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登場人物紹介(※ネタバレにご注意ください)
ルベリオス
しおりを挟む「アドルティスさん、丁度良かったです。ラヴァンさんからの指名依頼が入っているのですが、今お時間ありますか?」
六日間の護衛仕事が終わってギルドに戻ってきた時、隣の受付からそう呼ばれて俺は頷いた。
「これなんですが……、私、不勉強でこの採取対象を知らないんですがアドルティスさんはわかりますか?」
「……ああ、問題ない」
素材採取や加工などの生産系担当のギルド職員から渡された依頼票を見てそう答える。
花が開く前の月見草にココアルカの実で房成りの物、魔力含有量中等以上のベスカの根を土付きで、それから三エル以上の長さのグェン鳥の尾羽に岩熊の胆石……相変わらず要求が厳しいな。岩熊の胆石だって?
でもまあ、多分大丈夫だろう。ココアルカの実の方は季節的にもちょうどいいあたりだし。
国一番の薬師と言われるラヴァンは、言うことは厳しいが理には適っている。ちゃんとその素材が一番いい状態で採れる時期にこういう依頼を出して来るのだから、薬の作り方だけでなく素材そのものをよく知っている証拠だ。
下宿先のエリザさんと同じくらい彼女のことも尊敬している俺は、できる限り依頼を受けるようにしている。
すると受付の女の子が首を傾げて尋ねてきた。
「魔力含有量が中等以上ってありますけど、そんなの見てわかるんですか? 魔獣は獲れた魔石の大きさや質でなんとなくわかりますけど……」
「草は触ればわかる」
「えっ、凄いですね! それってやっぱりエルフの人特有のスキルなんですか!? さすがです!」
カウンターを越える勢いで身を乗り出してくる彼女に一歩引いて、俺はちょっと考えた。そうかな。これってエルフだけの能力なのか? 人間はできないんだろうか。もしそうなら他の人間たちがなかなかラヴァンが要求するレベルの素材を採取できないというのもわかる。そうか、今まで考えたことなかったな。
すると受付の子はますます勢い込んで聞いて来た。
「あの、これココアルカの実で房成りの物、って注釈がついてますけど、普通の実と房成りの実とで何か違うんですか?」
「房でなった実はそれぞれの含有魔力が均等だから、製薬する時の配合や薬効の違いを比べたい時の基材にするんだ」
「なるほど、そうなんですね……」
ギルドの受付からこんなことを聞かれるのは珍しい。採取とか薬師の仕事に興味があるんだろうか。
「月見草も花が咲く前と後とで違いが?」
「月見草は夜になって花が開くと日のあるうちに溜め込んだ魔力が放出されてしまう。それではいい薬は作れない」
「岩熊の胆石なんて何に使うんです?」
「乾燥させてすり潰すと胃の痛みを和らげる薬になる」
ちなみにエアルガ山脈にいるという火喰鳥の唾や他にもいくつかのものと混ぜ合わせて精製すると不老不死の薬ができあがるというが、本当のところは知らない。いや、でもラヴァンだったらひょっとして知ってるんだろうか……などと考えていたらまた別の質問が飛んできた。
「物語の本でエルフの人たちは髪を長く伸ばしているとそれだけ魔力が増えるって読んだんですけど、アドルティスさんは肩の上までしかないですよね? なんでですか? 伸ばさないんですか?」
「は?」
え? 髪? 髪の長さがなんだって?
