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本編

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「アイリーン」

 目を開けると、見知らぬ人がいた。

 ーー誰だろう? 

 そう思っていたら段々と記憶が弾けるように戻ってきた。

 そうだ。この人は私の愛しい人。白銀の髪に、真っ赤な瞳。とっても美しくかっこいい人。

「ーーーー?」

 でも、何故か名前が出てこない。

「あぁ、まだ術が効いていないか。アイリーン、ほら、私の名前はユーベルトだ。呼んでみろ」

「ゆーべると様」

「いい子だ」

 抱きしめられて、私も抱きしめようとするがどうしてか動かなかった。

「あの???」

「あぁ、少し待て。今外してやる」

「ありがとうございます」

 どうやら拘束されていたらしい。何故だろう? と思ったけれど、目の前には優しく微笑む愛しい人・・・・・・がいる。だから、いいや。と思い直した。

 ワタシノスベテハ、ユーベルトサマダカラ。

「ふむ、従順なのもまた可愛らしいな」

「ユーベルト様?」

 ボソリと呟かれた言葉が聞き取れなくて、顔を仰いだらそっと目を塞がれた。

 あれ? こんなこと前もあったような……

「アイリーン、先程の言葉は気にしなくていい。私だけを見ろ。分かったか」

「……はい!」

 でも、ユーベルト様は気にしないでいいと言ったから気にしない。何故か、気にしないといけない気がしたけど、靄がかかったみたいに私の思考をナニカが阻害していた。

「ユーベルト様、どこへ向かっているんですか?」

「あぁ、私の国だ」

 あれ? ユーベルト様って飛べたよね?

「何故飛んでいかないの?」

「たまには観光もいいかと思ってな。遠くなるが回り道をして帰る予定だ」

 私はほとんど他国に行ったことがないからワクワクした。でも、ユーベルト様ってこんな髪の色だっけ? もっと、黒……ア、チガウ、コノイロダッタ。

「今はどの国に行く予定なの?」

「イマール王国だ」

 イマール王国と言えば、金の取れる国で世界有数の金の産出国だ。黄金の国とも呼ばれていたはず。

「楽しみです!」

 素晴らしい建築物もあると聞いているので、心が弾んだ。

「そうか」

「はい!」

 クルリとユーベルト様の大きな腕が私の腰に回される。

 なんだろう? と思って顔をみれば、にっこりと微笑んでいるユーベルト様がいた。

「アイリーン」

「はい?」

 スッとその綺麗な顔が近づいてきて、あ、キスされるんだ。思った瞬間、私の手は勝手に動いていた。

「イヤッ」

「なっ!?」

 ドンっと強くユーベルト様の胸を押して拒否してしまう。

 何で? 愛しい人なんだから、拒んじゃいけないのに。

「……あ、あぁ。何で? ユーベルト様、申し訳ありません」

「……急だったか。気にするな。じっとしていろ・・・・・・・

 再び私を抱き寄せたユーベルト様は、今度は唇ではなくうなじにキスを落とした。

「んっ」

 くすぐったくて、ゾワゾワ・・・・したけれど、それは我慢・・・できた。チクリと一瞬痛みが走ったが、じっと動かずユーベルト様の気がすむまで座っておく。

 でも、段々恥ずかしくなってきて顔に血が上った。

「ゆ、ユーベルト様?」

「なんだ」

「恥ずかしいです」

 私の言葉に埋めた顔を上げたユーベルト様は、目を見開いた。

 そんなにひどい顔だったのだろうか?

「っ!」

 途端に羞恥心が増加した私は、ユーベルト様にその顔を見られたくなくてユーベルト様の胸に顔を埋めた。

 ふわりといい匂いがする。この香りじゃない。何故かそう思った瞬間、私は猛烈な眠気に誘われた。そのままゆっくり目を閉じる。

「なんだ? もう寝たのか。まだ術に抵抗するのか。こんなに浸透が遅いのは聞いたことないが……まぁ、いい」

 じゅつってなに?

 サラリと私の髪を撫でるユーベルト様の大きな手を感じながら私の意識は沈んでいった。
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