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本編
虎族
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「全く、妃であるのに逃げるなんて」
ブツブツと呟くのはアイリーン付きの女官になった女。赤い瞳に白銀の長い髪。整った顔立ちの彼女の顔は歪んでいた。
「龍の番に夢中ならなければいいけれど……本当はアタシがユーベルト様の正妃になる予定だったんだ。それなのにポッと出の小娘が!」
しかも、あの番が逃げる際に女官が使っていたお忍び用の服まで取られてしまったのだ。
「あぁ、腹が立つ! あんなヤツ、ジジイ達に下賜すればいいのに!!!!」
バシャッと手元のお茶を怒りのままに、投げ捨てる。
「おい、早くしろ!」
「王がいない間、守り抜け」
「急ぐんだ!!!!」
後ろでは新たな侵入者が出たとかで兵士たちが大騒ぎしている。
「全く、大袈裟なのよ。前も誤作動起こしてたじゃない」
うるさいわねぇ、と女官が立ち上がった時だった。
『グルァァァァァァァァア!!!!』
聞いたこともない威嚇音と一緒に、数匹の龍が姿を現したのは。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「龍の襲撃だぁーーーー!」
「早く応戦を!」
「王はまだか!?」
そこかしこに煙が上がり、あちこちで悲鳴が聞こえる。
「ひっ!?」
美しい街並みは破壊され、逃げ惑う虎族達が眼下に映し出された。
なんで? トカゲは臆病で私たち虎族には手出しできなかったんじゃないの!?
そう思えたらどんなに楽か。目の前に広がる光景がそれは間違った認識であるとご丁寧に女官に教えてくれていた。
「うわぁぁぁ! 来るなっ! 来るなぁぁ! グワァ!!!!」
先程までバカにしていた年老いた大臣達が次々と空へ放り出され、まるで物のようだと女官は感じた。
「あぁ、ユーベルトさま」
祈るように手を組んだ女官だったが、彼女は気づいていない。そのユーベルトこそが今回の騒動を引き起こした元凶なのだと言うことを。
彼女は今や龍族に捕らえられたユーベルトに一縷の望みをかけて祈る。
『グルルルル』
「あ、あぁ」
そんな彼女の背後で、恐ろしい唸り声がした。
振り向いた先には、憎しみに燃えた瞳。
自分達はなんという愚かなことをしてきたのだ。大きな鉤爪が迫る中、女官の心の中は後悔と恐怖とその他諸々の念が渦巻いていた。
ちなみに彼女は知らない。今回襲撃に来た龍達は、虎族の王によって番を奪われ殺された者達の親族であることを。
ーー龍は虎族と違って長命なのだ。怒りは蓄積し、お許しが出たことで龍たちのストッパーは外れた。もはや、誰にも止めることなどできない。
『我らの苦しみを味わうがいい!』
龍達は涙を流しながら襲撃したという。だが、不思議なことに、被害を被ったのは王族や貴族。街は修正不可能なほど破壊したものの、一般市民に怪我人は続出したが、死者は出なかったそうだ。
怒り狂った龍族相手に被害がこれだけで済むのは奇跡としか言いようがなく、ある歴史学者達の間では、"加護持ちが一度国に訪れた影響なのかもしれない"と言われている。
ブツブツと呟くのはアイリーン付きの女官になった女。赤い瞳に白銀の長い髪。整った顔立ちの彼女の顔は歪んでいた。
「龍の番に夢中ならなければいいけれど……本当はアタシがユーベルト様の正妃になる予定だったんだ。それなのにポッと出の小娘が!」
しかも、あの番が逃げる際に女官が使っていたお忍び用の服まで取られてしまったのだ。
「あぁ、腹が立つ! あんなヤツ、ジジイ達に下賜すればいいのに!!!!」
バシャッと手元のお茶を怒りのままに、投げ捨てる。
「おい、早くしろ!」
「王がいない間、守り抜け」
「急ぐんだ!!!!」
後ろでは新たな侵入者が出たとかで兵士たちが大騒ぎしている。
「全く、大袈裟なのよ。前も誤作動起こしてたじゃない」
うるさいわねぇ、と女官が立ち上がった時だった。
『グルァァァァァァァァア!!!!』
聞いたこともない威嚇音と一緒に、数匹の龍が姿を現したのは。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「龍の襲撃だぁーーーー!」
「早く応戦を!」
「王はまだか!?」
そこかしこに煙が上がり、あちこちで悲鳴が聞こえる。
「ひっ!?」
美しい街並みは破壊され、逃げ惑う虎族達が眼下に映し出された。
なんで? トカゲは臆病で私たち虎族には手出しできなかったんじゃないの!?
そう思えたらどんなに楽か。目の前に広がる光景がそれは間違った認識であるとご丁寧に女官に教えてくれていた。
「うわぁぁぁ! 来るなっ! 来るなぁぁ! グワァ!!!!」
先程までバカにしていた年老いた大臣達が次々と空へ放り出され、まるで物のようだと女官は感じた。
「あぁ、ユーベルトさま」
祈るように手を組んだ女官だったが、彼女は気づいていない。そのユーベルトこそが今回の騒動を引き起こした元凶なのだと言うことを。
彼女は今や龍族に捕らえられたユーベルトに一縷の望みをかけて祈る。
『グルルルル』
「あ、あぁ」
そんな彼女の背後で、恐ろしい唸り声がした。
振り向いた先には、憎しみに燃えた瞳。
自分達はなんという愚かなことをしてきたのだ。大きな鉤爪が迫る中、女官の心の中は後悔と恐怖とその他諸々の念が渦巻いていた。
ちなみに彼女は知らない。今回襲撃に来た龍達は、虎族の王によって番を奪われ殺された者達の親族であることを。
ーー龍は虎族と違って長命なのだ。怒りは蓄積し、お許しが出たことで龍たちのストッパーは外れた。もはや、誰にも止めることなどできない。
『我らの苦しみを味わうがいい!』
龍達は涙を流しながら襲撃したという。だが、不思議なことに、被害を被ったのは王族や貴族。街は修正不可能なほど破壊したものの、一般市民に怪我人は続出したが、死者は出なかったそうだ。
怒り狂った龍族相手に被害がこれだけで済むのは奇跡としか言いようがなく、ある歴史学者達の間では、"加護持ちが一度国に訪れた影響なのかもしれない"と言われている。
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