突然の予想外の質問に首を傾げた時、後ろからぶっとい腕が伸びてきてぐい、と首に回された。
「おい、お前なにやってんだ」
「ぐえ」
く、苦しい。せめて力を加減してくれ。
見上げると、赤銅色の肌に太い眉と鋭い目、頬に古傷があって黒光りする短い角と時々唇の端に見え隠れする牙が目印の鬼人・ラカンの顔があった。
「ラ、ラカン?」
「おう、報酬の清算終わったぞ」
「ああ……ありがとう」
ラカンに強引に窓口から引き離されて、俺は慌てて受付の女の子に向かって言った。
「依頼は受ける。ラヴァンにそう伝えてくれ」
「は、はい! ありがとうございます!」
そのままずるずると引きずられながらギルドを出る。
時刻はそろそろ日暮れ間近、というところだ。最近、空気の匂いが変わってきた。もうすぐ夏が来るなぁ、とふと思う。
この時期特有の西の空の夕焼けのくっきりとした色合いが綺麗で思わず目を奪われていると、ラカンが腕で俺の首を捕まえたまま言った。
「夕メシ食ってくか」
「そうだな」
通りには今回の護衛仕事で一緒だった魔導士と僧侶が手を振っている。てっきり一緒に食べるのかと思ってそちらへ行こうとしたら、なぜかラカンに反対方向に引っ張られてしまった。
「ドゥルガスたちと食べないのか?」
「あっちは方向がまずい」
「え?」
方向? 意味がわからず聞き返そうとした時、聞き覚えのある声が後ろから微かに伝わってきた。
「……レンとリナルアの声……?」
ああ……確かに面倒だな……と思ってしまった。それは俺が二人に、というかリナルアに負い目があるからだ。
何度か一緒に仕事をしたことがある弓術士のリナルアは、ラカンのことが好きだ。
ダナンの街では結構有名な美形兄妹で腕もたつ彼女のような女こそ、きっとラカンに相応しいんだろうな。でも彼女がラカンにべたべたと引っ付いて甲高い声であれこれ話し掛けているのを見るとひどく苛々してしまう。
それに彼女の兄のレンも俺とは正反対の陽気な性格で、ひどく近い立ち位置で声を掛けてきたりやたらと頭や腕に触れてくる。
そういう他人との距離が近い人種って時々いるよな。俺はそういうのは苦手だ。でもラカンの知り合いだし、そう無碍にしたらラカンが嫌がるかもしれないから我慢している。
ああ、でも反対方向に逃げようとしてるってことは、ラカンもあの二人と飯を食うのは気が進まないってことか。顔合わせたら絶対飲みに誘われるもんな。いやでもどんな理由だって酒が飲める機会は絶対断らないからな、ラカンは。
そこまで考えてから俺は気が付いた。
そうか、多分疲れてるんだな。六日間ずっと野宿だったし、出くわした魔獣も結構強かった。今回一緒だったドゥルガスもダレンも寡黙で有能でいい相手だったし、ラカンもすごくタフな鬼人族だけど、それでも疲れることだってあるだろうからな。こっちはラカンが定宿にしている椋鳥の巣亭の方向だし、早く戻って寝たいんだろう。
だから俺は気を利かせてラカンに言った。
「じゃあ今日はここで別れよう。お疲れ」
「なんでそうなるんだよ」
「え?」
眉間になぜかものすごく深い皴を刻んだラカンに引きずられて、近くの食堂に連れ込まれる。
そして俺は山盛りの肉と野菜を宛がわれて、死ぬほど苦しい腹を抱える羽目になってしまった。
ラカンはというと、俺の倍以上は肉が積み上げられた大皿を前にしてものすごい勢いで食べている。そして店で一番大きなジョッキに三杯目のエールを注がせているのを、俺は思わず惚れ惚れと見つめてしまった。
はー、カッコイイ。この荒々しいまでの食欲とか、肉を噛みちぎる白い歯とか、そう、分厚い赤血牛の串焼きに食い込む牙を見てるだけで興奮する。
それから喉。エールをごきゅごきゅと音をたてて飲む度に動く喉仏なんて思わず齧りついて舐め回したくなるほどだ。
「おい、ちゃんと食っとかないとバテるぜ? ダナンの夏はめちゃくちゃ暑いからな」
そう、そこだけがこの街の難点なんだよな。と、毎年バテバテにバテてしまう俺は思わず眉をひそめる。でもまあ、まだ夏が来るまでは日があるし、さすがにここまで山盛りの肉を全部食べるのは無理だ。
いっこうに嵩の減らない皿の上を睨みつけていると「しょうがねぇなあ」と言ってラカンがほとんど全部かっさらっていってくれた。そして給仕女に向かって手を上げて木苺のコーディアルを頼んでくれた。それは蒸留酒に森の木苺と薬草を漬け込んだのを水で割ったやつで、綺麗な赤色をしていて甘酸っぱくてとても旨いやつだ。
「お前、好きだろう。こういうの」
「そうだな。ラカンは?」
「俺はこんな色のついた酒なんて飲まん」
「いや、エールは黄色だし火酒はオレンジ色だろう?」
「それとこれとは別だ」
相変わらず勝手なことを言ってて笑ってしまう。俺はありがたくラカンが頼んでくれたコーディアルを飲んだ。ラカンは時々意地悪だけど、こうやってすごく優しい時もある。
その時、後ろを通りがかった見覚えのある顔の重戦士にラカンが声を掛けられた。知り合いらしいその男と、最近東の山をうろついているという巨大な魔獣の話をしている。おかげで俺は心置きなくラカンの粗削りな横顔とか分厚い胸だとかぶっとい腕だとかを観察できた。
鬼人特有のあの赤銅色の肌は、見た目と同じで触るとすごく熱い。綺麗に鞣された革みたいな手触りで、あの身体であちこち擦られると本当にたまらない。
あの感触を思い出して胸が高鳴るし、お腹の奥がゾクゾクしてくる。
は~~~カッコイイ。触りたい。舐めたい。圧し掛かられたい。この後夕飯を食べ終わったらどうするのかな。もうちょっと一緒にいたいな。こんなざわざわしたところじゃなくて、二人っきりになりたい。
そうやって思い出すのは、どうしたってあの晩のことだ。
――――けど、よその男や女に取られるのは絶対に、絶対に、嫌だ。
あの信じられないようなことが起きた夜、ラカンは確かに言った。
――――それってやっぱり、そういうことなんじゃないのか?
