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本編

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「なに? まだアイリーンが帰ってこぬと?」

「はい、いつもならお帰りになっている時間なのですが……」

 不安そうに言うアイリーンの屋敷の者達は、アイリーンが好きなのだろう。それは敬愛のようなものに思える。ここに来た当初は、アイリーンが自分のものではなくて嫌だったが、触れ合ってみるとアイリーンには彼らが必要なのだと分かるようになった。

「ふむ、我が探してこよう」

 またあの美しい姿が見れるかもしれない、ルベリオスはそんなことを思いながら森のプールへと向かった。

 その時はすっかり忘れていたのだ。
 
 代々、龍族の番に忌わしいモノがついてくると言うことを。

 アイリーンを、最初に見た時はどこかの天使が水浴びのために下界に降りてきたのかと思った。木漏れ日にキラキラと反射する美しい金髪と、龍族でも滅多にお目にかかれないような整った造形の顔立ち。

 すいっと静かに水の中に潜った彼女に見惚れた自分がいた。

 しばらくして、いつまでも上がってこない彼女に慌てたのは恥ずかしかった。潜っていただけだと聞かされた時のあの気持ちは一生涯忘れられないだろう。

「美しかったなぁ」

 そんなアイリーンも、過去にトラウマを持っていたらしい。以前は太っていたと聞かされ、驚いた。だが、あのアイリーンが太っていたとしても自分は多分彼女に見惚れていただろう。丸々とした彼女も可愛らしいに違いない。だが、それを言うと多分怒ると思ったので言わなかった。

「全く、泳ぐのが好きと言っても限度が……」

 過去を回想しながらだどりついたプールを見て、ルベリオスは絶句する。

 なにもなかったのだ・・・・・・・・・

 アイリーンが泳いだ形跡も、歩いてここに来たであろう足跡も何も。ふと、思い出したのは父から聞かされた言葉。

『虎族というのは厄介で、番を攫っていく。しかも、形跡は残さない。一切な』

 彼らは龍族とは違い、代替わりが激しい。虎族のせいで番を失い奪い返しにいった若い龍族達が死んだという過去は何件もある。

 我の番をっ!!!!!?

 アイリーンは高いところが怖いと言っていた。虎族の土地があるのは龍族と同じく山に囲まれた谷。そこに行くには飛ばなければならない。

 さぞ、怖かっただろう。

 まして、自分以外の雄がアイリーンに触れたとするなら……

「っ!!!」

 ルベリオスの顔が怒りで歪んだ。

 人族だから大丈夫だと油断した!!!!

「すまぬ、我の番という事でアイリーンが攫われた」

「え⁉︎」

 飛ぶような速さで屋敷に戻り、ルベリオスはそう使用人達に告げると後は脇目も振らずに空へ飛び立った。

 虎族め!!!!

 ただただ、アイリーンが辛い思いをしていないか。ルベリオスの頭の中はそれだけしか占めていなかった。ルベリオスは龍國の王だ。父は争いを好まなかった。その結果、争いを避ける龍族達は、虎族に仲間が殺されても威嚇する程度で終わっていた。

 話せば分かる。それが父の口癖だった。だが、虎族達は謝罪には来るものの、いつも事故として扱っていた。番も不思議なことに虎族の言葉に言い返さなかった。だから、手が出せなかった。

 だが、我は許さぬ!!!!

 龍に変化したルベリオスは光のような速さで虎族の国へ向かう。

 ~龍族の王の逆鱗に触れたモノは何人たりとも生きては帰れない~

 これは人族に伝わる言い伝え。それは果たして虎族にも当てはまるのだろうか?
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