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本編

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「おい、久しぶりの婚約者様のご登場だぞ?」

 ツンツンと仲の良い侯爵家の息子に肘で突かれる。婚約者のアイリーンが王都へ来るのは約3年ぶりだ。久しぶりのその感覚に嫌気がさしながら、俺はへ、挨拶するべくホールを歩いた。

「まあ、お心を壊されたと聞いたのだけれど……何もお変わりないのね……」

「失礼だが、豚のままだな。くくく」

「うわぁ、ローン様お可哀想に」

 間違っても俺が豚に婚約破棄をしないように頼んだなどという噂は流れないように手を打った。今では、婚約破棄しようとしたが豚に引き止められた可哀想なローン様、で通っている。ダイエットして見違えてくるのかと思っていたが、豚は豚のまま、加えてさらに太ったようにも見えた。

 あんな奴が俺の婚約者で、将来は床を共にしなければならないなど、吐き気がする。だが、家のためには仕方がないのだ。ジュリも承諾してくれたし。

 せめて俺のために痩せようという気は起きないのか? 

「ごきげんよう、アイリーン?」

「まぁ、ローン様! 出迎えなくてもよろしいのに……」

 引きこもったからか、幾分自分を持ったようだ。コイツは、普通なら俺がエスコートしなければならないこの夜会を知らせなかった。来ることも知らなかった。

「とんだ恥をかかせてくれたな?」

「あら、そんなことないですわ」

 何がそんなことないですわ、だ。気持ちが悪い。いつもより汗臭くないが、それでもその近くにいるのは嫌だった。ましてや、手を握るなど言語道断。

「では、これで」

「ええ」

 いつものように・・・・・・・、挨拶をした後は別々の行動をとる。視界の隅に、豚を虐めていた貴族達がまた豚をからかおうと集まり始めていたが、無視した。いつものことだ。

「ふ、お美しいアイリーン様。私と彼方でお話しませんか」

 そのセリフを合図に、豚は数人の貴族令息たちに囲まれて庭へと向かっていた。思えば、豚に婚約破棄を言い渡された元凶はあの貴族令息達のせいだ。

 ほどほどにしてもらいたい。

 豚の両親に、その事が知らされないよう裏で報告を握りつぶすのも結構金がかかるのだ。

「ローンさまぁ。アイリーン様、久しぶりなのにいいんですか?」

「ん? あぁ、アイリーンはみんなで話すのが好きなようだからね。私には止められないよ」

「まあ、酷い! ローン様という方を婚約という契約で縛っておきながら、自分は男遊びをするなんて」

 最近デビューした令嬢たちはアイリーンがこれから何をされるのか知らないため、破廉恥な方で解釈しているようだ。あの巨体にそんなことできるはずがないのに。

「ふふふ、貴女はかわいいね」

「まあ! ローン様ったら!」

 寄りかかってきた令嬢の下心が分からないわけではないが、今夜くらいはいいだろう。あの豚に挨拶を返したご褒美とすれば、ジュリも許してくれるさ。

「ほら、ここは危ないからあっちの部屋へ」

「え!」

「私ではダメかな?」

「いいえ! 喜んで‼︎」

 そっと令嬢の腰に手を回す。

 ははっ、今回は当たりのようだ。
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