これって期待していいってことだよな。ラカンもちょっとは俺のこといいって思って、好きって思ってるって。
ああ、いまだに信じられない。まさかそんなこと。
ラカンのものすごく重い身体が圧し掛かってきて、俺の顔をじっと見ながら奥までいっぱいいっぱい挿れてくれた。
すごく苦しかったけどめちゃくちゃに気持ちよかった。お腹いっぱいラカンのずっしりと大きなアレで埋め尽くされて、ゆさゆさ揺さぶられて。
なんだろう。重戦士と話してるラカンの顔がちょっと厳しくなってる。何かあったのかな。何かまずいことでも起きた? ちょっと眉を顰めて、口の端がぐっと下がってる。
はー、かっこいい……。あんな怖い顔しててもかっこいいってなんなんだろう……。
なんかちょっとまずいな。お腹の奥がムズムズしてきた。というか、後ろがすごく、なんていうか……。
今頃ラカンのラカンくんは大人しくズボンの中でじっとしてるんだろうけど、俺のアソコは何でか知らないけどじんじん疼いてる。おいおい、どうしたんだ? アディ。行儀が悪いぞ。なんてな。
ああ、でもまた舐めたいなぁ、触りたいなぁ、ラカンのアレ……。硬くて太くてビクビクしてる、めちゃくちゃカッコイイ、ラカンの……。
なんてとても人には言えないようなことを考えていたら、突然ラカンがこっちを向いた。俺は「あー横顔もカッコイイけど真正面から見られるとぐっとくる……」なんて馬鹿なこと思いながら、涼しい顔でコーディアルをこくり、と飲んだ。
六日間の護衛仕事が終わってギルドに戻ってきた時、隣の受付からそう呼ばれて俺は頷いた。
「これなんですが……、私、不勉強でこの採取対象を知らないんですがアドルティスさんはわかりますか?」
「……ああ、問題ない」
素材採取や加工などの生産系担当のギルド職員から渡された依頼票を見てそう答える。
花が開く前の月見草にココアルカの実で房成りの物、魔力含有量中等以上のベスカの根を土付きで、それから三エル以上の長さのグェン鳥の尾羽に岩熊の胆石……相変わらず要求が厳しいな。岩熊の胆石だって?
でもまあ、多分大丈夫だろう。ココアルカの実の方は季節的にもちょうどいいあたりだし。
国一番の薬師と言われるラヴァンは、言うことは厳しいが理には適っている。ちゃんとその素材が一番いい状態で採れる時期にこういう依頼を出して来るのだから、薬の作り方だけでなく素材そのものをよく知っている証拠だ。
下宿先のエリザさんと同じくらい彼女のことも尊敬している俺は、できる限り依頼を受けるようにしている。
すると受付の女の子が首を傾げて尋ねてきた。
「魔力含有量が中等以上ってありますけど、そんなの見てわかるんですか? 魔獣は獲れた魔石の大きさや質でなんとなくわかりますけど……」
「草は触ればわかる」
「えっ、凄いですね! それってやっぱりエルフの人特有のスキルなんですか!? さすがです!」
カウンターを越える勢いで身を乗り出してくる彼女に一歩引いて、俺はちょっと考えた。そうかな。これってエルフだけの能力なのか? 人間はできないんだろうか。もしそうなら他の人間たちがなかなかラヴァンが要求するレベルの素材を採取できないというのもわかる。そうか、今まで考えたことなかったな。
すると受付の子はますます勢い込んで聞いて来た。
「あの、これココアルカの実で房成りの物、って注釈がついてますけど、普通の実と房成りの実とで何か違うんですか?」
「房でなった実はそれぞれの含有魔力が均等だから、製薬する時の配合や薬効の違いを比べたい時の基材にするんだ」
「なるほど、そうなんですね……」
ギルドの受付からこんなことを聞かれるのは珍しい。採取とか薬師の仕事に興味があるんだろうか。
「月見草も花が咲く前と後とで違いが?」
「月見草は夜になって花が開くと日のあるうちに溜め込んだ魔力が放出されてしまう。それではいい薬は作れない」
「岩熊の胆石なんて何に使うんです?」
「乾燥させてすり潰すと胃の痛みを和らげる薬になる」
ちなみにエアルガ山脈にいるという火喰鳥の唾や他にもいくつかのものと混ぜ合わせて精製すると不老不死の薬ができあがるというが、本当のところは知らない。いや、でもラヴァンだったらひょっとして知ってるんだろうか……などと考えていたらまた別の質問が飛んできた。
「物語の本でエルフの人たちは髪を長く伸ばしているとそれだけ魔力が増えるって読んだんですけど、アドルティスさんは肩の上までしかないですよね? なんでですか? 伸ばさないんですか?」
「は?」
え? 髪? 髪の長さがなんだって?
