40 / 52
本編
27
しおりを挟む
ーードン!!!!
「グハッ!?!?」
何が起きたのか? 気づけばユーベルトは地面に臥していた。まるで服従のようなその格好に、ユーベルトの顔は羞恥で赤く染まる。
「トカゲ風情が!」
「ふむ、そのトカゲ風情の我は変化すらせず指一本でそなたを倒しておるが?」
かろうじて動く首を上げてみれば、人差し指を下に下ろした格好のルベリオスがいた。
「何故かと言いたげだな? 我は王だ。王の魔法に限界はない」
ユーベルトを睥睨する黒曜石のような瞳には、若干金が混ざっている。
尊大とも言えそうな態度なのに、ルベリオスにはそうするのが当たり前のような風格があった。
「ユーベルト様も王だよ」
隣から茶々を入れるようにルリが言うが、ルベリオスは興味なさげにユーベルトを眺めるだけだった。
「こんな者に我ら龍族が苦しめられていたとはな」
「まぁ、トリバコで番を縛られちゃ攻めようにも攻められないさ」
もしアイリーンが加護持ちでなければ、他人事ではなかったのかもしれない。アイリーンが自分以外にあの潤んだ視線をむけ、愛を囁くなど!
パッとルベリオスの目の前に赤が散った。
「がぁぁぁぁあ!?!?」
そこには、自慢の牙を抜かれ耳を切り裂かれた哀れな虎ーーユーベルトがいた。
「ふん、これ以上は我が国の法では禁止されていてな。法が無ければ今すぐにでも生き地獄を味わわせていた所だ。連れて行け」
音もなく現れた男達は、龍族の影達だ。
「ぐっ‼︎ こんなことが通ると思っているのか!?やめろ! 私は王だぞ!」
「ひぃぃぃぃ!!!!」
恥も外聞もなく喚き出したユーベルトを、いとも簡単に押さえ込み拘束する。全力の抵抗もまるで赤子をいなすかの様に扱われる。屈辱意外の何者でもない。しかも、一般の龍にすらも相手にされない。ユーベルトの中の何かがガラガラと崩れた音がした。ルンガは抵抗せず、されるがまま。
歴代の中で最強と謳われ、プライドの高いユーベルトには受け入れ難い現実。ガツンと重い衝撃が首に襲いかかる。そのまま、ユーベルトの意識は闇に飲み込まれた。
きっかり10秒後。ユーベルトとルンガの姿は消えていた。
「今回のことは礼を言う」
「いや、いいよ。しかし、リンがルベリオス様の番とはねぇ」
「ユーベルトとやらにはそれ相応の償いをしてもらう予定だ。それから、アイリーンが加護持ちだと言うことは内緒にしてくれ」
「あい分かった」
そう言いながら、ルリはホッとしたように息を吐く目の前の美しい男を、芸術鑑賞をする様にまじまじと眺め、鼻を鳴らした。
まぁ、かっこよさは負けてもウチのダンナは男前だからねぇ。
年齢的にはルベリオスの方が上だが、精神年齢の方は多分ルリの方が上だろう。ルリ的には、ルベリオスは可愛い甥だ。同盟国である龍族の国との行き来でよく、ルベリオスと会っていたのだ。
「早く迎えにいってあげな」
でないとそろそろ、ウチの旦那がキレそうだ。
「分かった」
そう言って去っていくルベリオスを見届けた後、ルリは後ろからくる衝撃に備えた。
「ルリ! 大丈夫かい? 変なことはされなかった?」
まさに羊族、と言ったような容貌の男性がルリを抱きしめている。
「私が変なことされるわけないだろう?」
「いーや、ルリは気づいていないんだよ。君は世界一魅力的だ!!!!」
柔和な見た目からは信じられないような執着心の持ち主であるルリの旦那。実はルリが調査と偽って街に出ているのも、この旦那の執着から逃れるためであった。
別に嫌いではないんだけどねぇ……
「ルリ、ほら部屋へ行こう? もうルリの仕事は終わらせたから」
鬱陶しいというか……
元王だったこの男は、下町にいるルリを見つけた瞬間攫って手篭めにした。そして、逃れられないよう自ら王座をルリに譲ったのだ。
当然、下町育ちのルリはその重さが分かるはずもなく、普通に逃げ出していた。当時は何度逃げ出したことか。
教育を施されるうちに、その重さがようやく理解でき、自分が逃れられない事を知った時、ルリは思わず旦那に飛び蹴り&張り手&鳩尾に10発をお見舞いしてしまった。
「ルリ、君は本当に可愛いよ」
だが、当時の荒々しい気性の持ち主だったルリがそれだけで許したって言うのは、ルリが絆されてしまった証拠だった。
絆されていなかったら、王であろうと旦那は今頃天国ーーいや、地獄にいるだろう。
しかし、絆されたと認めるのは、ルリの性格上それは何だか癪に触るので、街の治安調査という名の脱走は未だに続いている。もちろんやるべきことはやってから脱走している。がーー
