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本編
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「アイリーン、着いたぞ。ここがイマール国だ」
「わぁ!」
すごい!!!! ーーと一緒だ。あれ?
ガンッと物凄い頭痛が私を襲った。
「う……」
「アイリーン? どうした」
ユーベルト様が話しかけてくるが、返事をする余裕がない。それどころか、話しかけられれば話しかけられるほど、違う、私が好きな声はこの声じゃないと、私の中の私が叫んでいた。
私の前世の国名は……にっぽん……名前は……橘 凛。今世の名前は、アイリーンーーーー
パンッと私の中で何かが壊れた音がした。
「っ!?」
ドッとルベリオス様への恋心が戻ってくる。
「アイリーン。どうした」
クンと顎を持ち上げられる。ユーベルト様が見たこともない表情でこちらを見ていた。
探るような目は私に術とやらが効いていないのではと疑っているようだ。
「っ!」
「アイリーン?」
ギラリとユーベルト様の目が私の中を見透かすように不気味に輝いた。
タラリと冷や汗が流れる。
不味い。ここで記憶が戻ったことがバレればまた二の舞になる。
「い、いいえ。少し、疲れてしまったみたいです」
「そうか、ならば宿を取るから早めに寝るといい。私はルンガと一緒に行くところがあるからな」
「は、はい」
ユーベルト様に抱き寄せられる。ゾワリと鳥肌が立った。
「では、ここにいてくれ。間違っても外には出ないように」
一気に声のトーンが低くなるユーベルト様に震えを隠しながら私は頷いた。
「はい」
チュッと頬にキスをされる。
恐ろしさが勝って、ガクガクと膝が震えそうになる私だったがなんとか耐えた。ルンガを見れば、何かに気づいたようにハッと目を見開き、スッと顔を逸らした。
バレた?
だが、ルンガは何をするともなくユーベルト様と一緒に宿から出て行った。
「⁇」
ルンガは見逃してくれたのかな? ユーベルト様がいなくなって暫くしたら逃げよう。早く、逃げないと。ルベリオス様に会いたい。
「では、お部屋にご案内いたします」
「お願いします」
日本と一緒かなぁと思ったが、よくよくみれば少し違う。不思議な雰囲気の国だった。
「こちらでお休みください」
平家建てなのがありがたい。廊下がたくさんあり、そこかしこに宿泊用らしき建物が廊下の先にあった。
「では」
「ありがとうございました」
一礼して去っていく宿屋の主人の頭には、クルンと2本の角が生えている。ここの国の住人は羊族。温厚な民族で、犯罪も少なく、何より普通の種族にはあり得ない角が人間の姿の時にも存在するので人気なのだそう。
まずはどうやって逃げるかだ。
部屋から出て、歩いていた私の目に入ってきたのはお土産売り場。
「あの~、この被り物を買っても?」
「あぁ、はい。いいですよ。旅行に来た方はみんな買うんですよ」
見つけたのは何と、羊族の角に似せた被り物。その横には漆黒のカツラがあった。
「これは?」
「ほら、私たちの髪は黒でしょう? ですから、それも真似たいという方がいて、販売しております。あ、そうだ。お客様、こちらはいかがでしょう?」
「わぁ!」
黒髪のカツラに2本のツノが生えている。
「ちょっとお高いですが……」
「いいえ。これでお願いします。あの、お金を持っていなくて、代わりにこれでもいいですか?」
ダメかなぁ。ダメなら後からくるユーベルト様に払ってもらおう!
私が取り出したのは、首にかけていたネックレス。そこそこの値段がすると思う。
「うーん、いいですけどこのカツラではこのネックレスと釣り合いませんよ」
「え?」
買い叩かれると思っていたら、旅館の人はその逆を言ってきた。
「流石の私でも分かります。値段は分からないですが……」
「あの、いいんです。このカツラが買えたら」
「いえ、ですが」
「お願いします」
「……そこまで言うんでしたら、こちらの服もお買いになられてはいかがでしょう?」
そうだ。この服もバレる。
「ええ!」
「踊り子風と、民族風。どちらにしますか?」
踊り子風……どこにいってもセクシーな服はあるのね。
若干苦笑いになったけど、出来るだけ肌を見せない民族風の服にしてもらった。チラリと男物の服を見ると、ゆったりしていて着心地が良さそうーー
「あ!」
男装したらもっとバレないのでは?
唐突に閃いたアイデアに、私はそちらに変更する事にした。
「あの、男性用のってありますか?」
「ええ? ありますが」
「せっかくなので男性用もいいかなと」
「まぁ、ふふふ、面白い方ですね」
快く変えてくださった旅館の方には感謝しかない。
「なかなか様になってますよ」
「そうですか?」
「ええ」
用意された鏡には、肌はこちらの人々とは違うけれど、青年? が映っていた。懐かしい黒髪にちょっとホッとする。
あ! ルベリオス様ともお揃いだ。
「あら?」
ポンっと顔が真っ赤になった私を不思議そうに見つめる旅館の人にお礼を言ってそそくさと旅館を出た。
ズボンなんて久しぶりに履いたけど、新鮮だし動きやすいしとても楽しい。思わずスキップしてしまう。
まずは逃亡資金を用意しないとなぁ……
慣れない格好をしているせいか、周囲の視線がこちらに向いているように感じて落ち着かなかった。
「わぁ!」
すごい!!!! ーーと一緒だ。あれ?
