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次の週末、加寿也は、未菜とともに再び龍の神社を訪れた。

「ふうん、守り神ねえ。龍が加寿也を守ったんだ。そういうことってあるのね。 でも加寿也、どうしてあたしに相談しなかったの?」

加寿也は、龍にまつわる一連の出来事を、すべて未菜に話したのだった。

「どうしてって、お前に言っても笑い飛ばすだけだろう?」

今日は前回とは違い、まだ明るい時間なので、数人の参拝者がいた。

加寿也と未菜は鳥居をくぐり、境内に入っていった。

石畳いしだたみの参道を歩いていくと、立派なくすのきが見えた。

二人は玉砂利たまじゃりを踏み、社殿しゃでんの横の小道を入っていく。

あの時と同じ、古いプレハブ小屋があった。

ここだ。

ここで俺は、あの老人と話をしたんだ。

龍の絵が描かれた額縁がくぶちけられている小屋だ。

もう一度、龍の絵を見たくなり、加寿也は戸を開けようとしたが、鍵がかけられおり開かなかった。

その時、後ろから水色のはかまいた若い男が歩いてきた。

「何かご用ですか?」
と加寿也にたずねた。

「あ、いえ、ここに七十歳くらいの方がいたと思うのですが」

若い男は首をかしげて言った。
「はて、誰のことでしょう?」

小柄こがらなお爺さんなんですが」

「お爺さん? いいえ、ここにはそのような者はおりませんが。 わたしの父はまだ五十八ですし、祖父はもう他界していますので」

「ええ? そんな!」

加寿也は言葉を失った。

あれはまぼろしだったのか?

いいや、そんなはずはない。

俺は確かにここで!




加寿也たちは鳥居をくぐり、神社の敷地から出ていった。

言葉を失って歩いている加寿也を見て未菜は言った。
「もしかしたら、そのお爺さんも、加寿也を守っている方かもしれないわね」

「あの老人が俺を?」

加寿也はセカンドバッグから龍の札を取り出した。

これをくれた老人はいったい?

あれは果たして人間だったのだろうか。

それとも。






「加寿也、もうレースはあきらめるの?」

「いや、またいつかやるさ。金がまったらな」

「うん。あたしまた見たい、加寿也のレース」

「ああ、俺はまた走るぜ、未菜!」







龍の神社を後にして、二人は閑静かんせいな住宅街を歩いていた。

かたむき、夕陽があたりをだいだい色にめていた。

未菜の話では、月曜日に真砂子は突然仕事をめ、九州の実家に帰ったという。

「荷物は後で引き取りに来るって言ってたから、真砂子、もうあのマンションには住まないつもりね」

「へえ、そうだったんだ」

それを聞いた加寿也の脳裏のうりに一瞬、真砂子の肉体が浮かんだ。

しかし、真砂子とのかげのつきあいは、とても未菜には話せなかった。

「それで、真砂子がいなくなった日、玄関に変な人形が落ちていたのよ」

「変な人形って?」
加寿也は、はっとして言った。

「黒くて、猿みたいなやつだったわ」

加寿也は、真砂子が持っていた奇妙な人形を思い出した。

「そいつをどうしたんだ? 未菜!」

「しばらく玄関に置いていたけど、気持ち悪いから今朝、他のごみと一緒に捨てちゃったわ」

「そうか」

「どうしたの? そんなにびっくりして」

「ああ、いや。変なごみは早く捨てた方がいいと思ってな」
と、加寿也は笑いながら答えた。

ひょっとすると、真砂子もあの人形にあやつられていたのではないだろうか。

そして、俺がクラッシュした時に憑依ひょういけたのかもしれない。





「それはそうと、真砂子がいなくなると、あのマンションに一人で住むのって、あたし何だかさびしいわ」

「ああ、そうだな」
と、加寿也がっ気なく言うと、未菜は加寿也をにらみ返した。

「ちょっと! だから部屋が一つぽっかりいちゃうって言ってるのよ。鈍感どんかんね!」

「あっ!」
と言って加寿也は頭をいた。

「もう加寿也ったら」

「ははは、そうか」

「あはは、そうよ馬鹿」

ひっそり静まりかえった住宅街に、二人の笑い声が響いた。

街路に植えられた、赤い芙蓉ふようの花が風にれている。

駅へ向かう坂道を夕陽がおおい、手をつないで歩く加寿也と未菜も、橙色に染まっていった。



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