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本編

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 頭がいたい。ガンガンする。心なしか揺れもあるような……

「ん……⁇」

 真っ先に入って来たのは、最近トラウマになった顔。

「ゆ、ユーベルトさま?」

「もう目を覚ましたか。久しぶりだな」

 え、待って? ちょっと待って? 何で? 私、ちゃんと逃げたよね? 

「くくく、驚いたか?」

 ユーベルト様の楽しそうな笑い声。私は全然楽しくない。

「なんでっ!」

 身をよじろうとするけど、手足が拘束されていて、動けなかった。

「私の妃が他の男と浮気するのを許せると思うか?」

 ーーえ?

「お前は後宮に入った時点で私の妻だ。名をまだ聞いてなかったな。名を教えろ」

 妃じゃないし、名前なんて教えたくもない。

「だ、誰が教えるもんですか!」

 ガタゴトと動く振動から馬車に乗せられているのは大体わかった。でも、虎族は飛べたはず。何で、すぐに国に連れて帰らないんだろう?

「早く名を教えろ」

 どうして、ユーベルト様はそんなにも私の名前を聞きたがる?

 教えちゃダメだ。直感でそう感じた。

「ーー残念だ。お前の口から聞きたかったのだがな」

「ーーーー?」

 そう言うと、ユーベルト様は何か箱のようなモノを取り出した。

「実は、お前の名前はコイツから聞いていた。アイリーン、それがお前の名前だな?」

「……」

 何で知ってるの。疑問に思いながら、ユーベルト様が視線をやった先に頭を動かしてみれば、そこには見慣れた人物がいた。

「ーーーーえ? おじ様?」

「おじ様とはまたたいそうなあだ名を頂きましたな。昨日ぶりですかな? アイリーン様」

 人の良い笑みを浮かべた、恰幅のいいの男性。

 それは紛れもなく、生地選びでお世話になった商人だった。

「何で?」

「ああ、コイツは虎族の者だ。金があればすぐ動く」

「ユーベルト様、そのような下品な言い方はやめてください。わたくしめは虎族の王たるユーベルト様にしか忠誠を違っておりません。ですから、このような顧客情報を売るのだって今回が初めてですぞ」

 フードを脱いだおじ様の髪は白銀だった。私が白髪だと思っていたのは光の錯覚。でも、1つ腑に落ちないことがある。

「目の色……」

 それに、虎族ならルベリオス様が見逃すはずがない。虎族には独特の臭いがあると言っていたから。

 どうして? どういうこと⁇

「ルンガ、説明してやれ」

「……企業秘密ですのに」

「構わん、アイリーンはすぐに私のモノとなるからな」

「っ………」

 なるわけないじゃない! とは思ったけど、ここで話の腰を折ってしまえば先に進まないと思って私は黙ってルンガと呼ばれたおじ様を見た。

「む、まぁ、そうですな。まず、大前提としてわたくしめは虎族と龍族の混血です」

「え?」

「歴代の王達が龍族の番を妃にしてきたのは知っておられるか? 大体は龍の特性は現れず、虎だけなのです。が、稀に龍と虎の因子を併せ持った者が産まれる……」

「ルンガがそれだ」

 つまり、このルンガと呼ばれたおじ様は虎族の王族ってこと?

「そして、臭いですがそれは手持ちの臭い消しで消しております。特製なので売ってませんがの」

 時には龍族の方でも商売するのでな。そう、おじ様はなんてことない事のように笑った。

 ゾッとした。

「さて、アイリーン。満足したか? そろそろトカゲを忘れてもらうぞ・・・・・・・・

「何を!?」

 おもむろに小さな箱を取り出したユーベルト様。

「本来なら国で行うのだが、またあのトカゲが来たら邪魔だからな」

 ガンガンと頭の中で鳴る警鐘。あの箱は危険だと、叫んでいる。

「や、やめて! 何をしようと!」

「何とは? 正式な妃となるための儀式だよ。かわいそうに、お前がただ無反応な人形のような女だったなら私は見逃してやろうと思ったのだがな」

 は?

「だが、私はお前が欲しくなってしまった・・・・・・・・・・

  スルリと頬を撫でられて微笑まれる。ただ、それだけなのにゾワリと悪寒が全身を駆け抜けた。

「最後に教えてやろう。これは対象の名を使って魂を縛る物だ。名で縛られた者は術者に逆らえなくなる。アイリーン、お前が完全に・・・私のものになるのはあと少しだ」

「そ、そんなの人形と一緒じゃない!」

 魂を縛るなんて冗談じゃない。だけど、ユーベルト様は根本から違った。私の言葉に意味がわからないと言うふうに首を傾げたのだ。

「おかしなことを言う。私の言葉だけを聞き、私の為に存在する。それがどうして私のモノじゃないと言えるのか? 私のモノだろう?」

 縛られたまま動けない私の顎を掴み上げニタリと嗤うユーベルト様。この人、頭がおかしい。絶対ネジ1本どころか100本ぐらい抜けてる。

「ひっ……」

 チガウ。この人は、私とはチガウ。

「こ、心がないじゃない!」

「ん? 心? それは大丈夫だ。不本意だが、今、お前はトカゲを愛しているだろう? 魂を縛ればその愛は私へとすり替わる。そのような術だ」

 私の恋心がなくなるの?

 ルベリオス様に感じるあの温もりが? 

「無くなるわけないじゃない」

 私の心が誰かに操られるなんて許せるわけがない。そう思ったら、反射的にユーベルト様を睨みつけていた。

「ああ、いいな。その目」

 捻じ伏せたくなる。チロリと唇を舐めるユーベルト様の顔は歪な笑みを浮かべていた。

「~~~~っ!」

「なら、術で本当に心が変わるのか試してみるといい」

 ルベリオス様!!!!

 伸ばされる手に視界を覆われながら、最後に浮かんだ言葉はやっぱり愛する人の名前だった。
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