突然の予想外の質問に首を傾げた時、後ろからぶっとい腕が伸びてきてぐい、と首に回された。
「おい、お前なにやってんだ」
「ぐえ」
く、苦しい。せめて力を加減してくれ。
見上げると、赤銅色の肌に太い眉と鋭い目、頬に古傷があって黒光りする短い角と時々唇の端に見え隠れする牙が目印の鬼人・ラカンの顔があった。
「ラ、ラカン?」
「おう、報酬の清算終わったぞ」
「ああ……ありがとう」
ラカンに強引に窓口から引き離されて、俺は慌てて受付の女の子に向かって言った。
「依頼は受ける。ラヴァンにそう伝えてくれ」
「は、はい! ありがとうございます!」
そのままずるずると引きずられながらギルドを出る。
時刻はそろそろ日暮れ間近、というところだ。最近、空気の匂いが変わってきた。もうすぐ夏が来るなぁ、とふと思う。
この時期特有の西の空の夕焼けのくっきりとした色合いが綺麗で思わず目を奪われていると、ラカンが腕で俺の首を捕まえたまま言った。
「夕メシ食ってくか」
「そうだな」
通りには今回の護衛仕事で一緒だった魔導士と僧侶が手を振っている。てっきり一緒に食べるのかと思ってそちらへ行こうとしたら、なぜかラカンに反対方向に引っ張られてしまった。
「ドゥルガスたちと食べないのか?」
「あっちは方向がまずい」
「え?」
方向? 意味がわからず聞き返そうとした時、聞き覚えのある声が後ろから微かに伝わってきた。
「……レンとリナルアの声……?」
ああ……確かに面倒だな……と思ってしまった。それは俺が二人に、というかリナルアに負い目があるからだ。
何度か一緒に仕事をしたことがある弓術士のリナルアは、ラカンのことが好きだ。
ダナンの街では結構有名な美形兄妹で腕もたつ彼女のような女こそ、きっとラカンに相応しいんだろうな。でも彼女がラカンにべたべたと引っ付いて甲高い声であれこれ話し掛けているのを見るとひどく苛々してしまう。
それに彼女の兄のレンも俺とは正反対の陽気な性格で、ひどく近い立ち位置で声を掛けてきたりやたらと頭や腕に触れてくる。
そういう他人との距離が近い人種って時々いるよな。俺はそういうのは苦手だ。でもラカンの知り合いだし、そう無碍にしたらラカンが嫌がるかもしれないから我慢している。
ああ、でも反対方向に逃げようとしてるってことは、ラカンもあの二人と飯を食うのは気が進まないってことか。顔合わせたら絶対飲みに誘われるもんな。いやでもどんな理由だって酒が飲める機会は絶対断らないからな、ラカンは。
そこまで考えてから俺は気が付いた。
そうか、多分疲れてるんだな。六日間ずっと野宿だったし、出くわした魔獣も結構強かった。今回一緒だったドゥルガスもダレンも寡黙で有能でいい相手だったし、ラカンもすごくタフな鬼人族だけど、それでも疲れることだってあるだろうからな。こっちはラカンが定宿にしている椋鳥の巣亭の方向だし、早く戻って寝たいんだろう。
だから俺は気を利かせてラカンに言った。
「じゃあ今日はここで別れよう。お疲れ」
「なんでそうなるんだよ」
「え?」
眉間になぜかものすごく深い皴を刻んだラカンに引きずられて、近くの食堂に連れ込まれる。
そして俺は山盛りの肉と野菜を宛がわれて、死ぬほど苦しい腹を抱える羽目になってしまった。
ラカンはというと、俺の倍以上は肉が積み上げられた大皿を前にしてものすごい勢いで食べている。そして店で一番大きなジョッキに三杯目のエールを注がせているのを、俺は思わず惚れ惚れと見つめてしまった。
はー、カッコイイ。この荒々しいまでの食欲とか、肉を噛みちぎる白い歯とか、そう、分厚い赤血牛の串焼きに食い込む牙を見てるだけで興奮する。
それから喉。エールをごきゅごきゅと音をたてて飲む度に動く喉仏なんて思わず齧りついて舐め回したくなるほどだ。
