転生するしか戻す事は出来ません。しかも、あなたの魂は輪廻の輪から外れ迷い込んだものですので元の世界には転生すらも出来ないのです」
「ならばこのまま消えるしかないのですか?」
「いいえ。これといった落ち度のないあなたの魂をきちんとした輪廻に戻すためにもあなたには正規の寿命を全うしてもらう必要があります。そのため現世の代わりに私の管理する箱庭と呼ばれる世界で暮らして頂く事になります」
「そこで私は何をすれば良いのでしょうか?」
「特にこれといった制約はありませんので悪事さえ働かなければ何をされても結構です。ただ寿命を全うして輪廻の輪に加わって頂ければ良いのです」
輪廻の管理者を名乗る者はそう言って優しく微笑んだ。
「しかし、何をしても良いと言われてもそこは私の生きてきた世界とは文化レベルが違うのですよね?」
「そうですが、それについては心配はいりません。箱庭の世界では固有能力を発現させて仕事に活かす事が一般的となっていますので暮らすための仕事にあぶれる事は少ないと思います。固有スキルに関しては大きな街の教会へ行けば確認することが出来ます」
「固有能力……ですか。話を聞く限り特技のようなものですね。私にも何かあると良いのですが……」
「どんな能力かはこの場ではお答え出来ませんが少しだけ加護を付加しておきますので世界を楽しんでくださいね。ああ、そろそろ時間になりましたので向こうへ送りますね。良き人生をおくられる事を期待しております」
輪廻の管理者と名乗った存在はそれだけ告げると私の目の前から掻き消えた。
◇◇◇
――ぴちょん
「冷たい!?」
再び意識が戻ったときには大きな樹木の下に寝ていた私はゆっくりと起き上がるとまず自分の状態を確認してみることにした。
(怪我はしていないようだし身体もちゃんと動く。元の身体は消滅してしまったと言っていたけどあの管理者と名乗っていた女性が復元してくれたのかな?)
そう考えた私は次に持ち物の確認をしてみるが現世で持っていたはずの荷物は無く、ズタ袋がひとつ置いてあるだけで中を確認するも当然ながらスマホや財布などは見当たらない。
(まあ、そうだとは思ったけどね。もし、この箱庭と呼ばれる世界が私の生きていた日本と同じかそれに酷似しているならばもしかしたらとも思ったのだけれどやっぱり無理よね)
私はそう考えて背中まである髪を後ろで結んでから街の教会を探すため立ち上がった。
私は今、ある地方都市で一人暮らしをしながら大学の授業を受けている。
「~でありますから投資の規模と利益の関係は――」
その日は経済学の選択科目にある新規スタートアップ事業の説明を外部講師としてベンチャー企業を設立した若い実業家を講師に開催されていたのだけど……。
(……まったく、簡単に言ってくれちゃって。確かに講師である若手社長はその腕ひとつで会社を立ち上げて成功したかもしれないけれど、そんなにうまくいく事なんてほんの一握りの強運な人たちなのよね)
昔から人に使われる事に違和感をおぼえていた私は自由に仕事がしたくて経営学を専攻してみたけれど、いざ入学してみれば周りはギラギラした人たちばかりで仲良く話せる友達もなかなか出来ずにいた。
(趣味の合う親友のひとりも居ればもっと楽しい大学生活になっただろうけどそれもまた儚い夢ね)
――パチパチパチ
ぼんやりと公演を聞き流していた私は講師に対する拍手で一気に現実へと引き戻されたのだった。
◇◇◇
「――ありがとうございました。またのご利用をお願いします」
その後も特に何も収穫の無い日々が続き、前期の授業が終わりを告げると同時に大学は一斉に夏季休暇に入る。
親からの仕送りだけでは一人暮らしをするには足りず私は大学の夏季休暇を利用して毎日のように宅配バイトに明け暮れていた。
「ふう。絶対に今年の夏は暑すぎよね? このままじゃあダイエットを通り越して干からびてしまうわよ」
学生の身で車なんて贅沢品を持っているわけもなくバイト先から支給された三輪自転車に荷物を積んで配達をするのだがその日の気温はこの夏一番の猛暑日となりあまりの暑さに私は目まいを起こしてその場に倒れ込んでしまう。
