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本編

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ーードン!!!!

「グハッ!?!?」

 何が起きたのか? 気づけばユーベルトは地面に臥していた。まるで服従のようなその格好に、ユーベルトの顔は羞恥で赤く染まる。

「トカゲ風情が!」

「ふむ、そのトカゲ風情の我は変化すらせず指一本でそなたを倒しておるが?」

 かろうじて動く首を上げてみれば、人差し指を下に下ろした格好のルベリオスがいた。

「何故かと言いたげだな? 我は王だ。王の魔法に限界はない」

 ユーベルトを睥睨する黒曜石のような瞳には、若干金が混ざっている。

 尊大とも言えそうな態度なのに、ルベリオスにはそうするのが当たり前のような風格があった。

「ユーベルト様も王だよ」

 隣から茶々を入れるようにルリが言うが、ルベリオスは興味なさげにユーベルトを眺めるだけだった。

「こんな者に我ら龍族が苦しめられていたとはな」

「まぁ、トリバコで番を縛られちゃ攻めようにも攻められないさ」

 もしアイリーンが加護持ちでなければ、他人事ではなかったのかもしれない。アイリーンが自分以外にあの潤んだ視線をむけ、愛を囁くなど!

 パッとルベリオスの目の前に赤が散った。

「がぁぁぁぁあ!?!?」

 そこには、自慢の牙を抜かれ耳を切り裂かれた哀れな虎ーーユーベルトがいた。

「ふん、これ以上は我が国の法では禁止されていてな。法が無ければ今すぐにでも生き地獄を味わわせていた所だ。連れて行け」

 音もなく現れた男達は、龍族の影達だ。

「ぐっ‼︎ こんなことが通ると思っているのか!?やめろ! 私は王だぞ!」

「ひぃぃぃぃ!!!!」

 恥も外聞もなく喚き出したユーベルトを、いとも簡単に押さえ込み拘束する。全力の抵抗もまるで赤子をいなすかの様に扱われる。屈辱意外の何者でもない。しかも、一般の龍にすらも相手にされない。ユーベルトの中の何かがガラガラと崩れた音がした。ルンガは抵抗せず、されるがまま。

 歴代の中で最強と謳われ、プライドの高いユーベルトには受け入れ難い現実。ガツンと重い衝撃が首に襲いかかる。そのまま、ユーベルトの意識は闇に飲み込まれた。

 きっかり10秒後。ユーベルトとルンガの姿は消えていた。

「今回のことは礼を言う」

「いや、いいよ。しかし、リンがルベリオス様の番とはねぇ」

「ユーベルトとやらにはそれ相応の償いをしてもらう予定だ。それから、アイリーンが加護持ちだと言うことは内緒にしてくれ」

「あい分かった」

 そう言いながら、ルリはホッとしたように息を吐く目の前の美しい男を、芸術鑑賞をする様にまじまじと眺め、鼻を鳴らした。

 まぁ、かっこよさは負けてもウチのダンナは男前だからねぇ。

 年齢的にはルベリオスの方が上だが、精神年齢の方は多分ルリの方が上だろう。ルリ的には、ルベリオスは可愛い甥だ。同盟国である龍族の国との行き来でよく、ルベリオスと会っていたのだ。

「早く迎えにいってあげな」

 でないとそろそろ、ウチの旦那がキレそうだ。

「分かった」

 そう言って去っていくルベリオスを見届けた後、ルリは後ろからくる衝撃に備えた。

「ルリ! 大丈夫かい? 変なことはされなかった?」

 まさに羊族、と言ったような容貌の男性がルリを抱きしめている。

「私が変なことされるわけないだろう?」

「いーや、ルリは気づいていないんだよ。君は世界一魅力的だ!!!!」

 柔和な見た目からは信じられないような執着心の持ち主であるルリの旦那。実はルリが調査と偽って街に出ているのも、この旦那の執着から逃れるためであった。

 別に嫌いではないんだけどねぇ……

「ルリ、ほら部屋へ行こう? もうルリの仕事は終わらせたから」

 鬱陶しいというか……

 元王だったこの男は、下町にいるルリを見つけた瞬間攫って手篭めにした。そして、逃れられないよう自ら王座をルリに譲ったのだ。

 当然、下町育ちのルリはその重さが分かるはずもなく、普通に逃げ出していた。当時は何度逃げ出したことか。

 教育を施されるうちに、その重さがようやく理解でき、自分が逃れられない事を知った時、ルリは思わず旦那に飛び蹴り&張り手&鳩尾に10発をお見舞いしてしまった。

「ルリ、君は本当に可愛いよ」

 だが、当時の荒々しい気性の持ち主だったルリがそれだけで許したって言うのは、ルリが絆されてしまった証拠だった。

 絆されていなかったら、王であろうと旦那は今頃天国ーーいや、地獄にいるだろう。

 しかし、絆されたと認めるのは、ルリの性格上それは何だか癪に触るので、街の治安調査という名の脱走は未だに続いている。もちろんやるべきことはやってから脱走している。がーー

「えらいね、今日は自分から帰ってくるなんて。後少し遅かったら、僕が探しに出ていたよ?」

 愛する旦那に頭を撫でくりまわされながら、ルリは毎度のことながらに思う。

 ウゼェ……と。
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