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第94話【特訓が修了したエスカの思惑】

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 毒治療の特訓が終わりエスカを部屋に帰した僕はエスカの希望した患者人形を作っていた。
 隣には作業を覗き込むように見るシミリがいた。

「それがエスカの希望した人形なの?
 なかなか精神的にくるものがあるけど、本当にそれを使って練習する気かしら」

「いやぁ多分何も考えてないと思うよ。
 それか、治した後に可愛がる想像だけして最初の状態を忘れてるか……だな」

「あー、多分それでしょうね。
 私だったら絶対に要望しないでしょうし……」

 そこに居たのは、まだ幼い少女の人形だったが当然ながら普通ではなかった。

   *   *   *

 ーーー次の特訓の日。

 エスカは嬉々として特訓に挑んだが、人形を前にしてガックリと膝ひざをついて涙をポロポロと流し始めた。

「オルトさん、ごめんなさい。私が悪かったです。
 軽はずみな考えで頼むんじゃなかった……。
 直ぐに治癒の特訓をお願いします!この娘こは絶対に私が治して見せます!」

 エスカの前に寝かされていた少女は顔を真っ赤にして今にも窒息しそうな表情で首を押さえて「うーうー」と呻うめきながら苦しんでいた。

「じゃあ始めようか。
 今回はのどに異物を詰まらせた想定になるから魔法は『リフレスアウト』になるんだけど、実はこの魔法は物理的な異物除去だけじゃなくて『悪性腫瘍あくせいしゅよう』とか特殊な病気にも使えるんだ」

「何ですか……それ?
 聞いたことないですけど。病気なんですか?」

「うん。この病気にかかった人にヒールをかけると逆に病気が悪化するんだ。
 だから怪我とかの物理的な時は有効だけど病気の時はきちんと診断してからにしたほうが失敗が無くていいよ」

「はい……って、どうしてオルトさんはそんな事まで知っているんですか?
 薬師の知識があるとはいえ、いくらなんでも知りすぎてないですか?」

「うーん。エスカさんは自分の出来る事を増やしたいから特訓を受けているんだよね。
 そして、僕はそれを手助けはするけどそれらについて深く詮索して欲しくないんだよね。
 あまり突っ込むと契約違反になるかもよ」

「はっ恥ずかしい事になるかもってやつですね。すみません、気をつけます」

 気にはなるのだろうがエスカはすぐに気持ちを切り替えて目の前の患者を治すことに集中した。

「ーーー魔方陣を理解したので試させてください」

 ほんの半刻しかたっていないはずなのにエスカはリフレスアウトの魔方陣を理解したと言い出した。
 この魔方陣はそんなに簡単に理解出来るものではないはずだったが、自分のうかつな言葉で招いた苦しむ幼い少女を治したい一心で不可能を可能にしたのだろう。

「体内に留まりしあらざるマターよ、あるものは砕け、また、あるものは消滅し、正の流れを阻害す波を凪ぎに変えよ。リフレスアウト」

 桜色に光る魔方陣に包まれて患者人形の少女は大きく息をはき、エスカに結果を伝えた。

「合格じゃあ!小娘のわりになかなかやりおるわ!わしを治せる実力があるなら死人じゃなければ何とかなるじゃろう。
 よく頑張ったな。がっはっは」

「えっ!?」

 てっきり少女が感動の涙を流しながら抱きついてきて感謝の言葉を言ってもらえると思っていたエスカは少女のおっさん言葉に思考が停止してその場に固まってしまっていた。

「あっ!しまった。人形を新しく作りなおすのが面倒だったからおっさん人形の外見だけを変えた事を忘れていたよ。
 そうか、あのやり方だと言葉づかいは前のままになるのか。
 いや勉強になったよ、ありがとう」

「ありがとうじゃないですよ!!
 なんて事をするんですかぁ!?
 わたしがどれだけ必死に治療したかわかってますか!?
 なのにこの仕打ち、めちゃくちゃ酷くないですかぁ!?」

 エスカはおっさん言葉を話す少女の前にガックリと崩れ落ちて涙目に訴えていた。

   *   *   *

「ーーーこれで、全ての特訓が終わりになります。
 まだまだ安定した治療が出来てるとは言えないので、まだしばらくは自主訓練を続けてくださいね。
 ちょうど明日でここの仕事も終わりになるから頑張って良い治癒士になってくださいね」

 僕がそう言ってエスカを部屋に戻そうとしたがエスカは真剣な目で僕に言った。

「オルトさん。長い間の特訓ありがとうございました。
 おかげで今まで出来なかった事がたくさん出来るようになりました。
 本当に感謝しかありません。
 ですが、最後にお伝えしないといけない事があります」

「なんだい?あらたまって言いたい事って?」

 エスカはそこまで言うと深呼吸をひとつしてからハッキリと僕に言った。

「オルトさん。私をこんな体にした責任をとってくださいね」

「はぁ!?一体何を言って……?」

 突然のエスカの言葉に僕は何が何だか分からないでいる横でシミリが『やっぱりそうきたか』と言わんばかりに深いため息をついた。
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