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第106話【クーレリアからのお誘い】

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「これは素晴らしい!まさに神の包丁と言える!これはあなたが作ったのかい?」

 包丁を手にした料理長は思わず感嘆の声をあげた。
 やはり職人として商品を誉められれば嬉しくクーレリアは軽く頷いて笑顔を返した。

「そうかい、素晴らしい腕だね。
 この包丁は正直、小金貨一枚だと安すぎると思うが追加料金を払うのもちょっと違う気がするな……そうだ!」

 料理長は良いことを思いついたとばかりにクーレリアに言った。

「本当に良い品をありがとう。
 お礼に今日の夕食をご馳走させて貰えないか?
 この包丁で作る最高級の料理を出そうと思うが予定は大丈夫かな?」

 料理長の言葉にクーレリアは喜んだが少し考えてから答えた。

「私の恩師も一緒でいいですか?
 私がこの包丁を打てるようになったのはその人のおかげですから……」

「もちろん大丈夫だよ。では夕刻の鐘が鳴る頃に二人で予約を入れておくよ」

「はい。ありがとうございます」

 クーレリアはお礼を言うとお店を出てその足でデイル亭に向かった。

   *   *   *

 ーーーからんころん。

 デイル亭のドア鐘が鳴った。

「すみません。こちらにオルトさんは居られますか?」

「あらクーレリアさん。
 オルトさんですか?今はそこの診療室にエスカさんと居られますよ」

 昼食のラッシュが落ち着いた時だったのでサラが食堂の後片づけをしていた。

 コンコン。

「クーレリアです。オルトさん居られますか?」

 クーレリアは診療室のドアをノックして声をかけた。

「クーレリアさん?
 はい、居ますよ。どうぞ入っても大丈夫ですよ」

 オルトの声を聞いたクーレリアは診療室のドアを開け、中に入っていった。
 中ではオルトとエスカが診察に使う魔道具の説明と確認をしていた。

「どうしました?ハンマーの事でなにかトラブルでもありましたか?」

 クーレリアが直接僕に用事があるとしたらハンマーの事くらいしか思いつかないので、そう聞くとクーレリアは首を左右に振り本題にはいった。

「あれからオルトさんの提案にあった、料理包丁や農具を作って幾つか販売したのですけど、その中の包丁をお食事処カクレンガの料理長さんが大層気に入ってくれて、包丁のお礼にディナーに招待されたんです。
 でも、私ひとりで行くのもちょっと怖いので恩師も一緒に連れて行くと言い、了承を得ました」

「怖い?なにかありそうな感じだったの?」

「特別に迫られたりとかは無かったのですけど、たぶん包丁の作り方を聞かれたり製品の独占的な買い取りを提示されそうな感じはなんとなくありましたので私だけだとどう対処すれば良いかわからないんです。
 だから一緒に行って貰えると助かるのですが……駄目ですか?」

 そう言いながらクーレリアは少し涙ぐんで上目遣いに頼んできた。

「だから言ったじゃない。
 多分そんな事になると思ってたわ。
 まあ、私も明日のオープンを迎えたら他人事じゃなくなるかもしれないけどね」

 後ろで聞いていたエスカがため息をひとつついて苦笑いをした。

「まあ、仕方ないんじゃないかな。
 なにかあったときに対処出来るのがオルトさんだけなら行くしかないでしょう。
 あ、でもちゃんとシミリさんには断って行かないと駄目だよ。
 絶対にすねられて大変な事になると思うからね」

「分かってるよ。それで、いつ何処に行ったらいいんだい?
 それまでに用事は済ませておくから」

「本当ですか?ありがとうございます!
 でしたら、夕刻の鐘が鳴る半刻前に私の工房へ来てくれたらと思います。
 すみませんが宜しくお願いします」

 クーレリアはそう言うと嬉しそうに帰って行った。

   *   *   *

 入れ替わりでシミリが商業ギルドから帰ってきたので先程のクーレリアとの話の説明を行った。

「ふーん。まあオルト君だしね。
 いつものことだから仕方ないと思うけどあまり深入りしないようにしてね」

 あの後、帰ってきたシミリにしっかりと釘をさされた僕は「善処します」と苦笑いをしてクーレリアの工房に向かった。

「オルトです。クーレリアさんは居られますか?」

 工房に約束の時間より早めに着いた僕は中にいたビガントに声をかけた。

「ああ、オルト君かクレリは今着替えに行ってるよ。
 そろそろ出てくると思うが……。
 しかし、あの魔道具はたいしたもんだな。
 まだまだ未熟だったクレリがあれだけの品質の刃物を打てるようになるとは思ってもみなかったよ」

「いいえ、元々クーレリアさんには才能があったのですよ。
 ただ、非力だったのと経験が足りなかっただけだと思いますよ」

「ははは。実際そのふたつはとてつもない時間をかけて修得していくのが普通なんだがな」

「でも、今回はすみませんでした。
 自分では良かれと思った事とはいえ、お嬢さんの生き方に多大な影響を与える道具をお渡ししてしまって申し訳ないと思ってます」

「いや、それはいいんだ。
 いつかはぶち当たる壁を乗り越えられたんだから幸せだと思っているよ。
 まあ、一足飛びすぎたかなとは思うがね」

 ビガントは苦笑いをしながら店の商品の手入れをしていた。
 そこへクーレリアが着替えを終えて奥から出てきた。

「お待たせしました。
 いきなりついてきてもらってすみません。
 シミリさんは大丈夫でしたか?」

「ああ、きちんと説明してきたから多分大丈夫だと思うよ。
 今日の食事が良かったら今度シミリを連れて行こうと思ってるんだ」

「それならばちょうど良かったです」

(ちょうど良かったはちょっと違う気がするがとりあえずスルーをしておいた)

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 僕が声をかけるとクーレリアは笑顔で「はい」と答え、お店に向かった。
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