「おい! 君、大丈夫か!? 誰か救急車を呼んでくれ!」
もうろうとした意識の中で道路に倒れ込んだ私を心配してくれる声を聞いた気がした。
◇◇◇
「――起きてください」
どこからともなく頭の中にそんな声が聞こえる。
「誰?」
まだ頭がはっきりしない私だったが、なんとなく暑さで倒れて運ばれたような記憶があったので病院に寝かされているのだろうと思い、目を開けてみるが何も見えない真っ白な空間が目に映るだけだった。
「ここは何処なの?」
不思議なことに身体の自重を感じない上に自らの感覚さえはっきりしないので手も足も首も動かす事が出来ずただ頭に語りかける声を聞くしか無かった。
「――私は転生の輪廻を管理している者です。この場所に本来ならばまだ来る予定のない魂が流されて来たと報告を受けて様子を見に来たのですが確かに転生リストには無い魂のようです。なぜこのようなイレギュラーが起こったのかは分かりませんがあなたの魂はまだ受け入れる事が出来ないのです」
「輪廻の輪? 私は死んでしまったという事なのでしょうか?」
「そうですね。残念ながら貴方の身体は現世では維持の出来ない状態になってしまっています」
「そうなのですね。それで私は転生の輪廻から拒否されたとの事ですが、これからどうなるのでしょうか?」
本来ならば全く理解が追いつかないはずなのだが何故か素直に現状を受け入れることが出来ている自分を不思議に感じながらも説明を続ける管理者の声に意識を向けた。
「あなたが何故ここに来たのか理由は分かりませんがこの場所に迷い込んだ魂は元の世界には転生するしか戻す事は出来ません。しかも、あなたの魂は輪廻の輪から外れ迷い込んだものですので元の世界には転生すらも出来ないのです」
「ならばこのまま消えるしかないのですか?」
「いいえ。これといった落ち度のないあなたの魂をきちんとした輪廻に戻すためにもあなたには正規の寿命を全うしてもらう必要があります。そのため現世の代わりに私の管理する箱庭と呼ばれる世界で暮らして頂く事になります」
「そこで私は何をすれば良いのでしょうか?」
「特にこれといった制約はありませんので悪事さえ働かなければ何をされても結構です。ただ寿命を全うして輪廻の輪に加わって頂ければ良いのです」
輪廻の管理者を名乗る者はそう言って優しく微笑んだ。
「しかし、何をしても良いと言われてもそこは私の生きてきた世界とは文化レベルが違うのですよね?」
「そうですが、それについては心配はいりません。箱庭の世界では固有能力を発現させて仕事に活かす事が一般的となっていますので暮らすための仕事にあぶれる事は少ないと思います。固有スキルに関しては大きな街の教会へ行けば確認することが出来ます」
「固有能力……ですか。話を聞く限り特技のようなものですね。私にも何かあると良いのですが……」
「どんな能力かはこの場ではお答え出来ませんが少しだけ加護を付加しておきますので世界を楽しんでくださいね。ああ、そろそろ時間になりましたので向こうへ送りますね。良き人生をおくられる事を期待しております」
輪廻の管理者と名乗った存在はそれだけ告げると私の目の前から掻き消えた。
◇◇◇
――ぴちょん
「冷たい!?」
再び意識が戻ったときには大きな樹木の下に寝ていた私はゆっくりと起き上がるとまず自分の状態を確認してみることにした。
(怪我はしていないようだし身体もちゃんと動く。元の身体は消滅してしまったと言っていたけどあの管理者と名乗っていた女性が復元してくれたのかな?)
そう考えた私は次に持ち物の確認をしてみるが現世で持っていたはずの荷物は無く、ズタ袋がひとつ置いてあるだけで中を確認するも当然ながらスマホや財布などは見当たらない。
(まあ、そうだとは思ったけどね。もし、この箱庭と呼ばれる世界が私の生きていた日本と同じかそれに酷似しているならばもしかしたらとも思ったのだけれどやっぱり無理よね)
私はそう考えて背中まである髪を後ろで結んでから街の教会を探すため立ち上がった。
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