上 下
98 / 120

第98話【商魂たくましい看板娘クーレリア】

しおりを挟む
「ひぃっ!?」

 店主の姿にエスカが小さく悲鳴を上げた。

「ほらぁ、だからいつも言ってるでしょ!お客様の前に出る時はハンマーは置いて来なって。
 それ見て逃げ帰るお客様が結構いるのよ!どれだけ損してるか分かってるの?」

 親父さんは娘の的確な指摘に頬をかきながら「悪りぃ、仕事中だったから」と素直にハンマーを側のテーブルに置いてからこちらを向き直り挨拶をしてきた。

「驚かせて悪かったな、この工房の店主をしているビガントだ。こっちは娘の……」

「看板娘のクーレリアよ。
 お父さんは口下手だから私が注文を受けてるの。
 今日はどんな依頼なのかしら?」

 見た目に負けず、ゆったりとした動作で対応するビガントに代わってテキパキと接客をこなすクーレリアの手腕に感心しながら僕はデイル亭の改修工事の話をきりだした。

「ふむ。デイル亭といえば、つい先日完成させたばかりの宿屋じゃなかったかな?
 こんなに早く改修工事をするとは何か不都合でもあったのか?」

 自信をもって建てた宿屋を一月程度で改修の話をもってこられたビガントは何か不備があってクレームに来たと勘違いをして焦っていた。

「ああ、そうではないんですよ。
 実は彼女、エスカートが治癒士として診療所を開業することになったのですが、女性ひとりで一軒家を建てるのはコスト的に厳しいのでデイル亭の隅を間借りさせてもらうことになったんです。
 それで簡易的で良いので間仕切りをして欲しいと思いましてお願いにきたのです」

「ほう。お嬢さんが開業ですか、いや大したものだ。
 うちのクーレリアと同じくらいの歳に見えるのに、もう一人前の仕事が出来るとは、クレリにも見習わせないといかんですな。
 わかりました。明日にでも現地で打ち合わせをしてから仕事にあたらせてもらうよ」

「よろしくお願いします」

 仕事の予約を済まして帰ろうとする僕達をクーレリアが呼び止めた。

「あっ、お客様。せっかく来店されたのですからついでに武器や防具を見て行きませんか?
 きっとお眼鏡に叶う一品があるとおもいますよ」

「そうだな。せっかく鍛冶屋に来たんだから武器もだけど日用品の金物も見ておこうか。
 エスカも何か必要なものがあったら遠慮なく言うようにね」

 僕はそう言うとお店の販売コーナーに置かれている商品を見てまわった。

「なるほど、なかなかの品揃えだな。
 このショートソードなんかはよく鍛えられている。
 このレベルの剣はカイザックでは見たこと無かったな」

「あははは、お客さんリボルテの街は鉱山の街だよ。
 カイザックみたいな貿易の街とは違って腕の良い職人が多く住む街だからね。
 自然といい物が並ぶ事が多いのは当然ですよ。
 ところでお兄さん、その隣の剣はどうですか?」

 クーレリアは僕が手に取ったショートソードがあった所の隣に置いてある剣を指して言った。

「ん?この剣かい?……ああ、これは駄目だな。
 確かに見た目のデザインは格好はいいけど実践向きじや無さそうだ。
 観賞用ならばアリかもしれないけどね……ってどうかしたかい?」

 僕はクーレリアの意図を理解せずに見たままをストレートに言ってしまっていた。

「!!・・・・・っ」

「ほう。兄さんなかなか良い目をしてるじゃないか」

 僕の言葉に反応したのはクーレリアだけでは無かった。
 口下手と言われていたビガントまでもが感心した様子で話しかけてきた。

「父は日頃は口下手なんだけど、武器のことになると急に饒舌じょうぜつになるの」

 クーレリアがフォローを入れてから先ほどの剣を手にとり僕に聞いた。

「この剣の何処を見て実践向きじゃないと判断したかを聞きたいのだけれど……」

「やけに真剣に聞いてくるけど、その剣がどうかしたのかい?」

 僕の問いには隣にいたビガントが答えてくれた。

「その剣はクレリが打ったんだ。
 娘も一応鍛冶士の祝福を受けていて、私から見ればまだまだ半人前だが武器を打つ事も出来る。
 その剣はクレリが打った数振りの中の一本って訳だ。
 だから君が言った言葉の真意を知りたいって事だよ」

(なるほど。それで理由を聞くのをこだわった訳か……)

「言ってもいいけどそれで改修工事の仕事をやめたりしないでくださいよ」

 僕は考えもなしに「この剣は駄目だな」と言ってしまった事を後悔しながらもクーレリアのこれからの技術向上のためにきちんと説明をしてあげた。

「まず、金属の焼きが足りない。
 鋼を打つ時の温度がおそらく低いのと叩く力が足りないために、鋼本来の強度に達していないんだよ。
 削りとかの加工技術はなかなかのものだから一見して鋭く見えるけど力の強い人が使っていると直ぐに剣の重心がずれて脆もろくなって最悪戦闘中に折れる恐れもあるよ」

「!!!!!・・・・ぐっ」

 僕の指摘にクーレリアは涙を浮かべながら我慢して聞いていた。
 それを見ていたエスカは僕をつついて「そのくらいで」と言ってきた。

(やべっ。言い過ぎたかな?)

 僕はエスカに言われてハッとなり、全力でフォローできる言葉を頭の中に探した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』 開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。 よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。 ※注意事項※ 幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...