「おい、ちゃんと食っとかないとバテるぜ? ダナンの夏はめちゃくちゃ暑いからな」
そう、そこだけがこの街の難点なんだよな。と、毎年バテバテにバテてしまう俺は思わず眉をひそめる。でもまあ、まだ夏が来るまでは日があるし、さすがにここまで山盛りの肉を全部食べるのは無理だ。
いっこうに嵩の減らない皿の上を睨みつけていると「しょうがねぇなあ」と言ってラカンがほとんど全部かっさらっていってくれた。そして給仕女に向かって手を上げて木苺のコーディアルを頼んでくれた。それは蒸留酒に森の木苺と薬草を漬け込んだのを水で割ったやつで、綺麗な赤色をしていて甘酸っぱくてとても旨いやつだ。
「お前、好きだろう。こういうの」
「そうだな。ラカンは?」
「俺はこんな色のついた酒なんて飲まん」
「いや、エールは黄色だし火酒はオレンジ色だろう?」
「それとこれとは別だ」
相変わらず勝手なことを言ってて笑ってしまう。俺はありがたくラカンが頼んでくれたコーディアルを飲んだ。ラカンは時々意地悪だけど、こうやってすごく優しい時もある。
その時、後ろを通りがかった見覚えのある顔の重戦士にラカンが声を掛けられた。知り合いらしいその男と、最近東の山をうろついているという巨大な魔獣の話をしている。おかげで俺は心置きなくラカンの粗削りな横顔とか分厚い胸だとかぶっとい腕だとかを観察できた。
鬼人特有のあの赤銅色の肌は、見た目と同じで触るとすごく熱い。綺麗に鞣された革みたいな手触りで、あの身体であちこち擦られると本当にたまらない。
あの感触を思い出して胸が高鳴るし、お腹の奥がゾクゾクしてくる。
は~~~カッコイイ。触りたい。舐めたい。圧し掛かられたい。この後夕飯を食べ終わったらどうするのかな。もうちょっと一緒にいたいな。こんなざわざわしたところじゃなくて、二人っきりになりたい。
そうやって思い出すのは、どうしたってあの晩のことだ。
――――けど、よその男や女に取られるのは絶対に、絶対に、嫌だ。
あの信じられないようなことが起きた夜、ラカンは確かに言った。
――――それってやっぱり、そういうことなんじゃないのか?
これって期待していいってことだよな。ラカンもちょっとは俺のこといいって思って、好きって思ってるって。
ああ、いまだに信じられない。まさかそんなこと。
ラカンのものすごく重い身体が圧し掛かってきて、俺の顔をじっと見ながら奥までいっぱいいっぱい挿れてくれた。
すごく苦しかったけどめちゃくちゃに気持ちよかった。お腹いっぱいラカンのずっしりと大きなアレで埋め尽くされて、ゆさゆさ揺さぶられて。
なんだろう。重戦士と話してるラカンの顔がちょっと厳しくなってる。何かあったのかな。何かまずいことでも起きた? ちょっと眉を顰めて、口の端がぐっと下がってる。
はー、かっこいい……。あんな怖い顔しててもかっこいいってなんなんだろう……。
なんかちょっとまずいな。お腹の奥がムズムズしてきた。というか、後ろがすごく、なんていうか……。
今頃ラカンのラカンくんは大人しくズボンの中でじっとしてるんだろうけど、俺のアソコは何でか知らないけどじんじん疼いてる。おいおい、どうしたんだ? アディ。行儀が悪いぞ。なんてな。
ああ、でもまた舐めたいなぁ、触りたいなぁ、ラカンのアレ……。硬くて太くてビクビクしてる、めちゃくちゃカッコイイ、ラカンの……。
なんてとても人には言えないようなことを考えていたら、突然ラカンがこっちを向いた。俺は「あー横顔もカッコイイけど真正面から見られるとぐっとくる……」なんて馬鹿なこと思いながら、涼しい顔でコーディアルをこくり、と飲んだ。
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