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本編

龍族

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「失礼する」

 滅多に姿を現さないとされるの龍族が王宮に来た時、皆蜂の巣を突いたような大騒ぎだった。

「りゅ、龍族の王よ、どうなされた」

 不味いことでもしたのか。ダラダラと脂汗を流しながら、王は恐る恐る目の前にいる美しい男に問いかけた。

「いや、この国に我の番がいたのでな」

「なんと!?」

 王は仰天した。

「も、もしや、我が姫か?」

「いや、違う」

 もし、そうならこんなに喜ばしいことはない。そう思ったが、スッパリ切り捨てられてしまった。

「とりあえず手出し無用。首を突っ込むなと言うことだけが我の言いたいことだ」

 ズオッと周囲の空気に圧力がかかる。龍族の王の番。探し出して政治の材料にしようと思っていた内心を見透かされた気がして、王は素早くその案を捨てた。

「も、もちろんだ」

「ならよい」

 スッと軽くなった空気に安堵し、王は龍族の王がいなくなってもしばらくは王座から動けなかった。

「お父様、先程の方は?」

「あぁ、龍族の王だ」

「なぜ、この国にいらっしゃったの?」

 もう16になろうかという娘には婚約者がいる。それでも、娘が龍族の番であったなら……王は未練がましく娘を眺め、ギョッとした。

「ま、まさか、惚れてはないだろうな?」

「キャッ、バレましたか? あの方、とってもカッコよくて……」

 不味い。王の中に、危険信号が点滅した。

「あの方にはすでに番がいる。永遠の伴侶だ。お前には酷だが、妃になることは無理だ」

「え、でも、私はこの国の姫でしょう? 番の方は愛妾にすればいいんじゃないの?」

   何っつー恐ろしいことを!?!?

 王は娘の無知具合に恐れ慄いた。

「やめなさい。死にたいのか」

 全くわかっていない娘に、王はため息を吐いた。まだ、娘の無知が早い段階でわかって良かったのかもしれない。

「いいかい。龍族の番っていうのはねーー」

 こうして、王から娘へのお説教は太陽が上がって沈むまで行われた。

「わ、私は何という恐ろしいことをしようとしていたの‼︎」

 ガクガクと震える娘には、王は一仕事終えたような顔をした。

「だからね、間違っても手は出してはならないよ」

「ええ、分かりましたわ」

 こうして、着火直前だった爆弾は速やかに処理されたのだった。
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