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第78話【ギルドの緊急依頼はスルーしたい】
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ーーーからんからん。
冒険者ギルドにいつもの音が響いた。
大抵はこちらを一瞥するだけですぐに自分達の用事に戻る冒険者がほとんどだった。
「まずは依頼ボードの確認だな。
調薬の依頼があれば一番いいんだけどな」
僕達が依頼ボードを確認していると激しくドアを開ける音がギルド内に響いた。
皆が驚き音の方を振り向くと、そこには片腕をだらりと下げ血を流しながら受付に向かって叫ぶ男の姿があった。
「頼む!助けてくれ!鉱山で大規模な崩落事故が発生したんだ!
坑道内にはまだ多くの仲間が取り残されているんだ!
入り口の岩や瓦礫を早く取り除かないと仲間の命が!」
男はそれだけ叫ぶと床に崩れ落ちるように気を失ってしまった。
「誰か!誰か医者か治癒魔法が使える人が居ませんか!?」
ギルド受付から悲鳴のような緊急問い合わせが走るが誰も名乗り出ようとはしない。
本当に居ないのかそれとも厄介事に首を突っ込みたくないのか。
(仕方ない。あまり見せたくないけど命に関わる事だから僕がやるか……)
僕が手をあげようとした時、反対側から声があがった。
「私が診ます!まだなりたての新人ですが治癒士です」
「僕も一緒に診よう。
薬師だが治療に関して多少の知識を持ち合わせている」
治癒士がいるならば僕は薬の処方で誤魔化せるかもしれないと思い患者のもとへ急いだ。
「よろしくお願いします。
治癒魔法をかけますので治りきらなければ薬での追加対応をお願いします」
治癒士の彼女は僕にそう伝えると魔法を唱え始めた。
「聖なるマナよ。癒しの光となりてこの者の傷を癒したまえ。ヒール!」
淡い緑色をした光が患者を包み込んだ。
初級回復魔法だがこの傷の深さでは完治は厳しいだろう。
僕が治療を見ながら考えていると受付の方から声があがった。
「皆さんにギルドから緊急依頼を出しますので対応できる方は救出班と治療班に別れて坑道へ向かって下さい!
救出班は赤い札を治療班は青い札を受け取ってから行動をお願いします」
その場にいた大半の冒険者達はそれぞれの役割の札を受けとると各自現場に走っていった。
残されたものはランクの低い新人達だけだった。
(ちょうどいい。
レベルの高い冒険者達は皆救助に出払ったので僕のやる事を見て理解出来る者はほとんどいない。
これならば多少能力を使っても大丈夫だろう)
「ヒールでは彼の傷は完治しない。
この薬を使うから僕に彼を任せてくれないかな?」
「はっはい!よろしくお願いします」
僕は治癒士の彼女から患者を任せてもらうと傷の状態を確認して鞄から薬を取り出した。
「シミリ君はこの塗り薬を傷の大きい肩から腕にかけて塗ってくれ。
僕はこっちの飲み薬を飲んでもらうから!」
僕はそう言うと塗り薬をシミリに渡し、飲み薬を患者に飲ませるために上半身を起こして気付けを行い中級ポーション並みの薬を飲ませた。
「うっ!?ここは?」
投薬後すぐに男は目を覚まして自分の状態を確認していた。
「ここは冒険者ギルドの中です。
あなたは助けを呼ぶためにギルドに入り、力尽きる前に状況を説明しました。
ですのでギルドが全面協力のもと、鉱山へ救助要請を発動しました」
「良かった、私は気絶する前に役目を果たせたのですね。
素早い対応ありがとうございました。
これで助かる同僚が増える事でしょう」
男はお礼を言うと起き上がり体が動く事を確認すると「私も戻って救助を手伝います」と言い鉱山方面へ走って行った。
「私も現場に行ってみますね」
それを見た治癒士の女性も受付から札を貰うとやはり鉱山方面へ向かっていった。
「僕達はどうする?リボルテ冒険者ギルドの所属では無いし率先して救助に加わるのもでしゃばりすぎかな?」
僕はシミリにも意見を聞いてみた。
「そうですね。
少なくとも先ほどここにいた冒険者達は救助に向かったはずだから災害規模にもよるけど十分に人は足りている気もしますね。
だけど念のために確認はしたほうがいいかもしれませんね」
「やっぱりそうかぁ。
僕もそうだろうと思うんだけど僕の性格上災害が大きかった場合、全力で救助してしまうと思うんだ。
そうするとあまり人に見せたくない力を見せないといけなくなるよね。
それはあまりしたくないんだよ」
「じゃあ今回はスルーの方向ですか?」
「出来ればそうしたいね」
「……でも出来ないんでしょ?」
「まあね……。仕方ないから行こうか」
「それでこそ私が好きになったオルト君ね」
シミリが僕に抱きついて好き好きオーラを発していたら後ろから声をかけられた。
「あのー。お取り込み中すみませんが、オルトさんはCランク冒険者ですよね?
今回の緊急依頼はCランク以上は強制参加となっていますのでよろしくお願いします」
「えーと、僕はリボルテ冒険者ギルド所属ではないですが、それでも強制力はあるんですか?」
「はい。確かにそうなんですが、緊急依頼は領主のクロイス様領土内のギルド所属ならば全員対象になります。
もちろん現場に居ない、若しくは他の依頼中で緊急依頼を受ける事によってそちらの依頼に著しく不利益な事が発生する場合は不参加を表明出来ますけど……。
オルトさんは今そんな状況ではないですよね」
ギルド職員の言葉に「ふぅ」と息をはいて僕は答えた。
「僕達ふたりとも青札でお願いします」
冒険者ギルドにいつもの音が響いた。
大抵はこちらを一瞥するだけですぐに自分達の用事に戻る冒険者がほとんどだった。
「まずは依頼ボードの確認だな。
調薬の依頼があれば一番いいんだけどな」
僕達が依頼ボードを確認していると激しくドアを開ける音がギルド内に響いた。
皆が驚き音の方を振り向くと、そこには片腕をだらりと下げ血を流しながら受付に向かって叫ぶ男の姿があった。
「頼む!助けてくれ!鉱山で大規模な崩落事故が発生したんだ!
