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神々の悲鳴と戦いの神

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「システムが故障した」
「魔王から力が吸い取られている」
「うぐっ!?」

 バタバタと周囲で下界を鑑賞していた仲間達が倒れていく。戦の神はその様子を呆然と眺めていた。

「一体何が⁇」

 下界から吸い寄せた魔力をふんだんに使用した豊かな天上は、今や魔力がなくなり枯れ果て地獄のようになっていた。

 突然の事態に、主神である女神が慌てて贔屓していた下界の人間の元へ訪れようとして、霞のようになって消えるのが見えた。

「聖女はどうした?」
「聖女が魔王といる!」
「何故!?」
「やり直したのではなかったのか!?」
「システムに一部バグがあった」
「嘘だろう」
「聖女の洗脳・・が解けたんだ‼︎」

 ーー死ぬーー

 どんどん失われる力に対抗しながら、戦の神は唐突に思った。

『愚かな神達よ、我が伴侶を傷つけたこと後悔するがいい』

 魔王の声が天上に響き渡る。もうすでに殆どの神達が消えてなくなっていた。天上も崩壊している。集めた魔力が魔王に吸い取られる。

(自分たちは間違えたんだ)

 自身の力も吸い取られ、もはや立っていられなくなった戦の神は、方針を間違えたことを嘆いた。

 実は魔王は全能神ゼウス、主神のその上、全神の親であった。その全能神ゼウスが伴侶を探しに、下界に転生すると言い出した時、子である神々は快くその転生を後押しした。
 全ては自分が全能神の座に座るため。 
 結局、子である自分たちが父を越えるなどできるはずもなく、全能神の席は空いたままだ。しかし、全能神かいない方が好き勝手出来た神達は全能神の転生体のことを魔王と呼び、下界に聖女を呼び寄せ、退治させることにした。

 ーー主神長女である女神主導で。

 今の魔王ヴォルトに全能神だった頃の記憶は無いようだが、自分たちは愚かなことをしたのだということがよく分かった。

(お父様、申し訳ありませんでした)

 多くの神が呪いの怨嗟を吐きながら消えていく中、ただ1人、戦いの神は消える前に一言、懺悔の言葉を呟いたのだった。

○○○

「ねぇヴォルト。この子ヴォルトの事が大好きみたい! お父さんなのがもう分かるのかな?」
「そうか?」
「ええ、見てよヴォルトの顔見て笑ってるじゃない!」

 キャッキャと莉子に抱かれた赤子が、ヴォルトの髪を引っ掴んで笑っている。ぐいぐいと引っ張られるが、ヴォルトはされるがままになっていた。

「ふふっアレウス、そろそろヴォルトが可哀想よ」
「あう?」
「きゃー可愛い!」

 莉子にそっと注意されるが、よく理解していないアレウスはキョトンとした顔で莉子を見つめた。瞬間、莉子が悶える。

「ねね、見たヴォルト?」
「見たぞ」
「やっぱりカメラが欲しいわ! ねぇ、もう少し先の時代に行かない? そしたらカメラに似たものがあると思うの!」

 興奮する莉子をヴォルトは静かに抱き寄せて、アレウスと一緒に膝の上に乗せる。

「落ち着け」

 ぽんぽんと頭を撫でられれば、莉子はされるがままだ。

「アレウスはいつでも可愛いから大丈夫だ」
「そう?」
「あぁ」
「あうあ!」

 ヴォルトのマネをして声を出すアレウスに、莉子はまたもやにまぁと頬が緩んだのを感じた。

「なら、今度アレウスが大きくなったらピクニックしましょう」
「いいぞ」

 チュッと莉子のほほに口付けたヴォルトは、腕の中に収まる最愛の人を見つめながら幸せそうに笑って答えたのだった。

 莉子とヴォルトの子供であるアレウスには一房の赤い髪が生えている。




  ーーまるで戦いの神のようにーー

               



      


              【終】

○○○

 拙い作品だったと思いますが、最後までお読みいただきありがとうございました!
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みんなの感想(1件)

sai
2021.09.11 sai

はじめまして。大変楽しく読ませていただきました♪
ウォルト様がスパダリでカッコいい(//∇//)
世界を……しない!というのが新しくて良かったと思います。
また他の作品も読ませていただきますね。
完結して頂きありがとうございました!

ウミ
2021.09.15 ウミ

最後までお読みいただきありがとうございます!
また別の作品でお会いできることを願っております‼︎

解除

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