「えらいね、今日は自分から帰ってくるなんて。後少し遅かったら、僕が探しに出ていたよ?」
愛する旦那に頭を撫でくりまわされながら、ルリは毎度のことながらに思う。
ウゼェ……と。
「グハッ!?!?」
何が起きたのか? 気づけばユーベルトは地面に臥していた。まるで服従のようなその格好に、ユーベルトの顔は羞恥で赤く染まる。
「トカゲ風情が!」
「ふむ、そのトカゲ風情の我は変化すらせず指一本でそなたを倒しておるが?」
かろうじて動く首を上げてみれば、人差し指を下に下ろした格好のルベリオスがいた。
「何故かと言いたげだな? 我は王だ。王の魔法に限界はない」
ユーベルトを睥睨する黒曜石のような瞳には、若干金が混ざっている。
尊大とも言えそうな態度なのに、ルベリオスにはそうするのが当たり前のような風格があった。
「ユーベルト様も王だよ」
隣から茶々を入れるようにルリが言うが、ルベリオスは興味なさげにユーベルトを眺めるだけだった。
「こんな者に我ら龍族が苦しめられていたとはな」
「まぁ、トリバコで番を縛られちゃ攻めようにも攻められないさ」
もしアイリーンが加護持ちでなければ、他人事ではなかったのかもしれない。アイリーンが自分以外にあの潤んだ視線をむけ、愛を囁くなど!
パッとルベリオスの目の前に赤が散った。
「がぁぁぁぁあ!?!?」
そこには、自慢の牙を抜かれ耳を切り裂かれた哀れな虎ーーユーベルトがいた。
「ふん、これ以上は我が国の法では禁止されていてな。法が無ければ今すぐにでも生き地獄を味わわせていた所だ。連れて行け」
音もなく現れた男達は、龍族の影達だ。
「ぐっ‼︎ こんなことが通ると思っているのか!?やめろ! 私は王だぞ!」
「ひぃぃぃぃ!!!!」
恥も外聞もなく喚き出したユーベルトを、いとも簡単に押さえ込み拘束する。全力の抵抗もまるで赤子をいなすかの様に扱われる。屈辱意外の何者でもない。しかも、一般の龍にすらも相手にされない。ユーベルトの中の何かがガラガラと崩れた音がした。ルンガは抵抗せず、されるがまま。
歴代の中で最強と謳われ、プライドの高いユーベルトには受け入れ難い現実。ガツンと重い衝撃が首に襲いかかる。そのまま、ユーベルトの意識は闇に飲み込まれた。
きっかり10秒後。ユーベルトとルンガの姿は消えていた。
「今回のことは礼を言う」
「いや、いいよ。しかし、リンがルベリオス様の番とはねぇ」
「ユーベルトとやらにはそれ相応の償いをしてもらう予定だ。それから、アイリーンが加護持ちだと言うことは内緒にしてくれ」
「あい分かった」
そう言いながら、ルリはホッとしたように息を吐く目の前の美しい男を、芸術鑑賞をする様にまじまじと眺め、鼻を鳴らした。
まぁ、かっこよさは負けてもウチのダンナは男前だからねぇ。
年齢的にはルベリオスの方が上だが、精神年齢の方は多分ルリの方が上だろう。ルリ的には、ルベリオスは可愛い甥だ。同盟国である龍族の国との行き来でよく、ルベリオスと会っていたのだ。
「早く迎えにいってあげな」
でないとそろそろ、ウチの旦那がキレそうだ。
「分かった」
そう言って去っていくルベリオスを見届けた後、ルリは後ろからくる衝撃に備えた。
「ルリ! 大丈夫かい? 変なことはされなかった?」
まさに羊族、と言ったような容貌の男性がルリを抱きしめている。
「私が変なことされるわけないだろう?」
「いーや、ルリは気づいていないんだよ。君は世界一魅力的だ!!!!」
柔和な見た目からは信じられないような執着心の持ち主であるルリの旦那。実はルリが調査と偽って街に出ているのも、この旦那の執着から逃れるためであった。
別に嫌いではないんだけどねぇ……
「ルリ、ほら部屋へ行こう? もうルリの仕事は終わらせたから」
鬱陶しいというか……
元王だったこの男は、下町にいるルリを見つけた瞬間攫って手篭めにした。そして、逃れられないよう自ら王座をルリに譲ったのだ。
当然、下町育ちのルリはその重さが分かるはずもなく、普通に逃げ出していた。当時は何度逃げ出したことか。
教育を施されるうちに、その重さがようやく理解でき、自分が逃れられない事を知った時、ルリは思わず旦那に飛び蹴り&張り手&鳩尾に10発をお見舞いしてしまった。
「ルリ、君は本当に可愛いよ」
だが、当時の荒々しい気性の持ち主だったルリがそれだけで許したって言うのは、ルリが絆されてしまった証拠だった。
絆されていなかったら、王であろうと旦那は今頃天国ーーいや、地獄にいるだろう。
