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第40話【セーラ嬢のお願いは】

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「セーラ、いくら嬉しくても貴族令嬢がそのような行動をとるのはお転婆が過ぎるぞ。
 もう少しおしとやかにしなさい」

 クロイスに注意されてしぶしぶ僕から離れたセーラ嬢はそれでも父に意見していた。

「ごめんなさい、お父様。
 だって私の大切なお兄ちゃんが来てくれたのよ。
 少しくらいいいでしょ?」

(いや、待ってくれ。
 いつから僕はセーラ嬢の兄になったんだ?
 まさか僕の知らない所で【実は僕は貴族の隠し子だったのだ】なんて事……有るわけないだろうが!)

「オルト君、実は貴族?」

 シミリからも地味に突っ込みが入る。勘弁してくれ。

「セーラお嬢様。目の調子はいかがですか?
 何か他に不調があれば言ってくださいね」

 僕はセーラに医者っぽい言葉を投げ掛けると目を確認するために顔を覗き込んだ。

「お嬢様、失礼します」

『身体探索』

 僕はセーラの顔を見ながら全身に不調が出てないか魔法をかけて確認したが特に問題は無く経過は順調だった。

「特に問題はないようですね。
 経過も順調で再発の危険もほぼ無いと思いますよ」

 僕はセーラに微笑みながら健康の太鼓判を押した。
 その時クロイスからほっとした空気が感じられた。

「お嬢様もお元気な様子ですので、これで失礼しますね。
 もし、気がかりな事がありましたらギルドに連絡して頂ければ伝わるかと思いますので」

 僕は早々に退散しようとソファから腰を浮かせたその時、セーラが僕にしがみついて言った。

「お兄ちゃん待ってよ。もう少しセーラとお話しよっ!」

(ぐはっ!?何だこの精神的ダメージは?)

 今この娘を置いて帰るのは僕には不可能に近かった。

「オルト君。ロリコン?」

 シミリの突っ込みが入る。
 さっきからシミリは僕に突っ込みを入れるだけの存在になっている気がする。
 いや、今はそんな事どうでもいいんだよ。
 問題はこの状況をどう切り抜けるかだ。

「セーラお嬢様。何か心配事でもあるのですか?」

 あくまで冷静に紳士的に接する僕にセーラは爆弾発言をした。

「私、お兄ちゃんのお嫁さんになる!」

「ぶふぅ!?ゲホッゲホッ!?」

 それを聞いたクロイスが飲んでいた紅茶を盛大に吹いた。

「旦那様、タオルで御座います」

 執事が冷静にタオルをクロイスに差し出した。クロイスはそれを受け取り吹いた紅茶を拭きながらセーラに問いただした。

「セーラ。貴族令嬢はそんな求婚はしたりしないぞ。
 それにセーラはまだ成人にもなっていないのだから早すぎる」

(いや、そんな問題じゃないだろう。
 とにかく何とかしなければ)

 僕は内心焦りまくりながらも表向きは冷静に振る舞いながらセーラに返した。

「お嬢様。お気持ちは嬉しいですが、僕は何処にでもいる只の平民で御座います。
 お嬢様は領主クロイス様の令嬢ですので、とても僕ごときでは釣り合いが取れませんよ。
 それに僕はもうシミリと言うパートナーがおりますのでご期待にそう事は出来かねます。申し訳ありません」

(こんな感じでどうだろうか?シミリも妻とか婚約者とかではなく、パートナーと言っただけだけど、何となくニュアンスで勘違いして諦めてくれたらいいな。
 あ、シミリが固まったけどまさかシミリが勘違いして無いだろうな?)

「そうなんだ……。
 じゃあせめて『お兄ちゃん』になって欲しいな。
 セーラ、前からお兄ちゃんが欲しかったの。
 でもお父様は無理だって言うばかりだし……。ねっ!お願い!」

「うぐっ!そっそれは……。
 少々難しいのではないですかね?クロイス様」

 僕は答えようが無くてクロイスに助けを求める為に話を振った。

「そうだな。セーラの目も治してもらったがこれから再発しないとも限らないし、セーラも君を慕っているようだから、すまないが娘セーラとの交流はしてやってくれないか?
 この二年間何も見えない世界で頑張ってきた娘には君が眩しく写るのだろう。
 定期的な健康診断の時だけでもいいから色々な話をしてやってくれると娘も喜ぶだろう。
 もちろん冒険者ギルドに指名依頼を出して規定の報酬を出す」

(まさかの領主公認になるとは思わなかったが仕方ないな、あの笑顔は反則だよな)

「分かりました。セーラお嬢様、いつでもとは行きませんが定期的にお嬢様の健康診断をさせて頂きますのでその時だけお嬢様のお望みにお応えしましょう。
 但し、僕がこの街に居る時だけですよ。
 僕達は行商もしているので定期的に他の街に行って不在になる事もありますのでその時は帰るまでお待ちくださいね」

「うん、分かった!お兄ちゃんありがとう!絶対にまた来てね!」

 セーラは笑顔で僕と約束をした。

「それでは本当にここで失礼します。
 何かありましたら冒険者ギルド経由で連絡をお願いします」

 後ろでシミリが「オルト君はやっぱりロリコン」とぶつぶつと呟いていたが聞こえないふりをして領主邸が脱出した。
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