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第81話【リボルテ名物の酒飲み決闘】

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「先に言っておくけど、誰かと勘違いしてないですか?
 少なくとも僕が君に会ったのはこのギルド内だけだと思うけど」

「いえ、間違いないです。
 昨日の坑道崩落現場で骨折した私を回復魔法で治してくれたのはあなたです」

「いやいや、痛みで朦朧《もうろう》としている時に誰かに治してもらったのが直前にギルドで会っていた僕に見えただけだと思うよ。
 実際僕はずっと臨時病院で治療にあたっていたからね。
 なんなら病院の職員に聞いてもらってもいいよ。
 それじゃあ僕は忙しいからこれで……」

(実際に治療にあたっていたから多分大丈夫な証言は出るだろう。
 ほんの少し離れたけどシミリに話を合わせてもらえば逃げれるだろう……たぶん)

 この話で見間違いだと思ってくれるだろうと思い、彼女を置いて席を立とうとした。

「待ってください」

 だが、回り込まれてしまった。

「まだ何かあるのですか?」

「あの後、あの辺り一面に上級の回復魔法が降り注ぎました。
 今の私ではどうやっても到達出来ない高みでした」

「それが僕と何か関係があるんですか?」

 僕は内心焦りながらも出来るだけ平静を装って答えていた。

「あなたが何故そこまで否定するのか私には分かりませんが、私の怪我を治した人とあの上級回復魔法を使った人は同じ人です。
 何故断言できるかと言うと、私にはある特殊なスキルがあります。
 それは『魔力の質が分かる』のです。回復魔法限定ですけど……」

「魔法の質?」

「はい。私が他人から回復魔法を受けた時に感じる独特の魔力濃度が人によって違うのですが、それで誰が使った回復魔法かが分かるんです。
 で、その痕跡を辿っていたらあなたにたどり着いたという訳です」

 僕は「ふぅ」と彼女に聞こえないようにため息をつくと次の手に出た。

「まず、僕にはあなたの話の全てを信じる根拠がありません。
 分かると言われてもそれを証明してもらわないと現時点ではあなたの妄想、いえ勘違いや思い込みの可能性のほうが高いのではないですか?」

 僕の反撃に彼女はうつむいて悲しげに答えた。

「そうですね。こんな話を信じて欲しいと言われても無理な話ですよね。
 私はただ助けてくれた人にお礼を言いたかっただけなんですけどその人には勘違いと言われ、気味悪がられたりするのであまり人に話す事をしない私のスキルを話したらやっぱり否定されるし、やっぱり私は駄目ダメなんですね」

(確かにかなり特殊なスキルだから、にわかには信じられないだろうな。
 まあ、僕には鑑定スキルで本当だとは分かっているんだけどそれは言わないでおこう)

「落ち込ませて悪いとは思うけど、こっちにも事情があるんだ。
 だからこの話はこれで終わりにしよう」

 僕は彼女にそう告げると今度こそ席を立とうとした。

「分かりました。
 では、どちらの意見を通すかを決める『決闘』を申し込みます!」

 ざわっ!ざわざわっ!!

「おい、決闘だってよ!久しぶりだな!」

「マスター!酒の在庫はたっぷりあるか?」

「若い姉ちゃんが男に決闘を申し込むたぁ痴話喧嘩のもつれか?」

(決闘の言葉が周りに聞こえた時からあからさまに辺りがざわついていた。
 そう言えばゴルドさんが「リボルテでは酒飲みで問題解決するのが常識」とか言ってた気がするけど、一応僕はよそ者だから惚けてみるか)

「決闘とは穏やかじゃないですが、エモノは何でいきますか?剣?魔法?それとも素手ですかね?
 僕としては本当は女性に手を上げたくないですけど挑まれたら仕方ありませんのでお互い死なないように『模擬剣』あたりでやりましょうか。
 大丈夫ですよ、怪我をしてもちゃんとここに傷薬がありますから」

 僕はそう言って模擬剣を二本、鞄から取り出して片方を彼女に差し出した。

「いえ、私の言う『決闘』はリボルテ式の酒飲み決闘ですよ!
 普通に剣で戦って私が勝てる訳無いじゃないですか!」

「いや、僕はリボルテ出身ではないのでそんなルールは知りませんよ。
 僕の中で決闘とは真剣で命のやり取りをする事を意味するのですが、ああハンデが必要と言うことですね。
 では僕は模擬剣であなたは真剣でもいいですよ」

 相変わらず僕はわざと話を交わらせないように論点をずらしていた。
 そうする事により周りの焚きつけ人の毒気がぬけるだろうと思ったからだが、それは無駄な努力だとすぐに理解した。

「おいおい、兄さん。
 さっきから聞いてればあんたの理屈は彼女の思いを踏みにじる屁理屈ばかりじゃねぇか。
 周りにこれだけの冒険者達がいるんだ。
 あんたがどれだけ強くても全員を敵にまわすのは得策じゃないと思うぜ。
 ここはリボルテのギルドだ。トラブルは酒で解決がここのルールだ。
 悪いことは言わねぇから彼女の決闘を受けてやるのが男ってもんじゃねぇか?」

 その言葉に周りの冒険者達も頷きあって僕に圧力をかけてきた。
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