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34.遅れてやってくるラインとセルト
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こちらに伸ばされるフォースの手を、ルイは絶望感を感じながら眺めた。蹴られた腹が痛くて動くこともままならない。
(もう、無理だ)
ルイの顔に諦めの色が濃くなるのに比例して、フォースの顔が愉しげに歪む。
「ふふふ、心が折れてしまいましたか? っ!?」
ーーと、次の瞬間フォースがルイから飛び退く。
「大丈夫か!?」
「なっ⁉︎ セルト⁇」
ルイの目の前に、広い背中が現れる。剣を構えたセルトがルイをフォースから守るように立っていた。
突然のことに驚き、目を白黒させるルイの耳にのんびりした声が届く。
「おーい、もうへばってんのか? 特訓のし直しだぞリュイ~」
「た、隊長⁉︎」
「クソが! もっと遠くへ逃げろよ! お陰で俺ら、こんなとこまで来ちまったんだぞ!?」
よっこらせ、と言いながら近くの地面から手が伸びる。よく見ると、地面にはリャールが仕掛けた落とし穴だった。
「何言ってるんですか、隊長。どこ行ったかと思ったら……また穴に落ちてるし。そろそろ上がってきてください」
セルトの呆れた声がしたと思ったら、ヒョイっと穴から隊長が出てきた。トントンと鞘付きの剣を肩で叩きながら、隊長はゆっくりと硬直しているフォースに歩み寄る。
「なぁ、フォース。ルイを攫うなんて聞いてねぇぞ?」
「……言うわけ無いでしょう?」
「ま、そりゃそうだよなぁ。でもな? そのせいで俺はピンチに陥ったんだよ」
責任取ってくれ、そう言ってラインはフォースに斬りかかった。いや、この際剣には鞘がついたままだったので殴りかかったと言った方が正しいだろう。フォースはさして驚いた様子もなく手に持っていた剣で、ラインに斬りかかる。ただし、フォースの方は鞘は付いていない真剣だ。
「剣は抜かないのですか?」
「バッカお前、それやったら剣斬られたら終わりだろうがよ。俺はお前にちとお灸を据えてやりたいんだ」
鞘と真剣がぶつかり合う、鈍い音が森に響く。常人離れした、その様子をルイは呆然と眺めていた。
「あの~」
そんなルイに、気まずそうに横から声がかかった。
「やっぱり隊長達はすごいな。なぁセルト?」
ルイは慣れたように隣の人物へと声をかける。自分が今、どんな姿なのかちっとも考えていなかった。
「え? 俺の名前知ってるんですか?」
「⁇ セルトだろう? 一緒に訓練してきた仲なんだから知らないはずがないーーっ!」
そこまで言って、ルイはハッと気がつく。兵士の服を借りているからと言って、サラシをしていないルイは女性の体つきを隠せていなかった。ついでに、髪が金髪であるというのも。
(しまった!)
そろりとセルトの顔を盗み見れば、セルトも呆然とした顔をしている。やっちまった、というのが、今のルイの心境だった。
「リュイ……なんだよな? どういう事なのか、説明してくれ」
「……聞いたら戻れなくなるぞ」
「……話してくれ」
一応脅してみるが、変わらないセルトの真剣な表情に、ルイは折れた。
向こうでは隊長が剣を放り投げてフォースに襲いかかっている。対するフォースも、剣がダメになったらしく同じように剣を放り投げてラインを迎え撃っていた。途端に、殴る蹴るの応酬がはじまる。
(カオス……)
一瞬遠い目をしたルイは覚悟を決めて、これまでの経緯をセルトに話始めたのだった。
(もう、無理だ)
ルイの顔に諦めの色が濃くなるのに比例して、フォースの顔が愉しげに歪む。
「ふふふ、心が折れてしまいましたか? っ!?」
ーーと、次の瞬間フォースがルイから飛び退く。
「大丈夫か!?」
「なっ⁉︎ セルト⁇」
ルイの目の前に、広い背中が現れる。剣を構えたセルトがルイをフォースから守るように立っていた。
突然のことに驚き、目を白黒させるルイの耳にのんびりした声が届く。
「おーい、もうへばってんのか? 特訓のし直しだぞリュイ~」
「た、隊長⁉︎」
「クソが! もっと遠くへ逃げろよ! お陰で俺ら、こんなとこまで来ちまったんだぞ!?」
よっこらせ、と言いながら近くの地面から手が伸びる。よく見ると、地面にはリャールが仕掛けた落とし穴だった。
「何言ってるんですか、隊長。どこ行ったかと思ったら……また穴に落ちてるし。そろそろ上がってきてください」
セルトの呆れた声がしたと思ったら、ヒョイっと穴から隊長が出てきた。トントンと鞘付きの剣を肩で叩きながら、隊長はゆっくりと硬直しているフォースに歩み寄る。
「なぁ、フォース。ルイを攫うなんて聞いてねぇぞ?」
「……言うわけ無いでしょう?」
「ま、そりゃそうだよなぁ。でもな? そのせいで俺はピンチに陥ったんだよ」
責任取ってくれ、そう言ってラインはフォースに斬りかかった。いや、この際剣には鞘がついたままだったので殴りかかったと言った方が正しいだろう。フォースはさして驚いた様子もなく手に持っていた剣で、ラインに斬りかかる。ただし、フォースの方は鞘は付いていない真剣だ。
「剣は抜かないのですか?」
「バッカお前、それやったら剣斬られたら終わりだろうがよ。俺はお前にちとお灸を据えてやりたいんだ」
鞘と真剣がぶつかり合う、鈍い音が森に響く。常人離れした、その様子をルイは呆然と眺めていた。
「あの~」
そんなルイに、気まずそうに横から声がかかった。
「やっぱり隊長達はすごいな。なぁセルト?」
ルイは慣れたように隣の人物へと声をかける。自分が今、どんな姿なのかちっとも考えていなかった。
「え? 俺の名前知ってるんですか?」
「⁇ セルトだろう? 一緒に訓練してきた仲なんだから知らないはずがないーーっ!」
そこまで言って、ルイはハッと気がつく。兵士の服を借りているからと言って、サラシをしていないルイは女性の体つきを隠せていなかった。ついでに、髪が金髪であるというのも。
(しまった!)
そろりとセルトの顔を盗み見れば、セルトも呆然とした顔をしている。やっちまった、というのが、今のルイの心境だった。
「リュイ……なんだよな? どういう事なのか、説明してくれ」
「……聞いたら戻れなくなるぞ」
「……話してくれ」
一応脅してみるが、変わらないセルトの真剣な表情に、ルイは折れた。
向こうでは隊長が剣を放り投げてフォースに襲いかかっている。対するフォースも、剣がダメになったらしく同じように剣を放り投げてラインを迎え撃っていた。途端に、殴る蹴るの応酬がはじまる。
(カオス……)
一瞬遠い目をしたルイは覚悟を決めて、これまでの経緯をセルトに話始めたのだった。
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