33 / 52
本編
20
しおりを挟む
カタンッ
深夜2時ぐらいだろうか。屋敷全体が寝静まった頃、数人の人影が滑るように建物の中へ入り込んでいった。
『この先を真っ直ぐです』
『そうか、行くぞ』
『『『『はっ』』』』
1人の男の掛け声と共に、侵入者達は走り出す。まるで狩りをする虎のように物音一つ立てない。
『ここか』
ゆっくりと開けられた扉の奥。月明かりに照らされながらグッスリと眠る人物をみて、男の目が細められる。
『途中で目覚められては困るからな』
そういうと、懐から取り出した布でベッドで眠る人物の口もとを覆った。そして、布団でより深い眠りへと入った人物を包んで持ち上げる。
『よしいくぞ』
そうして、来た時と同じように静かに去っていった。
○○○
翌朝、いつものごとくアイリーンを起こしに来たルベリオスは空になったベットを見て、顔を歪めた。
よほど急いでいたのだろう。強い睡眠薬の残り香と、嗅ぎ覚えのある臭いがしたからだ。
「おのれ……忠告してやったのだがな」
そう呟くと、ルベリオスは窓から飛び出していた。
虎族がちょっかいをかけてくるのは知っていたが、アイリーンを危険に晒すつもりはなかった。
ルベリオスには、誰が来てもアイリーンを守る自信があった。しかし、優れていたはずのルベリオスの防御をすり抜けた。虎はそれの上を行ったのだ。
認めたくはないが、この時たしかにルベリオスは虎族に敗北した。己の慢心が招いた事態。
「すまぬ、アイリーン」
一言、そう呟くとルベリオスは龍の姿になって空へと昇った。自分の國に戻り、今度こそ虎族を完膚なきまで叩きのめし、大事な大事な番を取り戻すために。
○○○
「番が攫われた」
番探しのために一時留守にしていた王が、怒り狂って帰って来たのはつい先程。
「もう、番を見つけられたのですか?」
「あぁ、やはり人族だった」
受け答えはしっかりしてくれているものの、今すぐにでも暴走しそうなほど膨張した魔力に、周囲の者達は恐れ慄いた。
「虎ですか」
「そうだ。どうやったのか、うまく我の張っていた魔法をすり抜けおった」
ゴオッと周囲にあった家具やらが竜巻のように舞い上がる。ルベリオスは我慢していた。1度目は。
「探索が得意な者を集めるのだ」
静かに命を下すルベリオスに、サッと数名の部下達が集まる。
未来の妃を取られてはたまらない。龍族全員の想いは、それが1番大きかった。王は、國の象徴であり国力を見せつけるためのもの。それになるまでに、どれだけ争いが起こったか。龍は今は虎族に平和バカと言われているが、実際は違う。
個々の力は凄まじく、集団で戦えば大陸さえも破壊する。過去に一度、その過ちが起きてしまったことがあった。それ以来、王族が統率を図ってきたのだ。
いわば、虎族は龍族の王によって助けられて来たも同然。知らなかったとはいえ、ストッパーに手をかけそれを壊した。
王は強い。普通の龍達でさえ小さな国なら壊滅させることができる。王はそんな龍達が何匹集まっても太刀打ちできない強さを持っている。
「そなたらは虎族の国へ向かえ。我は伝を辿って探す」
そういうと、ルベリオスは空へと飛び立ったのだった。
深夜2時ぐらいだろうか。屋敷全体が寝静まった頃、数人の人影が滑るように建物の中へ入り込んでいった。
『この先を真っ直ぐです』
『そうか、行くぞ』
『『『『はっ』』』』
1人の男の掛け声と共に、侵入者達は走り出す。まるで狩りをする虎のように物音一つ立てない。
『ここか』
ゆっくりと開けられた扉の奥。月明かりに照らされながらグッスリと眠る人物をみて、男の目が細められる。
『途中で目覚められては困るからな』
そういうと、懐から取り出した布でベッドで眠る人物の口もとを覆った。そして、布団でより深い眠りへと入った人物を包んで持ち上げる。
『よしいくぞ』
そうして、来た時と同じように静かに去っていった。
○○○
翌朝、いつものごとくアイリーンを起こしに来たルベリオスは空になったベットを見て、顔を歪めた。
よほど急いでいたのだろう。強い睡眠薬の残り香と、嗅ぎ覚えのある臭いがしたからだ。
「おのれ……忠告してやったのだがな」
そう呟くと、ルベリオスは窓から飛び出していた。
虎族がちょっかいをかけてくるのは知っていたが、アイリーンを危険に晒すつもりはなかった。
ルベリオスには、誰が来てもアイリーンを守る自信があった。しかし、優れていたはずのルベリオスの防御をすり抜けた。虎はそれの上を行ったのだ。
認めたくはないが、この時たしかにルベリオスは虎族に敗北した。己の慢心が招いた事態。
「すまぬ、アイリーン」
一言、そう呟くとルベリオスは龍の姿になって空へと昇った。自分の國に戻り、今度こそ虎族を完膚なきまで叩きのめし、大事な大事な番を取り戻すために。
○○○
「番が攫われた」
番探しのために一時留守にしていた王が、怒り狂って帰って来たのはつい先程。
「もう、番を見つけられたのですか?」
「あぁ、やはり人族だった」
