上 下
18 / 52
本編

9

しおりを挟む
「お帰りなさいませ。ユーベルト様」

「あぁ、今帰った。コイツはトカゲの番だ。私の後宮に入れるから部屋を用意しろ。それから、今夜の宴で披露するから衣装もな」

「まぁ、そうですか。分かりました」

 え? え? え? え?

 後宮? 何言ってんの?

「……嫌ですよ?」

 あんなカッコいい龍族の方をトカゲとか言う時点で苦手だったのに、まるで物のような扱いも嫌になる。

「こちらに」

「嫌ですって!」

 伸ばされた腕を振り切ろうとすると、途端に身体が動かなくなった。

「コイツは少しジャジャ馬だからな。しょうがない、私が連れて行こう」

「まぁ! ユーベルト様のお手を煩わせるなんて! 申し訳ありません!」

「くくく、いや、いい。面白いからな」

 違う、動かなくなったんじゃなくて、怖くて動けなかったんだ。ヒョイッとまたもや俵担ぎにされた私は、高くなった視線に恐れをなして全身が硬直。もはやハニワ同然でされるがまま部屋へと連れて行かれてしまった。

「は、離して、あ、歩きますから。お願いですから、怖いの。お願い」

「ふ、ならば大人しくする事だな。もし、逃げようとするなら風呂も一緒に入ってやる」

 やーーめーーろーー! 変態め!!!!

「このっ!!!!」

 2人きりになって地面に下ろされた瞬間、私のビンタが神様の頬に炸裂した。脊髄反射だ。しょうがない。

 べチンッと微妙な音が神様の頬と私の掌の間から鳴る。

「……は? 私を叩いたのか?」

 そーよ! 乙女をあんなにからかって、怖がってるのに!!!! 

「叩いたのがいけないの? 誘拐されたのよ私」

「言っておくが、私はこの国の王だぞ?」

「それが何よ」

「虎族だ」

「ふーん」

 ルベリオス様の方がかっこいいし、優しいし、男前だもんね。尊敬するなら絶対ルベリオス様だ!!!!

「お前、龍族のことを考えているな?」

「私は物なんでしょう? 物の考えている事なんて知る必要ないし、取るに足らないんじゃないの?」

 正直に言おう。この時の私の気分は最悪だった。そりゃあもう、床ドンを連発するうさぎ如き不機嫌さだったのだ。相手が龍族同等、敬うべき種族でそれに加え王であることなど全く頭の隅に追いやられていたのである。

「……私にそのような口をきくとは。さすがは龍族の番だ。だが、それを屈服させてこそ面白いというものだ。まぁ、いい。宴で会おう」

「誰が!」

 そう言い返した時点で、不味かったのだと思う。

 ユーベルト様が出ていった後に、入ってきた女官? らしき人々に丸ごと洗われて、どこぞの踊り子がきそうなちょっと透けた衣装を着させられた。首には逃亡防止らしき紐が通されている。

「貴女様はユーベルト様の最初に後宮入りをなさる方です。しっかりとお勤めを果たしますよう」

 そう言って有無も言わせず、私は宴へと連れて行かれた。逃亡? しようと思ったよ。でもね、女官の方々にことごとく止められた。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

結婚した次の日に同盟国の人質にされました!

だるま 
恋愛
公爵令嬢のジル・フォン・シュタウフェンベルクは自国の大公と結婚式を上げ、正妃として迎えられる。 しかしその結婚は罠で、式の次の日に同盟国に人質として差し出される事になってしまった。 ジルを追い払った後、女遊びを楽しむ大公の様子を伝え聞き、屈辱に耐える彼女の身にさらなる災厄が降りかかる。 同盟国ブラウベルクが、大公との離縁と、サイコパス気味のブラウベルク皇子との再婚を求めてきたのだ。 ジルは拒絶しつつも、彼がただの性格地雷ではないと気づき、交流を深めていく。 小説家になろう実績 2019/3/17 異世界恋愛 日間ランキング6位になりました。 2019/3/17 総合     日間ランキング26位になりました。皆様本当にありがとうございます。 本作の無断転載・加工は固く禁じております。 Reproduction is prohibited. 禁止私自轉載、加工 복제 금지.

私、女王にならなくてもいいの?

gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

処理中です...