ガンッと物凄い頭痛が私を襲った。
「う……」
「アイリーン? どうした」
ユーベルト様が話しかけてくるが、返事をする余裕がない。それどころか、話しかけられれば話しかけられるほど、違う、私が好きな声はこの声じゃないと、私の中の私が叫んでいた。
私の前世の国名は……にっぽん……名前は……橘 凛。今世の名前は、アイリーンーーーー
パンッと私の中で何かが壊れた音がした。
「っ!?」
ドッとルベリオス様への恋心が戻ってくる。
「アイリーン。どうした」
クンと顎を持ち上げられる。ユーベルト様が見たこともない表情でこちらを見ていた。
探るような目は私に術とやらが効いていないのではと疑っているようだ。
「っ!」
「アイリーン?」
ギラリとユーベルト様の目が私の中を見透かすように不気味に輝いた。
タラリと冷や汗が流れる。
不味い。ここで記憶が戻ったことがバレればまた二の舞になる。
「い、いいえ。少し、疲れてしまったみたいです」
「そうか、ならば宿を取るから早めに寝るといい。私はルンガと一緒に行くところがあるからな」
「は、はい」
ユーベルト様に抱き寄せられる。ゾワリと鳥肌が立った。
「では、ここにいてくれ。間違っても外には出ないように」
一気に声のトーンが低くなるユーベルト様に震えを隠しながら私は頷いた。
「はい」
チュッと頬にキスをされる。
恐ろしさが勝って、ガクガクと膝が震えそうになる私だったがなんとか耐えた。ルンガを見れば、何かに気づいたようにハッと目を見開き、スッと顔を逸らした。
バレた?
だが、ルンガは何をするともなくユーベルト様と一緒に宿から出て行った。
「⁇」
ルンガは見逃してくれたのかな? ユーベルト様がいなくなって暫くしたら逃げよう。早く、逃げないと。ルベリオス様に会いたい。
「では、お部屋にご案内いたします」
「お願いします」
日本と一緒かなぁと思ったが、よくよくみれば少し違う。不思議な雰囲気の国だった。
「こちらでお休みください」
平家建てなのがありがたい。廊下がたくさんあり、そこかしこに宿泊用らしき建物が廊下の先にあった。
「では」
「ありがとうございました」
一礼して去っていく宿屋の主人の頭には、クルンと2本の角が生えている。ここの国の住人は羊族。温厚な民族で、犯罪も少なく、何より普通の種族にはあり得ない角が人間の姿の時にも存在するので人気なのだそう。
まずはどうやって逃げるかだ。
部屋から出て、歩いていた私の目に入ってきたのはお土産売り場。
「あの~、この被り物を買っても?」
「あぁ、はい。いいですよ。旅行に来た方はみんな買うんですよ」
見つけたのは何と、羊族の角に似せた被り物。その横には漆黒のカツラがあった。
「これは?」
「ほら、私たちの髪は黒でしょう? ですから、それも真似たいという方がいて、販売しております。あ、そうだ。お客様、こちらはいかがでしょう?」
「わぁ!」
黒髪のカツラに2本のツノが生えている。
「ちょっとお高いですが……」
「いいえ。これでお願いします。あの、お金を持っていなくて、代わりにこれでもいいですか?」
ダメかなぁ。ダメなら後からくるユーベルト様に払ってもらおう!
私が取り出したのは、首にかけていたネックレス。そこそこの値段がすると思う。
「うーん、いいですけどこのカツラではこのネックレスと釣り合いませんよ」
「え?」
買い叩かれると思っていたら、旅館の人はその逆を言ってきた。
「流石の私でも分かります。値段は分からないですが……」
「あの、いいんです。このカツラが買えたら」
「いえ、ですが」
「お願いします」
「……そこまで言うんでしたら、こちらの服もお買いになられてはいかがでしょう?」
そうだ。この服もバレる。
「ええ!」
「踊り子風と、民族風。どちらにしますか?」
踊り子風……どこにいってもセクシーな服はあるのね。
若干苦笑いになったけど、出来るだけ肌を見せない民族風の服にしてもらった。チラリと男物の服を見ると、ゆったりしていて着心地が良さそうーー
「あ!」
男装したらもっとバレないのでは?
唐突に閃いたアイデアに、私はそちらに変更する事にした。
「あの、男性用のってありますか?」
「ええ? ありますが」
「せっかくなので男性用もいいかなと」
「まぁ、ふふふ、面白い方ですね」
快く変えてくださった旅館の方には感謝しかない。
「なかなか様になってますよ」
「そうですか?」
「ええ」
用意された鏡には、肌はこちらの人々とは違うけれど、青年? が映っていた。懐かしい黒髪にちょっとホッとする。
あ! ルベリオス様ともお揃いだ。
「あら?」
ポンっと顔が真っ赤になった私を不思議そうに見つめる旅館の人にお礼を言ってそそくさと旅館を出た。
ズボンなんて久しぶりに履いたけど、新鮮だし動きやすいしとても楽しい。思わずスキップしてしまう。
まずは逃亡資金を用意しないとなぁ……
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