受け答えはしっかりしてくれているものの、今すぐにでも暴走しそうなほど膨張した魔力に、周囲の者達は恐れ慄いた。
「虎ですか」
「そうだ。どうやったのか、うまく我の張っていた魔法をすり抜けおった」
ゴオッと周囲にあった家具やらが竜巻のように舞い上がる。ルベリオスは我慢していた。1度目は。
「探索が得意な者を集めるのだ」
静かに命を下すルベリオスに、サッと数名の部下達が集まる。
未来の妃を取られてはたまらない。龍族全員の想いは、それが1番大きかった。王は、國の象徴であり国力を見せつけるためのもの。それになるまでに、どれだけ争いが起こったか。龍は今は虎族に平和バカと言われているが、実際は違う。
個々の力は凄まじく、集団で戦えば大陸さえも破壊する。過去に一度、その過ちが起きてしまったことがあった。それ以来、王族が統率を図ってきたのだ。
いわば、虎族は龍族の王によって助けられて来たも同然。知らなかったとはいえ、ストッパーに手をかけそれを壊した。
王は強い。普通の龍達でさえ小さな国なら壊滅させることができる。王はそんな龍達が何匹集まっても太刀打ちできない強さを持っている。
「そなたらは虎族の国へ向かえ。我は伝を辿って探す」
そういうと、ルベリオスは空へと飛び立ったのだった。
39
お気に入りに追加
3,737
あなたにおすすめの小説
二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです
矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。
それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。
本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。
しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。
『シャロンと申します、お姉様』
彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。
家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。
『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
これ以上、傷つくのは嫌だから……。
けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。
――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。
◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _)
※感想欄のネタバレ配慮はありません。
※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
【完結】あの子の代わり
野村にれ
恋愛
突然、しばらく会っていなかった従姉妹の婚約者と、
婚約するように言われたベルアンジュ・ソアリ。
ソアリ伯爵家は持病を持つ妹・キャリーヌを中心に回っている。
18歳のベルアンジュに婚約者がいないのも、
キャリーヌにいないからという理由だったが、
今回は両親も断ることが出来なかった。
この婚約でベルアンジュの人生は回り始める。
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
壁の花令嬢の最高の結婚
晴 菜葉
恋愛
壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。
社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。
ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。
アメリアは自棄になって家出を決行する。
行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。
そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。
助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。
乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。
「俺が出来ることなら何だってする」
そこでアメリアは考える。
暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。
「では、私と契約結婚してください」
R18には※をしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる