メイドと執事の24時

ひとまる

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4.メイドと執事の24時

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少し落ち着き、二人でテーブルを囲んで座った。

ブライトさんが何もないキッチンを見て、私が身支度をしている内に購入してくれた紅茶と軽食を準備して、目の前のテーブルに並べ、一息つく。





「そう言えば、ブライトさん、もう執事長じゃないって…」



「ああ、旦那様にお嬢様を誑かしたと言われ、お暇を頂きました」





さらっと言うブライトさんに、私は同情の視線を向けた。やはり、どんなに侯爵家に尽そうが、お貴族様には伝わらないのかと残念な気持ちになった。



それにしても、ブライトさん程の敏腕執事をクビにするなんて…侯爵家ももう潰れるのも時間の問題ね…と思う。ブライトさんで持っていたような屋敷なのに。今頃屋敷は大混乱だろう。





「大旦那様の所へ戻ってこいと言われてましたので、其方へ戻ることにします」





大旦那様は元侯爵様で、引退されてから領地の方を管理されている。とても立派な方で、だからこそ旦那様は大旦那様を疎んで領地に押し込めたとか噂もされていた。

元々ブライトさんは大旦那様付きの執事だったところを、その有能さで侯爵家に残されたと聞いた。大旦那様の元へ戻るのなら、心配ないだろう。





「ターシャさえ良ければですけれど、一緒についてきてくれませんか?」



「まあ!嬉しいです。大旦那様の元で働けるなんて」



「いいえ、メイドとしてではなく、私の妻としてです」





さらっと求婚され、私は真っ赤になり固まってしまった。

もう、これだから出来る男は嫌なのよ。

油断も隙もないわ…!!



ドキドキする胸を押さえながら、私は小さく頷いた。





「私で良ければ。よろしくお願いいたします」



「ターシャでなくては、私が嫌です。これからもよろしくお願いします」





そう言って微笑むブライト様を見て、私は幸せを噛みしめながらフルーツの甘い香りがする紅茶に口を付けるのだった。









◆◆◆







「ああ、どうしてこんなことに…!おい、この書類はどうなっているんだ!どうしてこんなに屋敷が荒れている!!」



サージェント侯爵は、しんと静まり返った屋敷で声を荒げる。山ほど居た使用人は一人も姿を現さず、手入れされ、豪華に光り輝いているはずの屋敷は埃が舞っていた。



「早くしないと、マラット伯爵が来てしまうんだぞ!!おいっ!!」



「どうしたのお父様?それにしても、使えない使用人ばかりで、皆クビにしてやったわ。早く新しい使用人を入れてくださいな」



娘の悪びれない態度に、侯爵はつい声を荒げる。



「勝手なことをして!!この状態をどうしてくれるんだ!婚約が無くなるぞ!」



「いいではないですか。私はブライトと結婚したいのですわ、お父様。それにしてもブライトの姿が無いのですけれども、何処にいったのかしら」



「お前という奴は!!ブライトは昨日付でクビにした。お前はマラット伯爵の元へ嫁ぐんだ!じゃないとこの家は終わりだ──」



只事ではない父の様子に、エリアナは少し怯んだが、お気に入りのブライトを勝手にクビにされたのには頭がきてしまう。



「お父様なんて嫌いよ!もういいわっ!!」



屋敷から出て行こうとすると、勢いよく侯爵邸のドアが開いた。



「これは、どういうことですかね、サージェント侯爵。出迎えも無ければ、このような荒れた屋敷で私を迎えるとは…。この縁談は無かったことに。業務提携と資金援助の話も解消します。借入金の方もお支払お待ちしていますよ」



豪華な衣装に威厳ある態度で、リシオン・マラット伯爵は何も言えずに膝を付き固まっているサージェント侯爵を見下ろした。冷たい眼差しを向け、踵を返し侯爵家を従者を連れて後にした。



「もう…終わりだ──」



「え…お父様?どういうことなの!?」





項垂れるサージェント侯爵と、エリアナは、これから自身たちに降りかかる過酷な現実に目を背けるしか出来なかった──









◆◆◆





「やはり、こうなりましたか」



新聞を眺めながらブライトさんが気難しい顔をしてポツリと呟いた。

新聞記事には、サージェント侯爵家とマラット伯爵家の婚約が白紙となり、サージェント侯爵が失墜したとの様子が書かれていた。



「サージェント現侯爵を廃嫡して、弟君に継がせるようですね。大旦那様も頭を抱えていましたからね。よくもまあ、あんなに借金を作れたものだと」



メイドの数が少なくなっていたのも、お嬢様の所為だけじゃなく、サージェント侯爵家が傾いていたからなのね…と今更ながら思い至る。



「使用人たちを蔑ろにするからこういう目に合うんですよ!屋台骨が無いと立派な屋台は建ちませんからね!!」



ふんっと鼻息荒く言うと、ブライトさんは私の頭を撫でて落ち着かせてくれる。



「大旦那様から、サージェント侯爵家の再興を仰せつかってしまいました。またあのお屋敷で執事長に戻れと」



「まあ!」



弟君様も、いきなり崩れかけた侯爵家を建て直すなんて…大変ですものね。ブライトさんが執事長ならば、百人力ですね。忙しすぎてブライトさんの体調が心配ですが…



「大旦那様が、ターシャさえ良ければまたメイド長として力を貸して欲しいと言っているけど、どうでしょうか」



「………。」





眉を下げつつも、ブライドさんとまた一緒に働けることに胸が躍る私も否めない。



執事長とメイド長として



未来の夫と妻として…──



ずっと貴方の隣で支えていきます。



そう新たに決意をしつつ、深夜24時に二人で紅茶を飲むまで働かなくていいことを祈るのであった──…













END





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