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本編

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 月明かりに、乱れた服とはらはらと涙を零す人族の女が照らされている。

 透けるような肌と、金色の髪の美しいコントラストにより、一層目の前にいる女が神秘的に見えた。

 泣いている。

 それが強く脳裏に刻まれた。

 ポタポタと滴るのは己の血。目を引っ掻く女など聞いたこともない。普通なら失明するはずだが、王である自分は治癒力が強い。明日には治っているだろうなと、冷静に考える自分がいた。

「はぁ、しまったな」

 美しい容姿をしているのに、お淑やかとは無縁で、加えて攻撃的。まるで中身は虎族の子供だ。

 そのくせ、高いところは苦手と来た。抱き上げていた手を離した瞬間のあの女の顔といったら、

「くくくっ」

 まるで、この世の地獄に遭遇したかのような酷い顔をしていた。今はどこかに身を潜めて息を殺しているのだろう。酒は抜けたようだが、完全ではないはずだ。

 あの女は聡い。虎族には敵わない事は、捕まえた時に悟っただろう。近くに身を隠してこっそり逃げようとでも思っているのかもしれない。

「追いかけっこは嫌いじゃない」

 最初は戦利品だったが、なかなかいい性格。

「……惚れたというのはあながち間違いではないかもしれないな」

 いっそう、あの女の名前が知りたくなった。

 虎族の王が龍族の番を奪っても無事だったのは、唯一の弱点である番を縛る術があったからだ。あんな首輪のようなものではない。魂を縛る術。

 ユーベルトは、そこまでしなくても龍に勝てる自信があった。が、

「勝ったとしても、万が一自害されると困る」

 今は、あの女が欲しくてたまらなくなっていた。

 あの女の様子を見るに、相当トカゲを愛している様子。

 ならばその恋心ごと縛れば良い。

 龍族の番を縛る術。

 それに必要なのは、ただ1つ。あの女の名だ。アレさえ分かれば、既に縛ったも同然となる。

「あぁ、大人しくしといた方がよかったのになぁ? 私は、一度気に入ったものは手に入れるし、誰にも渡さないぞ?」

 まだ近くにいるであろう女に、聞こえているといいなと思いながら呟く。

 恐れ、慄き、私に夢中になればいい。

「今日は、休ませてやる。明日だ」

 不穏な笑みを浮かべたユーベルトはそう呟き、部屋を後にした。片方だけ瞑った目からはまだ止まらない血が流れていた。








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