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本編
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部屋の外が騒がしい。
ローンは先程捕まえた貴族令嬢とよろしくやろうとしていた最中に、部屋の中まで聞こえて来る人の声に眉を顰めていた。
「ローン様、どうしたのでしょうか?」
「え? あぁ、なんだろうね? 私も分からないが、多分大したことではないと思うよ。それよりも……」
「いえ、でも……」
部屋の外が気になって、逢瀬に気もそぞろになってしまった貴族令嬢は、ローンの腕の中でもがいた。
ちっ、ダメか。
「一度確認して来るよ」
「私も行きますわ」
結局、お楽しみは台無しになってしまった。ローンは、そのことに機嫌を悪くしていたが表には出さない。感じ良く見えるよう、微笑みを浮かべ令嬢を部屋の外へと連れだした。
全く、大きな催しはないと聞いていたのに……
悪態を吐きながら、会場へ続く扉をくぐると何故か1箇所に人だかりができていた。そのほとんどは男性貴族で、熱心に誰かに話しかけているようだ。そして、女性も。
「おい、何があった」
「ん? あぁ、さっきめちゃくちゃ綺麗な女が夜会に来たんだよ。見たことない女だし、どこの貴族令嬢かってみんな、よってたかって聞いてるんだ。あわよくばってね。俺も今から行く予定!」
近くにいた友人はそう言うと、例の女がいると言う人だかりへと向かっていった。
「私も気になりますわ」
「あぁ、そうだね。私たちもーー」
"行ってみようか"そう言いかけた時、人だかりがローンの方向に割れた。何故か、男性から恨めしそうな視線がローンに送られてきているように感じる。
「⁇」
困惑したのは一瞬。
人だかりから現れたのは、息を呑むほど美しい女だった。ローンは庭の貴族達と同様に、女の容姿と体つきに見惚れる。
「ローン様」
「ーーなんでしょう?」
鈴を転がしたような愛らしく、美しい声にローンは聴き惚れる。
あの豚とは大違いだ。俺もこんな婚約者が欲しかった。
そんな事を思いながら、ローンはゆっくりと歩み寄って来る女を眺めていた。だが、次の瞬間ローンはピンチに立たされる事になる。
「お約束、覚えていますか?」
「なんのですか?」
「婚約を破棄すると言う約束ですよ」
「は?」
何を言ってるんだと、ローンを含めた他に集まっていた貴族達もポカンと美女を見た。
「失礼ですが、別の方と間違われているのでは? 私にはアイリーンという婚約者がいます」
「ええ、そうですわよ」
何を当たり前のことを、と言いたげな女にますますローンは頭を抱えた。
どう言うことだ? もしや、この女は頭がおかしいのか? 俺に惚れた?
確かに、ローンは顔が整っていた。そのため、言いよる女性は数知れず。思考回路がそのようになってしまうのも、自然の摂理かも知れなかった。
だがそんな悦に浸った思考も、すぐに美女によってぶち壊されてしまう。にっこりと見惚れるほど美しい笑みを浮かべた女がその顔のまま衝撃の内容を告げたからだ。
「だって、私がアイリーンですもの」
「え? え? ローン様、アイリーン様は私が先程見た方ですよね?」
横にいた令嬢が困惑したように聞いて来るが、それはローンも同じ。
「彼女には失礼ですが、アイリーンは貴女のようにスレンダーではありません」
「痩せたのよ」
いまだに信じられない様子の貴族達は目を向いた。まさか、本当にこの美女はあのアイリーンなのか!? と。早速、顔色を悪くするものもいる。それは、アイリーンを虐めてきた貴族達だ。
名を聞かれて、答えられなかったあの貴族達である。確かに、あのアイリーンが入ったトイレから、この美女は出てきたからだ。
「嘘だろ?」
小声だが、後悔の色が混ざった声音がローンの耳に聞こえてきた。
ローンは先程捕まえた貴族令嬢とよろしくやろうとしていた最中に、部屋の中まで聞こえて来る人の声に眉を顰めていた。
「ローン様、どうしたのでしょうか?」
「え? あぁ、なんだろうね? 私も分からないが、多分大したことではないと思うよ。それよりも……」
「いえ、でも……」
部屋の外が気になって、逢瀬に気もそぞろになってしまった貴族令嬢は、ローンの腕の中でもがいた。
ちっ、ダメか。
「一度確認して来るよ」
「私も行きますわ」
結局、お楽しみは台無しになってしまった。ローンは、そのことに機嫌を悪くしていたが表には出さない。感じ良く見えるよう、微笑みを浮かべ令嬢を部屋の外へと連れだした。
全く、大きな催しはないと聞いていたのに……
悪態を吐きながら、会場へ続く扉をくぐると何故か1箇所に人だかりができていた。そのほとんどは男性貴族で、熱心に誰かに話しかけているようだ。そして、女性も。
「おい、何があった」
「ん? あぁ、さっきめちゃくちゃ綺麗な女が夜会に来たんだよ。見たことない女だし、どこの貴族令嬢かってみんな、よってたかって聞いてるんだ。あわよくばってね。俺も今から行く予定!」
近くにいた友人はそう言うと、例の女がいると言う人だかりへと向かっていった。
「私も気になりますわ」
「あぁ、そうだね。私たちもーー」
"行ってみようか"そう言いかけた時、人だかりがローンの方向に割れた。何故か、男性から恨めしそうな視線がローンに送られてきているように感じる。
「⁇」
困惑したのは一瞬。
人だかりから現れたのは、息を呑むほど美しい女だった。ローンは庭の貴族達と同様に、女の容姿と体つきに見惚れる。
「ローン様」
「ーーなんでしょう?」
鈴を転がしたような愛らしく、美しい声にローンは聴き惚れる。
あの豚とは大違いだ。俺もこんな婚約者が欲しかった。
そんな事を思いながら、ローンはゆっくりと歩み寄って来る女を眺めていた。だが、次の瞬間ローンはピンチに立たされる事になる。
「お約束、覚えていますか?」
「なんのですか?」
「婚約を破棄すると言う約束ですよ」
「は?」
何を言ってるんだと、ローンを含めた他に集まっていた貴族達もポカンと美女を見た。
「失礼ですが、別の方と間違われているのでは? 私にはアイリーンという婚約者がいます」
「ええ、そうですわよ」
何を当たり前のことを、と言いたげな女にますますローンは頭を抱えた。
どう言うことだ? もしや、この女は頭がおかしいのか? 俺に惚れた?
確かに、ローンは顔が整っていた。そのため、言いよる女性は数知れず。思考回路がそのようになってしまうのも、自然の摂理かも知れなかった。
だがそんな悦に浸った思考も、すぐに美女によってぶち壊されてしまう。にっこりと見惚れるほど美しい笑みを浮かべた女がその顔のまま衝撃の内容を告げたからだ。
「だって、私がアイリーンですもの」
「え? え? ローン様、アイリーン様は私が先程見た方ですよね?」
横にいた令嬢が困惑したように聞いて来るが、それはローンも同じ。
「彼女には失礼ですが、アイリーンは貴女のようにスレンダーではありません」
「痩せたのよ」
いまだに信じられない様子の貴族達は目を向いた。まさか、本当にこの美女はあのアイリーンなのか!? と。早速、顔色を悪くするものもいる。それは、アイリーンを虐めてきた貴族達だ。
名を聞かれて、答えられなかったあの貴族達である。確かに、あのアイリーンが入ったトイレから、この美女は出てきたからだ。
「嘘だろ?」
小声だが、後悔の色が混ざった声音がローンの耳に聞こえてきた。
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