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番外編

ちびっ子

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 領地にお嬢様が来るらしいと聞いて、ちびっ子達はワクワクしていた。

「なあなあ、どんな人なんだろうな?」

「しらねぇけどいい人だったらいいな」

 だけど、いざ来た人を見てみれば、自分達の母親より太く怖そうな見た目の人だった。

「なあ、あの悪魔の湯を温泉って呼んで入るらしいぜ?」

「ええ~! あれって人間が入ったら死ぬやつでしょ?」

 何年か前に物好きな市民が入って死亡したのはいい例だった。あれ以来、入ってはダメだと言われている。猿や、動物には無害なものでも人間には毒になるらしい。

「でもさーー、温泉プールって作るらしいぞ?」

「マジ?」

「あぁ、母ちゃんが言ってた!」

「入って死んだらどうするのかな?」

「さぁ?」

 この頃になると、あの巨体のお嬢様は別に怖くはないというのがちびっ子達の中の共通認識だった。

「ちびっ子ども! 鬼ごっこしよう!!!!」

「いいよー!」

「やろやろ!」

「お嬢様が鬼ね‼︎」

 噂していた人物がいきなり現れてもちびっ子は驚かない。だって、この人はとても楽しい遊びを教えてくれるから。

「鬼はジャンケンで決めるのよ!」

 後、大人げない。

「じゃーんけんぽん!」

「やっリィ!」

「よっしゃ!」

「言い出しっぺが負けてやんの~~!」

「ぐぅ!」

 お嬢様は、いつも負けていた。

「なあ、温泉っていつ出来んの?」

「んーー、半年後じゃないかな?」

「あの湯って死ぬんだぜ?」

「はっはっはっはー、それはどうかな? チミたちは温泉の凄さを知らないんだよ」

「えー、でも前人死んだよ?」

 ここらにある悪魔の湯は全て同じ場所から来ているから、この湯だけ違うということはない。

「んー、まぁ、作ってみてダメだったら普通のプールにするから」

「そっか」

「よっしゃ、じゃあ10秒数えるから早く逃げな!」

 きゃーーと楽しげな悲鳴をあげて子供たちが逃げていく。ドッスンドッスンと後ろから追いかけてくる足音に、知らずに通りかかった市民たちは目を丸くし、また変な遊びかと微笑ましく見守っていた。

「ふふっ~ん! ちびっ子どもよ! ついにプールが出来たぞ‼︎」

「「「「え~! マジ?」」」」

「マジマジ!」

 アイリーンの口の悪さがうつった子供たち。その頃にはぽっちゃりさん、までになったアイリーンが自慢げに子供たちへ温泉プールの告知をしていた。

「パッチテストは済ませたから。あのお湯を使ってお風呂に入ってみたけど死ななかったよ。後、この肌を見よ!」

「わぁ、ツルツル!」

「そうよ。お肌がツルツルすべすべになるのよ! いいでしょ~」

「「「俺ら興味ない」」」

「なっ!? いっぱい水がある所で泳ぎ放題よ!」

「えー! 行く行く!」

 最初は興味なさげだったちびっ子達も、目を輝かせて自慢げに語るアイリーンの話に聞き入っていた。

「ねね、お母さん。明日温泉プールができるんだって! みんなで行くんだ! お肌がツルツルになるらしいよ! アイリーンもツルツルだった!」

「ダメだよ。あの湯は危ないと何度言ったら分かるんだい」

 ちびっ子の母親は呆れ果てて溜息をついたが、結局ちびっ子が行きたいと駄々をこねる為に行くことにした。しかし、間違っても死ぬかもしれない湯に入れるわけにはいかない。

 ーーだが。

「イッチバンーーーー!!!!」

 バッシャーンと目を離した好きに湯に飛び込んだ自分の息子に、目を見開いて気絶しそうになった。

「うわ、すっげえ。めっちゃ肌すべすべになるだけど!」

「見てみて、私も!」

「このお湯いい匂いする!」

「どういうことだい?」

 ちびっ子の母親はこの目でしっかりとみたのだ。この湯に浸かって死んだ人を。だが、自分の息子は死ぬことは愚か、ますます元気になっていくようだった。

「あの湯に浸かったら元気になったわい」

「ワシも持病の腰痛が治ったぞ?」

 この日から、アイリーン様曰く温泉プールは市民には欠かせないものとなった。病気になってもあの湯に浸かればすぐに治る。お陰で薬師もいらず、貧しかった生活は段違いに向上した。

 
「あの方は加護持ちじゃないかねぇ?」

「加護持ち?」

「そうさ。訪れた場所に・・・・・・豊穣をもたらすお方」

「へぇ、すげえな!」

「でも、このことは憶測でしかないから、誰にも言わないように」

「あぁ、分かってる!」

 ちびっ子と母の秘密の約束は、今も続いている。
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