坑道内にはまだ多くの仲間が取り残されているんだ!
入り口の岩や瓦礫を早く取り除かないと仲間の命が!」
男はそれだけ叫ぶと床に崩れ落ちるように気を失ってしまった。
「誰か!誰か医者か治癒魔法が使える人が居ませんか!?」
ギルド受付から悲鳴のような緊急問い合わせが走るが誰も名乗り出ようとはしない。
本当に居ないのかそれとも厄介事に首を突っ込みたくないのか。
(仕方ない。あまり見せたくないけど命に関わる事だから僕がやるか……)
僕が手をあげようとした時、反対側から声があがった。
「私が診ます!まだなりたての新人ですが治癒士です」
「僕も一緒に診よう。
薬師だが治療に関して多少の知識を持ち合わせている」
治癒士がいるならば僕は薬の処方で誤魔化せるかもしれないと思い患者のもとへ急いだ。
「よろしくお願いします。
治癒魔法をかけますので治りきらなければ薬での追加対応をお願いします」
治癒士の彼女は僕にそう伝えると魔法を唱え始めた。
「聖なるマナよ。癒しの光となりてこの者の傷を癒したまえ。ヒール!」
淡い緑色をした光が患者を包み込んだ。
初級回復魔法だがこの傷の深さでは完治は厳しいだろう。
僕が治療を見ながら考えていると受付の方から声があがった。
「皆さんにギルドから緊急依頼を出しますので対応できる方は救出班と治療班に別れて坑道へ向かって下さい!
救出班は赤い札を治療班は青い札を受け取ってから行動をお願いします」
その場にいた大半の冒険者達はそれぞれの役割の札を受けとると各自現場に走っていった。
残されたものはランクの低い新人達だけだった。
(ちょうどいい。
レベルの高い冒険者達は皆救助に出払ったので僕のやる事を見て理解出来る者はほとんどいない。
これならば多少能力を使っても大丈夫だろう)
「ヒールでは彼の傷は完治しない。
この薬を使うから僕に彼を任せてくれないかな?」
「はっはい!よろしくお願いします」
僕は治癒士の彼女から患者を任せてもらうと傷の状態を確認して鞄から薬を取り出した。
「シミリ君はこの塗り薬を傷の大きい肩から腕にかけて塗ってくれ。
僕はこっちの飲み薬を飲んでもらうから!」
僕はそう言うと塗り薬をシミリに渡し、飲み薬を患者に飲ませるために上半身を起こして気付けを行い中級ポーション並みの薬を飲ませた。
「うっ!?ここは?」
投薬後すぐに男は目を覚まして自分の状態を確認していた。
「ここは冒険者ギルドの中です。
あなたは助けを呼ぶためにギルドに入り、力尽きる前に状況を説明しました。
ですのでギルドが全面協力のもと、鉱山へ救助要請を発動しました」
「良かった、私は気絶する前に役目を果たせたのですね。
素早い対応ありがとうございました。
これで助かる同僚が増える事でしょう」
男はお礼を言うと起き上がり体が動く事を確認すると「私も戻って救助を手伝います」と言い鉱山方面へ走って行った。
「私も現場に行ってみますね」
それを見た治癒士の女性も受付から札を貰うとやはり鉱山方面へ向かっていった。
「僕達はどうする?リボルテ冒険者ギルドの所属では無いし率先して救助に加わるのもでしゃばりすぎかな?」
僕はシミリにも意見を聞いてみた。
「そうですね。
少なくとも先ほどここにいた冒険者達は救助に向かったはずだから災害規模にもよるけど十分に人は足りている気もしますね。
だけど念のために確認はしたほうがいいかもしれませんね」
「やっぱりそうかぁ。
僕もそうだろうと思うんだけど僕の性格上災害が大きかった場合、全力で救助してしまうと思うんだ。
そうするとあまり人に見せたくない力を見せないといけなくなるよね。
それはあまりしたくないんだよ」
「じゃあ今回はスルーの方向ですか?」
「出来ればそうしたいね」
「……でも出来ないんでしょ?」
「まあね……。仕方ないから行こうか」
「それでこそ私が好きになったオルト君ね」
シミリが僕に抱きついて好き好きオーラを発していたら後ろから声をかけられた。
「あのー。お取り込み中すみませんが、オルトさんはCランク冒険者ですよね?
今回の緊急依頼はCランク以上は強制参加となっていますのでよろしくお願いします」
「えーと、僕はリボルテ冒険者ギルド所属ではないですが、それでも強制力はあるんですか?」
「はい。確かにそうなんですが、緊急依頼は領主のクロイス様領土内のギルド所属ならば全員対象になります。
もちろん現場に居ない、若しくは他の依頼中で緊急依頼を受ける事によってそちらの依頼に著しく不利益な事が発生する場合は不参加を表明出来ますけど……。
オルトさんは今そんな状況ではないですよね」
ギルド職員の言葉に「ふぅ」と息をはいて僕は答えた。
「僕達ふたりとも青札でお願いします」
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