しかし、絆されたと認めるのは、ルリの性格上それは何だか癪に触るので、街の治安調査という名の脱走は未だに続いている。もちろんやるべきことはやってから脱走している。がーー
「えらいね、今日は自分から帰ってくるなんて。後少し遅かったら、僕が探しに出ていたよ?」
愛する旦那に頭を撫でくりまわされながら、ルリは毎度のことながらに思う。
ウゼェ……と。
61
お気に入りに追加
3,743
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢シルベチカの献身
salt
恋愛
この物語は、気が付かなかった王太子と、ただひたすらに献身を捧げた公爵令嬢の物語。
王太子、ユリウス・アラウンド・ランフォールドは1年前、下級貴族の子爵令嬢に非道な行いをしたとして、悪役令嬢シルベチカ・ミオソティス・マスティアートに婚約破棄を言い渡し、国外追放の刑を受けた彼女を見送った。
1年後、新たな婚約者となった子爵令嬢の不調をきっかけに、王太子は真実を知る。
何も気が付かなかった王太子が
誰が被害者で、
誰が加害者で、
誰が犠牲者だったのかを知る話。
悲恋でメリバで切なくてしんどいだけ。
“誰も悪くない”からこそ“誰も救われない”
たったひとつ、決められた希望を求めた結果、救いがない物語。
かなり人を選ぶ話なので、色々と許せる方向け。
*なろう、pixivに掲載していたものを再掲載しています。
既に完結済みの作品です。
*10の編成からなる群像劇です。
1日に1視点公開予定です。
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました
hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。
そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。
「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。
王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。
ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。
チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。
きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。
※ざまぁの回には★印があります。
【完結】元悪役令嬢の劣化コピーは白銀の竜とひっそり静かに暮らしたい
豆田 ✿ 麦
恋愛
才色兼備の公爵令嬢は、幼き頃から王太子の婚約者。
才に溺れず、分け隔てなく、慈愛に満ちて臣民問わず慕われて。
奇抜に思える発想は公爵領のみならず、王国の経済を潤し民の生活を豊かにさせて。
―――今では押しも押されもせぬ王妃殿下。そんな王妃殿下を伯母にもつ私は、王妃殿下の模倣品(劣化コピー)。偉大な王妃殿下に倣えと、王太子の婚約者として日々切磋琢磨させられています。
ほら、本日もこのように……
「シャルロット・マクドゥエル公爵令嬢!身分を笠にきた所業の数々、もはや王太子たる私、エドワード・サザンランドの婚約者としてふさわしいものではない。今この時をもってこの婚約を破棄とする!」
……課題が与えられました。
■■■
本編全8話完結済み。番外編公開中。
乙女ゲームも悪役令嬢要素もちょっとだけ。花をそえる程度です。
小説家になろうにも掲載しています。
冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。
ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。
ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。
保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。
周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。
そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。
そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる